イメージの詩 第36回

深夜放送主義

 
 
えのきどいちろう
(第12号で「山田うどんの青春性、そして僕の非・青春性」を執筆)
 
 
 
 おお、『えのきどいちろうの深夜放送主義!』(TFM)を忘れるところだった。忘れてJ-WAVEに行きそうでしたね。これは画期的な番組です。タイトルに名前が入ったもんなぁ、パナソニック1社提供で、土曜日の25時からの1時間枠。相方は最初、西森マリーさんでけっこう洋楽寄りのコンセプトだった。次がレゲェシンガーのチエコ・ビューティーさん。チエコちゃんになってからはサブカル番組だね。

 僕はこの番組に関してはパナソニックが見誤ったと思うんだ。NHKの『土曜倶楽部』やったりして、一時的に僕の株が急騰したんだよね。マスコミ人名辞典みたいなやつのこの年の版に「糸井重里→いとうせいこう→えのきど、というカルチャーヒーローの系譜が見てとれる」かなんか書いてあって、勘弁してくれよと思ったもんな。たぶんそういうの真に受けて、パナソニックはうっかり予算つけちゃったと思うんだよ。
 

 

 西森マリーさんはすごい面白い人で、めっちゃ気が合った。ハードロック好きで、お父さんが長老派の牧師だか宣教師だか何かなんだけど(で、国籍がスコットランドなんだけど)、本人はカイロ大学出てイスラム教徒なんだ。話聞いていちいち面白い。エジプトの話とか最高だよ。僕は「バイリンガルDJ」みたいな人と縁遠かったけど、話してみたらお互い変人どうし、相性バツグンだ。

 チエコちゃんは純情で可愛かった。何にでも体当たりしていくようなとこがあって、がんばり屋さんなんだよ。スタジオにゲストを呼べたから、赤瀬川原平さん&南伸坊さんとか、川崎徹さん、橋口譲二さん、谷啓さん、阿川佐和子さん…、あ、三波春夫さんも来てくれたんだった。三波春夫さんにシベリア抑留の話を伺ったりしたなぁ。三波春夫さんが「幕が開いて照明がきらきらと…」って言うとね、言葉のイメージ喚起力がすごいからホントにその場がきらきらするんだよ。チエコちゃんとすごいなぁ、不思議だなぁって言ってたよ。

 FM東京はこの時期、方向性を模索してたと思う。その模索にうまくハマッて都合2年、番組やらせてもらった感じだな。模索は番組企画のブレ幅にも出ていて、西森さんの1年とチエコちゃんの1年がぜんぜん違う番組みたいなんだけどね、僕は場をつくってもらってすごく有難かった。まだ僕から打ち出すものは弱いんだよ。それはJ-WAVEや文化放送のほうがブーンと振り切ってる。だけどね、自分の番組持つ意味合いを教えてくれたよね。やっぱりそういうのは場数なんだ、場数踏んでだんだんわかる。

 パナソニック1社提供っていうのは、めっちゃ王道かつメジャー番組ってことなんだけど、これ全国のFM局でネットしてたんだよね。久留米の中学時代の同級生がクルマで聴いてるってレンラクをくれた。僕はびっくりしたね。昔はさ、久留米でKBCとかRKBとかをラジカセで聴いてたんだ。それが今は自分がしゃべっていて、それが久留米で聴けるっていうんだ。

 ラジカセで聴きたいなぁと強烈に思った。久留米市櫛原町の社宅の2階の部屋で。中学時代、『オールナイトニッポン』とかを聴いて、「深夜放送主義」を芽生えさせたんじゃないか。自分がどんな風に聴こえるか、まぁその、自分に尋ねてみたい。ん? 聴いてる自分は確かに自分だが、しゃべってる自分は誰だろう。っておい、「らくだ」か!

 あと、今にして思うと、こういうキャリアだから相方がいないとうまくしゃべれないんだなと思う。ひとりしゃべりが苦手で、ラジオのスタジオトークでも講演会でもちょっと無理してる感じになる。相方がいて、反応があってのトークだったら何とかなる。但し、反応が薄いと途端にしどろもどろになる。伝わってないんじゃないか、別のネタのほうがいいんじゃないかと不安になる。

 僕は聞き手がイメージを共有してくれると、まぁ、それなりにしゃべれるんだけど、興味なさそうったり、集中力が散漫だったりすると話が続かなくなっちゃうんだよ。一般人の生理としては自然でしょ。関心持たれてない相手に関心持たれてない話をするのはヘンだ。伝わってない不安があると、いっしょうけんめい言葉を探して、言い直してみたり、まぁ、原稿で言ったら「書きかけては直し、書きかけては直し」って感じのぎくしゃくトークになる。これは問題だなぁと思うけど直んないね。
 
 だから、まがりなりにもどうにかラジオの仕事がやれてるのは最高の相方に恵まれてきたおかげですよ。それはね、最初に名前のついた番組持たせてもらった頃からそうだったんだ。

 
 
 
似顔イラスト/日高トモキチ
 
 
 
-ヒビレポ 2014年1月27日号-

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