ちょっとプアンなタイ散歩 〜新婚旅行編〜 第5回


ゴリ子に首ったけ

吉野 歩
(第13号で「選挙事務所に混じる」執筆)
 
 
 

 
 国によってモテる顔、モテない顔があることは知っていたけど、よりにもよってタイでは「ゴリラ顔の女」が人気だなんてなぁ。それも厚化粧の結果そうなったんじゃなくて、化粧っけのない天然のゴリラ顔だ。頬骨が張って目も吊り上ってる、口はへの字。あと太ももが照り焼きチキンみたいにパンパン。そういうタイプだ。

 いや、たぶん一般的な話じゃない。地下鉄で流れているシャンプーのCMとか百貨店のポスターだとか、街中で金のかかってそうな(顔と)ファッションしてる子たちは、どちらかというとBoAやKARAみたいな韓国タレント仕様のすっきりした風貌なのだから。じゃあ、「ゴリラ顔」はどこで需要を伸ばしているのかというと、それは娼婦の世界なんである。発見したのは、タイに初めて訪れた相方だ。

 我々が滞在していたスクンヴィット通りのソイ6界隈には、娼婦が信号機より狭い間隔で立っている。もちろんソイ22にも、30ぐらいにも、公園の門前にもバス停の脇にも立っている。関係あるかはどうか分からないけど、近くには「パンパン」という名前のイタリア料理店もある。春を買うことには寛容な国なのだ。
 もちろんそれには需要があるからで、やっぱり多いのは外国人。20代のころ最初に目に入ったのは、ゴルフルックの中年日本人ご一行様だったけど、これは同民族だからだろう。それを除けば、大部分が白色人種じゃないかな。あまりの数の多さにおったまげるが、多いってことは特に珍しくないってことで、そんなものはすぐに日常の風景として眼球と脳に溶け込んでしまう。ああ、またかよ。それ以上の感情は持てなくなる。
 ところが——。
 

 

「アングロ・サクソンはさ、ゴリラ顔の女が好きなんだね」

 初タイ旅行である相方の目には、違うものとして映ったらしい。この光景を2、3日間食い入るようにして見つめていた彼は、突然このような結論を述べたのである。ここは道路に面したオープンテラスのバー。私は相方を迎えに来て、マイタイを一気飲みした直後だった。ぶふっ?! 思わす鼻から数滴漏れましたよ。
 私が見分けられるのは白黒黄色ぐらいでしかないから“アングロ・サクソン”=白人ってことにしちゃうけど、相方の観察記録によると、どうも彼らは冒頭で言ったような顔の娼婦ばかり連れて歩いているらしいのだ。
 メジャーシーンのタイ美女ばかり追っていた私は、急にそんなこと言われたって納得いかない。こんな新参者の理論を野放しにさせておくわけにはいかないのだ。まだ昼間だったので二人で裏道の散策でもするつもりだったが、相方の発言により急遽、白人×タイ娼婦ウオッチングへと変更された。

 しかし、改めて観察すると納得。みんな本当にタイ人姉ちゃん好きなんだなぁ。アラブ人街の交差点で杖ついてたジイちゃんは、長髪のジャイアンがミニスカート履いたみたいな女子を連れてた。膝蹴りされたら、ひとたまりもないだろう。ハリソンフォードみたいなオッサンが同行させてた女の人も、ハンドバッグより石器が似合うような感じだった。
 ちょっと切なくなったのは、男たちがそんなゴリラ姉ちゃんにロマンスを求めていたということ。あのね、これは日本の風俗広告ご関係者にも言っておきたいんですけど、「恋人みたいな時間を過ごせます」ってあれ、売り文句として成立してるんですか? どうせ恋人じゃないじゃん。当の二人が一番よく分かっているのに、観客ゼロの密室でそんな茶番を演じなきゃならんとしたら、それはもう自我崩壊になりませんかね? そんな不毛な時間は1発でも2発でも多く射精することに回したほうがいいのではないかと、外野としてはそう思うわけですけど。これを読んでる男性の皆さん、どうなんすか? 恋人「みたいな」時間は、やっぱ必要なんですかね?
 
 そんな激情を掘り起こすぐらい、白人男たちのアタックぶりは熱烈だった。
 まずはレストランの屋外席にて。バンドの生演奏に誘われた(風に装った)のか、ひとり席を立ち陽気に踊り出すロマンスグレーの旦那。普段こんなことしないけど、気分が高揚してたんでしょうね。腰の振りも明らかにぎこちない。「さぁ君も」と傍らのゴリ嬢に手を差し伸べるが、ゴリ嬢ガン無視。酒と料理だけが友達さ。
 元副首相でありMr.コンドームこと、ミーチャイ・ウィラワイタヤがオーナーのタイレストラン「キャベジズ&コンドームス」で見かけたカップルは、男が珍しくイケメン。そして、向かい合った女性(黒いワンピースは今どきだが、中身は純正ゴリ)の手を握って、熱く口説いている。その瞳を見つめるゴージャスゴリ子。これは脈ありか!?
 いくら仕事とはいえ、ここまで美しい男に情熱をぶつけられればまんざらでもないはずだ。がんばれ男。私と相方は、観察の域を超えて彼を応援した。気分はボクシングの観戦だ。しかしその希望は、不意に訪れた男の尿意によって撃沈。男が席を立った瞬間、ゴージャスゴリ子がすっげーつまらなそうな顔してスマホいじくり始めたからだ。だめだこりゃ。

 お・も・て・な・し? 知るかボケぇ。決して媚びることをしないゴリ子たち。強いぜ、かっこいいぜ。見てるとスカっとするぜ。
 ゴリラと名付けた背後には、彼女らに「飾る」とか「魅せる」という要素がないことも含まれているんだけど、ちょっと考えてみればそれは「余力がない」ということなのかもしれない。飽食の国に生きる人の一時的な荒稼ぎとは違うのだ。でも、だからこそみなぎる生命力。それゆえに、ぬるま湯でたるみきった異国人たちは惹かれるのかもしれない。
 「恋人みたいな時間」は永遠に手に入らないですけど、そこはまぁ適当にあきらめてください。やっぱり必須ですか。しつこいか。
 

※写真の女性はただの売り子さんです。若干ゴリの要素があったので、ご参考までに載せてみました
 
 
 
-ヒビレポ 2014年1月30日号-

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