ちょっとプアンなタイ散歩 〜新婚旅行編〜 第6回


タクシー・インテリア

吉野 歩
(第13号で「選挙事務所に混じる」執筆)
 
 
 
 これはあまり人前で話すと、心の狭い人間だと揶揄されそうな気がして黙っていたのだが——、昔から「出窓」というヤツが嫌いだった。さすがに「この世すべての出窓」というわけではなく、「ぬいぐるみが家の外に向けて陳列されているパターン」限定だ。見たことないですか? 道路から見ると、ショーウインドウみたいになってるやつ。歩いていると、たまにあるんですよ。
 ミッキーマウスやキティちゃんをはじめとする擬人化動物に、ガンを飛ばしながら考える。アレはなぜ、部屋の中に向いていないんだろう? だって部屋にいたらぬいぐるみの後姿しか見られないのに、あえてそのつまらない選択をする理由とは? などと想像していると、最終的には「幸せな家庭のPR」とか「通行人を対象とした自己顕示欲」みたいなものにたどり着いちゃって、空き缶のひとつも蹴りたくなってしまうのだ。
 あ、ぬいぐるみの尻を眺めるのが日課のご家庭あったらスミマセン。

 一方、いいのか悪いのか、他人様の目を無視した飾りつけを行うのはタイのタクシーである。その外装は真っ青、オレンジ、ショッキングピンクなど、近隣の国に負けず劣らずめっぽう派手なのだが、内装も負けていない。彼らの熱意は「安全性」や「乗り心地」ではなく、あくまで「たくさんのアイテムを飾り、車内を自分好みにすること」に傾けられている。座席のシートが破れようが、高速道路でスピードメーターがゼロのまま作動しなかろうが、おかまいなし。客のことはあまり考慮せず、「俺様の世界観」を自由に実現させるのがタイ流なのである。
 ここでは代表的な飾りつけを紹介しよう。
 

 
 
■その1 フィーリングで選ぶ花輪
 

 
 もしあなたがタクシーの運ちゃんになったら、勤務初日、まずは花輪(プアン・マーライ)を購入しよう。これはお守りのようなもので、花でできた数珠をイメージしてもらうと分かりやすい。精霊を祀る「ほこら」やお店、一般家庭などタイの生活空間にはなくてはならないものだから、屋台などで簡単に手に入る。バックミラーやメーターの出っ張りにさりげなくかければ、たちまちベテランドライバー。ジャスミンの花が組み込まれているので、香りもいいぞ。
 うっかり買い忘れた場合も、慌てる必要はない。車道では信号が赤になると、かわいい売り子さんがやってくる。窓を開けて彼女を呼び、フィーリングの合う花輪をゲットしよう。
 また、飾るのは1本でも充分だが、先輩の中には20本近くの花輪をバックミラーにぶら下げている兵もいる。それもサイドブレーキに届くほどのデラックスサイズだ。車の左側がまったく見えなくなるが、「男の空間」が潤うことを考えればやむを得ないだろう。それでも先輩は元気に運転してるんだから、ある意味、熟練技術の証明になるのかもしれない。
 

■その2 とりあえず仏に守ってもらう
 

 
 ダッシュボードはもとより、天井も重要なデコレーション・スペースだ。以前、シャンデリアのようなルームランプの周りに、無数の動物フィギュアをはべらせているタクシーを見たことがあるが、ベーシックなのは仏教系のお札やまじないである。
 上の写真の模様は「タンブン・ロット」と呼ばれていて、交通安全を祈願するもの。お坊さんがお祈りをした後に、指などでぬりぬり描いてくれる。運転手の頭上にこれがあるのだが、どことなく特別に守られている感じがしてうらやましい。
 よく考えてみたら、仏に頼む前に、まず現実的にできることがたくさんありそうなのだが(信号無視をしない、車をきちんと整備する等)、そのつもりはないらしい。
 

 「おれひとりじゃ、荷が重いわい」と、ダッシュボードでぼやく仏様。
 

■その3 最近の流行は……
 

 
 光を受けると、ゆらゆらと不規則に揺れるおもちゃ。これを落ちないようにガムテープでくっつけている車が結構あった。
 

■その4 もはや装飾じゃないけど
 

 
 後部座席にも観賞ポイントはある。写真は、乗車中の禁止事項。あなたはいくつ分かっただろうか。煙草、飲酒、ペットは万国共通。ドリアンや銃器もなるほど。
 だが——、左から3番目のアレは!? 聞くところによると、どうやら盛り上がった外国人が、車内で「始めて」しまうらしいのだ。しかし後部座席だと、この体勢は少々辛い気がするのだが、それはユニバーサルデザインゆえ仕方ないだろう。
 あと、うっかりしがちですが家畜もダメです。「俺様の空間」が臭くなります。タイのタクシー・インテリアは、お前のためにあるんじゃありません。俺のためにあるんです。
 今日はそれだけ覚えて帰ってください。
 
 
 
-ヒビレポ 2014年2月7日号-

Share on Facebook

タグ: Written by