イメージの詩 第44回

意気揚々と意気消沈

 
 
えのきどいちろう
(第12号で「山田うどんの青春性、そして僕の非・青春性」を執筆)
 
 
 
 文化放送の朝ワイドはプラス面とマイナス面、両方あったんだよ。マイナスでいちばんパッと思い浮かぶのはナンシー関とケンカしたこと。ナンちゃんは僕が「志の輔の後がま」(『えのきどいちろう意気揚々!』が始まるまで、文化放送の朝ワイドは『志の輔ラジオ 気分がいい!』だった)をやることに大反対だった。確か開始直前の2月か3月くらいに雑誌の座談会で一緒になるんだけど、「何でえのきどさんがそんな仕事するのかわからない。いっそ何か狙いであってほしい」と大変な剣幕だった。

 僕ははぐらかす感じで「選挙には立候補しませんよ」と軽口を叩く。そしたら「そんなこと言ってねーよ!」だもんな。よっぽど文化放送の朝ワイドは僕に似つかわしくないと思ってたみたいだ。

 たぶんナンちゃんはデビューのいきさつもあって、ライターえのきどにもっと仕事してほしかったんだと思うな。そこら辺はけっこう感情的だった。まぁ、こっちにしたらやることが決まった仕事だ。もう、QRの人が持ち場持ち場で動いてる。文句言わないで、気分よく送り出してくれよって感じだよね。
 

 

 だけど、ラジオのオビ番組を持つのは意外なくらい冷ややかな反応をもたらした。いや、意外だよ。だって僕はFMで週一とはいえ番組持ってたし、その前はTVにも出てたんだよ。「タレント文化人」への嫌悪感とかバッシングだったら、もう既に向けられてていいじゃん。今さら何だよ。週一は良くてオビは「電波に魂を売った」か?

 面と向かって「毎朝早起きですか。サラリーマンみたい」とか「タモリみたいですね」とか嫌味を言う編集者がいた。あ、この場合の「タモリみたい」はdisってんのね。まぁ、「密室芸のタモリ」が昼の顔として淡々と仕事をこなしてるように、『宝島』出身のライターが安定した収入に転んだ的なdisり方かな。おそらくそんなこと言ってた奴だって、2014年3月現在、タモリさんリスペクトなツイートとかしてんじゃないの?

 で、僕はどう考えてたかというと、この仕事はラジオを聴いてない人にとっては「ない」のと同じだから気にすることなんてないな、だ。ラジオってそうでしょう。テレビだったら「たまたまつけた番組を見る」状態ってあるけど、ラジオははっきりしてる。聴くか聴かないか。聴いてる人にとっては「ある」ものが、聴いてない人には「ない」。存在しないのと同じだ。

 ラジオは不思議なメディアで、味方にしか気づかれないんだね。タクシーに乗ったりして、「あれっ、えのきどさんですか?」と声バレ(?)することはあるんだけど、つまり、そのケースは運転手さんがリスナーなんだ。それ以外は何もなし。存在しない、やってないのと同じ。だから僕はすましてればいい。ラジオ以外の仕事でゴンゴン勝負してればいい。

 ま、ナンちゃんは親戚みたいな感情でものを言ってたんだと思う。えのきどはクリエイティブな仕事しろってことだね。この時期から彼女とはちょっと疎遠になる。といってうちの奥さんはナンちゃんの友達だから、二人では色々話してたみたいだけど。

 でもね、文化放送をやって僕は自信がつくんだよ。プラス面はあまりにも多いから書ききれないんだけど、まず、「稼動域」って股関節とかで言いそうなフレーズが浮かぶなぁ。アイデアを立てて、それを形にしていくってことの領域がもんのすごい増えた。未知の領域の出力っていうのは出さないかぎり出ないんだなと思った。

 あと、リスナーだよ。後になって、えっ、この人まで番組聴いててくれたんだってことがあるんだ。ラグビーの取材に行って、清宮克幸さんから「日ハム(笑)」って言われたときは仰天したよ。サントリーの営業車で番組聴いてくれてたそうだ。ま、端的に言ってこういうことだよ。顔ができる。そのときは夢中でやってるだけなんだけど、後になって色んなことがラクにまわるようになる。文化放送やったおかげで後に実現した仕事って数えきれないよ。

 
 
 
似顔イラスト/日高トモキチ
 
 
 
-ヒビレポ 2014年3月24日号-

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