どす黒い私 2 鋼鉄のパン屋さん、いざ出陣!編  最終回


 
和田靜香
(第13号で「ホドがある! 新聞一面トップ どうして私が?!」を執筆)

 
 
 
 今やパン屋で働いていたことなんて遠い昔、のようにさえ感じられるが、クビを言い渡されたその日の夜、都知事選での宇都宮選対の反省会の帰り道、いっしょに選対を手伝っていた、仲良しのはなさんと松屋で夕ご飯を食べた。

 牛丼にいつもは「ぜいたくだ」とつけないサラダ(100円)もつけた。
「またバイトしなきゃな」
 遠い目をして私がいうと、はなさんは「牛丼 小」をもぐもぐしながら、
「和田さんさぁ……またバイトするぐらいなら、杉並区議になりなよ」
 いきなりはなさんが言い出した。
「へっ?」
 はなさんの突然の言葉に一瞬驚き、1秒後にゲラゲラ笑った。
「それ、すげええ。パン屋クビになったら区議会議員。それ、すげえええ」
 爆笑しながら味噌汁をすする。しかし、はなさんは、
「アタシ、勝手連作っちゃうから」
 とかいう。

 じょ、冗談にならない。はなさんが言うと、冗談にならない。何せはなさんは市民運動の達人ていうか。私のように気分で動いて、「ちょっとやろうかな」みたいな人間とは違う。年季が違う。何十年も地道に色々な活動をして、今は毎週金曜日に国会前でやっている反原発の抗議行動で司会をしている。あのスピーチ・エリアで菅直人にも細川殿様にもマイクを渡したのは、はなさんだ。でもガチガチの活動家みたいなタイプじゃなくて、バランス感覚に優れた人で人望が厚い。そんなはなさんが勝手連なんて作って応援したら、こんな私だろうが、金髪でツケマーびろびろ、電車内でメイクしまくる25歳女子だろうが、もう誰だろうが、全員間違いなく明日から区議! いや、下手したら、都議ぐらいになっちゃいそうだ。
 

 

「和田靜香、和田靜香、和田靜香でございます〜〜」と冗談を言い合いながら、牛丼をペロリと食べた。ありがとう、はなさん、そんな風に慰めてくれて、と思った。

 松屋は前の日の大雪で輸送がストップして、在庫切れ気味。次々やって来るお客さんに40代後半の、私と同年代っぽいバイトの男性が「すみません、今日はもう牛丼しかなくて。雪でね。来なかったんですよ」と、ブタ系とか他のものを注文してるお客さんに謝っていた。ペコペコと20代とおぼしき若いお客さんたちに頭を下げるオジさん。バイトは大変だ。みんな一生懸命に働いてる。

 またバイトしなきゃ。

 バイトは生活のかかる必須条件で、私はまたさっそくバイト探しを始めた。友達に「バイトに理想は求めるな」と言われたことは胸の奥に残しつつも、やっぱりついつい「チェーン店はなぁ」とか、「スーパー惣菜部とかいいけど、派閥あるかもなぁ」とか色々考える。それで、まずは近所のお弁当屋にめぼしをつけた。お弁当を買いに行ったら、
「50歳ぐらいまで。お昼のお弁当作り補助 パート募集」
 というのが貼ってあって、そこはすごくおいしい手作り弁当屋だからいいかな?と思った。でも、よくよく考えると今住んでる家はどうしたって1年以内に引っ越すつもりだから、家から近所のそこは次に引っ越したら通いにくい。さらに、そこのオバちゃんはすごく感じいいのだが、どうやら一緒に店をやってるらしい息子が神経質そうで、自転車の止め方とかいちいちうるさい。しかも顔がどことなく逆切れメタル・パン屋店長に似ている。身震いっ。ダメだ、ダメ。ここはダメ。即刻却下。

 次にふと思い出したのが、荻窪ルミネにあるイタリアンだった。以前、家探しをしてるときに友達のシモマンと入ったそのレストラン。すごくおいしくて、そんなにバカ高くなくて、働いてるオジさんなど給仕の人もナイス。雰囲気が良くて。パン屋みたいにガサガサとガキんちょが飛び込んできたりしなくて、ああ、そこで働きたいなぁと思って、何気なくツイッターにそのことを書いた。
「荻窪ルミネのラ・ヴォーリアマッタでバイトしたい」

 そして数日後。いきなりツイッターのタイムラインに
「隣の店の者ですが、店長さんがバイトがみつからないと嘆いてましたよ」
という書き込みがされていた。最初、これを見たとき、ドキッとした。パン屋の隣の店の人かと思ったのだ。私が辞めて、大学生のバイトちゃんたちも同時に辞めたはずだから、バイトが見つからず、それを隣の店の人が聞いて、もしや書き込んできた?と思ったからだ。やばっ。私の暴言の数々、タレこみされてるっ(笑)?

 でも違った。この書き込みをしてくれた人はそのイタリアン、ラ・ヴォーリアマッタの隣のレストランの店長さんだった。おそらく荻窪ルミネで検索して、私のツイートに引っかかったのだろう。おおおおっ! ラ・ヴォーリアマッタのウエブ・ページを見てもまったくバイト募集は出てなかったのであきらめていたのだが! ビックリ! 

 とりあえず店に電話してみようと思う。このネット時代らしいつながり。果たしてうまくつながるのだろうか? 思えば、前に2年バイトしたコンビニも、こんな風に「バイトするならこんな店がいいな」と思っていたら、急にバイト募集の告知が出て、応募したんだった。今度こそ、今度こそ、私の理想の(おいおい!)バイトは見つかるのだろうか? そして極上イタリアンのまかないとは?

 新しいストーリー、始まるかも?

 
 
 
 

-ヒビレポ 2014年3月29日号-

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