今朝はボニー・バック 第33回

高校受験スベったら(後編の中)

ボニー・アイドル
(第11号で「原稿料よりバイト料が多くても、ぼくは断然ライターだ!」執筆)

 
 
 
下校のチャイムが鳴るや、廊下でおしゃべりしている女子のスカートを巻き上げるほどの風を起こして校門まで駆け抜け、1時間後には自宅の居間で「古畑任三郎」の再放送を見ているSeventeen’s Map。それがあの頃のぼくだ。
こんな不毛な生活を送るハメになったのも、同級生たちに自分が1コ年上であることを白状しなかったのがすべての原因だ。人一倍高校生活に憧れていたクセに、どうしても「年上である」というしょーもないプライドから抜け出せない。その殻は日一日ごと固くなり、ますますぼくは抜け出せなくなっていった。同級生からは腫れ物をさわるように扱われ、同い年である1学年上の生徒には「オイ、あいつ、いやに老けてねえか」とささやかれる日々。

同じ中学出身だったAに廊下でばったり会ったのもそんな頃だ。
「なあ、ノボ」と、Aは親しげに話しかけてきた。ノボとは、中学時代のぼくのあだ名だ。なんせ、下の名前が「登」なもんで。
「ノボ、一緒に学校辞めねえか」
Aは進学校に入るくらいだから中学時代から成績が良く、生徒会の役員もしていた(ちなみに、ぼくはその上の立場の生徒会副会長をしていた)。といって真面目一辺倒なわけでもなく、ある程度の不良性も兼ねそろえていたので、どの生徒からも一目置かれる存在だった。そんなAが学校を辞めたがっている。
「なんで?」とは聞けなかった。
「あのなぁ、オレは一浪して入ったんだぞ。なんで辞めなくちゃいけないんだ」というぼくの返事にAがなんて答えたのかは忘れてしまった。ただ、3年に進級する前にAが学校を辞めたのはたしかだ。

ぼくは1年生の段階から、「早く卒業したい」とは思っていた。ただ、「辞めたい」と思ったことは一度もない。今の状況はどうあれ、自分が望んで入った学校である。辞めたところで他に行くアテもない。石に齧りついてでも卒業する。そのためだけにぼくは学校に通っていた。それに、いくらミソっかすの立場とはいえ、1年365日がつまらなかったわけではない。少ないながらも同学年に友達はできたし、片想いとはいえ新しい恋もした。今回は、そんないくらかマシな日々に焦点を当てるため、高校生活をさまざまなシーンごとに紹介したい。
 

 

○ 学業編
まず、学業だが、前回も書いたように、誰がどう見ても落ちこぼれそのものだった。特に、数学や化学、物理といった理数系の科目はてんでダメで、定期テストは二桁いったらマシな方。毎回、追試こそが本番の角番力士。
全教科の追試の内容はさすがに覚えていないが、数学に限っていうと「チャート式」という問題集の中から出たような気がする。ぼくは成績がいくら悪くても屁でもないという態度だったので、この追試にもしょうちゅう落ちていた。しかし、年度末の追試だけは別である。なんせ、進級がかかっているのだ。
数学教師のKは、年度末の追試にも落ちた生徒に最後のチャンスとして「追試の問題を自力で解き、採点までして提出しろ」という課題を命じた。ただし、この再追試ではチャート式の解答を丸写ししないよう、点数よりもむしろ答えを導き出すまでの手順を重視するという。なんとも進学校っぽいやり方である。
クソ成績が悪かったぼくだが、この再追試に落ちたことは一度もない。なぜなら、毎回、解答用紙を完璧に「それらしく仕上げ」ていたからだ。問題自体はチャート式から出ているので、Kが言ったように、答えを写すのは造作もない。ここからがプロとアマとで腕の違いが現れるところで、ぼくは回答欄の脇に試行錯誤をしたような計算式を書いたり、何度も消しゴムでこすったような痕をつけたり、こすりすぎて切れてしまった箇所を裏からセロテープで補強したりして、完璧な「汚し」を付けていった。赤ペンでの自己採点も多めに○をつけるようなことはせず、「少しは努力のあとが見られるかな」ぐらいに止めておく。
平成の贋作師の手腕に、普段はぼくを目の敵にしているKもコロリとだまされたようで、解答用紙を見ながら「やればできるじゃないか」とつぶやいた。

理数系の科目は苦手だったぼくだが、小さい頃から本を読んできたことで読解力がついていたのか、現国や古典の成績は悪くなかった。まったく勉強せずに挑んだ全国共通模試で100番以内に入ったこともある。さらに、この能力は思わぬところでも生かされた。美術の課題として提出した絵が、県のコンクールに入選したのだ。
課題は「読書感想画」という、要するに好きな本を読んでその感想を絵で表現するというもの。絵を描くために新しい作品を読むのはめんどくさかったので、題材はずいぶん前に読んだ開高健の「パニック」にした。
提出期限が迫った日の早朝、ぼくはそれこそ頭がパニックになりながら、数十匹のドブネズミが走り回る様子をほとんど茶色の絵の具一色で画用紙いっぱいに塗りたくると、まだ絵の具が乾かない状態のまま「集団心理の恐ろしさを表現しました」というテキトーな説明文を裏に貼付けて提出した。その絵が佳作といえまさか賞をもらうとは。学年でコンクールに入選した生徒はぼくともう一人だけだった。あの絵はもう捨てられてしまったのだろうか。もしまだ母校の美術室に残っているなら、買ってでも手に入れたいと思っている。

また、普段の授業の成績は理数系の科目と大差なかったが、英語もテストだけに限って言うと、それなり(赤点ギリギリのラインだけど)の点数を取っていた。得意にしていたのは、英文を和訳する問題だ。例えば、問いが「Emily〜」といった単語で始まるとする。これだけを頼りにエミリーが何をしたのか想像するのだ。
 
エミリーは海外の携帯電話の普及率が日本に比べてかなり低いことに驚きを隠せませんでした。
 
まるっきり見当はずれの答えを書いていることがほとんどなのだが、10問中1問ぐらいは部分的にかすっている時もある。それで10点満点中3点ぐらい貰えたらしめたもんである。
しかし、いくら小手先の技術に長けていたところで、全体的な成績が上がるほど進学校は甘くない。3年間を通じてぼくのワースト成績は、学年320人中319位。つーか、オレより下のヤツは誰だったんだ。

○女子との関わり編
予備校時代、カズ、三浦カズに似ていることから「カズさん」というあだ名で呼ばれていたように、自分でいうのもなんだが、ぼくのルックスはそれほど悪くなかったんじゃないかと思う。ただし、それも高1の1学期ぐらいまでで、その後は部活はおろか、学校をサボりがちになったぼくに業を煮やした両親が毎日車で送り迎えをするようになったことから自転車通学すらしなくなり、ぶくぶくと醜く肥えてしまうのだが。
で、まだマシだった高校入学当初、「ひょっとしてオレ、モテてる?」と思うような出来事が一瞬あった。相手はクラスメートのSさん。女優でいうなら仙道敦子や深津絵里風の、涼しげな目元に黒髪ショートカットが似合うナチュラルビューティだった。このSさんがですな、休み時間に向こうからワテに近寄ってきて声をかけたんですわ。
その内容は全然覚えていないが、その様子は少なく見積もっても「ぼくに興味がある風」だった。結論から言って、高校3年間を通してこんなチャンスが巡ってきたのもこれっきりだった。そうとは知らず、ぼくはSさんと一言二言会話を交わすや早々にその場から離れてしまったのだ。1コ上という素性を隠している負い目もあっただろう。しかし、それ以上にぼくの気持ちにブレーキをかけたのは、中学時代から好きだったYさんの存在だったと思う。

ただ、高校時代ずっとYさん一途だったわけではない。他に好きになったコもいた。クラスメートのHさんとは、ハイロウズが好きという共通点があった。どんな流れから会話が始まったのかは忘れてしまったが、二人でハイロウズについて盛り上がったことがある。それまでHさんを意識したことはなかったが、よく見ると、涼しげな目元に茶色がかったショートが似合うナチュラルビューティだった。小柄な体に似合わず、胸も大きい。Sさんには付いてなかったオプションだ。
1999年9月9日、秋田県児童会館で行われるハイロウズのライブに、ぼくは思い切ってHさんを誘うことにした。無謀な賭けのように思われるかもしれないが、ぼくはとっておきの切り札を持っていた。ファンクラブ会員限定の優先チケットである。1年前のライブに行って以来、ぼくはハイロウズのファンクラブに入っていたのだ。二人で、一般販売のチケットより良い席で間近でライブを楽しもう。誘い文句は決まっていた。
しかし、Hさんから返ってきたのは、「ごめん、そのライブは(同じクラスの)T子と一緒に行くの」。ぼくは心の動揺を押し隠し、「じゃあ、向こうで会ったらよろしくね」とだけ言って引き下がった。結局、会員特典を使って取ったチケットは一枚だけ。ステージから6列目という最高の席でぼくはライブを楽しんだ。
 

 
 
ぼくの高校時代の恋愛話はこれで以上である。恋愛というよりも、「青春ノイローゼ」(byみうらじゅん)といった方が正確かもしれないが。
ここで、時間はぼくの高2の三学期、2001年3月までぶっ飛ぶ。ぼくにはどうしても決着をつけなければならない相手がいた。そう、ぼくより一足先に卒業していくYさんである。告白しようなんて気はさらさらない。ただ、一言「卒業おめでとう」と伝えよう。その一心で、卒業式後、ぼくは校門前でYさんが通るのを待っていた。
1時間も待っただろうか。ぼくはYさんに会うのを諦め、高校と駅前を巡回するバスに乗り込んだ。車内は卒業生とおぼしき生徒でいっぱいだった。なんとか車内後方に体を滑り込ませて出発するのを待っていると、Yさんが数人の友達共に乗り込んできた。
Yさーん。
車内は騒がしかったが、ぼくの声にYさんは気づいた。車内前方からこっちに向って手を振っている。
突然の登場に照れくさくなったぼくは千円札をひらひらさせて「これ、両替機で両替してほしいんだけど」と叫んだ。
「混んでるから無理だよお」とYさん。
会話はそれっきりだった。友達と共に駅前のビルに消えていくYさんの姿を見送った後、ぼくもバスを降りた。MDウォークマンのイヤホンからは、イエローモンキーがぼくの気持ちを代弁するように「卒業おめでとう」と歌っていた。
 
「プライマル。」THE YELLOW MONKEY

VERY GOODだいぶイケそうだ
旅だったら消せそうじゃん
今度は何を歌おうか
卒業おめでとう ブラブラブラ
手を振った君がなんか大人になってしまうんだ
さようならきっと好きだった
ブラブラブラ…

 
 
 
-ヒビレポ 2014年2月12日号-

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