今朝はボニー・バック 第37回

鎌倉の男をさがせ!

ボニー・アイドル
(第11号で「原稿料よりバイト料が多くても、ぼくは断然ライターだ!」執筆)

 
 
 
昨年9月、「白い巨塔」「華麗なる一族」などで知られる小説家・山崎豊子が亡くなった。綿密な取材と膨大な資料に基づいた社会派ドラマを描き続けた彼女に生前、どうしても訊きたかったことがある。
「鎌倉の男の住所教えてくれ!」と。

鎌倉の男。
川崎で女なら買ったことはあるけど、鎌倉の男なんて知らねえなァ。
こんな、男一匹桃次郎な読者にために少し説明しておくと、「鎌倉の男」とは山崎豊子の小説「不毛地帯」「華麗なる一族」や80年代のドラマ「スケバン刑事Ⅱ少女鉄仮面伝説」に登場する老人である。これはウィキ情報だが、太田忠司の小説「新宿少年探偵団」や田中芳樹の小説「創竜伝」にも同じような人物が出てくるらしい。
作品ごとに呼び名やディテールは若干異なっているが、共通する特徴は次の3点。
① 鎌倉またはその周辺に居を構えている
② 高齢
③ 総理大臣とホットラインでつながり、電話一本で日本の政財界を操る
つまり、日本の黒幕(フィクサー)——それが鎌倉の男。
「年の頃、六十二、三歳にもかかわらず、頭髪を染めているのか、髪はあくまで黒いオールバックで、虫も殺さぬ紳士然たる風貌でいながら、幕夜ひそかに大企業の経営者や実力政治家を思いのままに鎌倉の自宅へ呼びつけ、日本の政財界のダーク・サイドは、彼を中心として動いているといわれるほどの黒幕的人物であった」(『華麗なる一族』より抜粋)
 

 

この特徴を踏まえると、作品中「鎌倉の男」という呼び名では登場しないが、小松左京の小説「日本沈没」に登場する「渡老人」も鎌倉の男と断定してもいいのではないかと思う。作中、渡老人は日本沈没から国民を救う「D-1計画」のスポンサーと政府へのはたらきかけをする役割をもつ。
「あの懇談会の直後、彼は邦枝といっしょに、渡老人にひきあわされた。——その時彼は、一見ひからびて小さく見える老人の姿の背後にひそむ、一種のはげしい精神力と、彼に短く、的確な質問をあびせてくる、百歳というのにちっともおとろえていない、頭の鋭さにおどろいた。(中略)百歳の隠者のような老人が、今なお、政治の中枢に何らかの影響力をもっている、ということは、それ自体が、幸長にとって、おどろくべきことだった。——彼は、老人が首相を茅ヶ崎の自邸に呼びつけ、ほんの二言三言で、この計画の実行を決意させるところを、自分の眼で見た。老人の身辺に、得体の知れない人物や、眼つきの鋭いボディガードらしい男や、これまた得体の知れない、若い美しい娘がいるのを見た」(『日本沈没』からの抜粋)
渡老人の家が鎌倉ではなく茅ヶ崎だったのにはぼくも焦ったが、茅ヶ崎なんて藤沢を挟んで鎌倉の隣町である。たいして違いはない。
また、黒澤明の映画「悪い奴ほどよく眠る」を思い出してほしい。ラストの、土地開発公団の汚職を暴こうとした側近で娘婿(三船敏郎)を始末した副総裁(森雅之)が電話ですべてが丸くおさまったと報告するシーン。電話の向こうにいる人物こそがタイトルを意味する“悪い奴”であり、鎌倉の男なのか?

鎌倉の男のモデルは諸説ある。児玉誉士夫説や田中清玄説が最も有力だが、鎌倉からほど近い大磯に自邸があった吉田茂の線も捨てがたい。岸信介、西園寺公望もそれぞれ別荘を御殿場、興津に構えていたが、鎌倉からは遠すぎる。瀬島隆三、四元義隆、大谷貴義などがあやしいのではと推理するひともいる。
ただ、ぼくはそれほどモデルとなった人物にはそんなに興味がない。水木しげる先生が妖怪を愛するように、ぼくは鎌倉の男にロマンを求めているのだ。カッパの正体はカワウソでした、なんていわれても興ざめするだけだ。鎌倉の男も、モデルが誰であろうとどうせそこらにいるようなじいさんと大差ないに決まってる。それよりカッパはカッパ、鎌倉の男は鎌倉の男と思っていた方がずっと楽しい。

ただ、冒頭いったように、鎌倉の男がどこに住んでいるのかには興味がある。矛盾するようだけど。まぁ妖怪も、油すましなら熊本、キジムナーなら沖縄とそれぞれ生息地が決まっていることだし。場所探しもロマンのうちってことでひとつ。
で、その男が住んでいる場所だけど、当然、鎌倉市内なことは確定だ。しかし鎌倉といっても広い。これ以上絞るのは難しいと思われた。が、案外簡単にヒントが見つかった。山崎豊子の小説「不毛地帯」に、「極楽寺谷にある“鎌倉の男”の家は」とある。
早速ヤフー地図で「極楽寺谷」と検索してみるも、該当する場所なし。特定されないよう地名を偽ったのだろうか。ただ、由比ケ浜の西に「極楽寺」という町はあり、その中に極楽寺谷に似た名前の「極楽寺坂」「極楽寺馬場ヶ谷」という土地がある。極楽寺谷はこの2つの土地のどちらかなのではないだろうか。鎌倉の男にかなり近づいた感はあったが、ネットでの探索はこれが限界のようだ。とりあえず、地図にぼくが目星をつけたエリアを赤ペンで囲っておく。
 

 

最後に、鎌倉の男のビジュアルについて、前述挙げた小説の中から映画化された作品やドラマに出てくる出演者と共に紹介したい。鎌倉の男が登場する作品は以下のとおり。

「不毛地帯」
 1976年映画版 後ろ姿のみ(クレジットなし)
 1979年ドラマ版 内田朝雄
「華麗なる一族」
 1974年映画版 佐々木孝丸
「日本沈没」(役名・渡老人)
 1973年映画版 演・島田省吾
 1974年ドラマ版 演・中村鴈治郎
「スケバン刑事Ⅱ 少女鉄仮面伝説」 森塚敏(役名・信楽老)

この中で映像を確認できたのは4作品で、役者たちは鎌倉の男をそれぞれ次のようなルックス、ビジュアルで演じている。
 
○ 1976年映画版「不毛地帯」

 
○ 1974年映画版「華麗なる一族」


 
○ 1973年「日本沈没」

 
○「スケバン刑事Ⅱ 少女鉄仮面伝説」


 
最初の1976年映画版「不毛地帯」では後ろ姿でしか登場しないが、原作にあるように、床の間には大小の刀2本が置かれ、「天照皇大神」と揮毫した軸がかっている。誰に何を指示しているのか、鎌倉の男をキャラづける黒電話もバッチリだ。背格好やゴマ塩頭からはなんとなく、1977年版「悪魔の手毬唄」で風呂に入っていた中村伸郎を思わせる。
上記以外にも、2006年映画版「日本沈没」、2007年ドラマ版「華麗なる一族」2009年ドラマ版「不毛地帯」と近年リメイクされた作品はあるのだが、鎌倉の男は登場しない。「政財界を意のままに操る日本の黒幕」という存在は現代ではリアリティがないと製作側は思ったのだろうか。ぼくも現実の世界では会いたいとは思わないが、せめてフィクションの中だけでもロマンを感じていたい。いつか映画界、ドラマ界に鎌倉の男が復活することを祈りつつ筆を置きたい。
 
P.S そのときは、鎌倉の男の身辺の世話をしている“得体の知れない、若い美しい娘”(たぶん和服&黒髪ショート)役には、能年玲奈ちゃんか卓球の石川佳純選手を推薦します。

 
 
 
-ヒビレポ 2014年3月12日号-

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