買ったなら読め! 第1回

あのトラベルミステリーの大家が

 
海江田哲朗
(第12号で「劇団カクスコ 11年後のカーテンコール」執筆)
 
 
 書店をふらふらするのが好きだ。最初に単行本と文庫の新刊コーナーをひと通り見て回り、雑誌コーナーをのぞき、あとは気ままに店内をうろうろする。そうしているうちに、欲しかった本を唐突に思い出し、店員さんに棚を訊ねたりする。

 僕の地元である立川には、オリオン書房が一大勢力を築いている。駅の周辺に4店舗あり、その時々で使い分けられるのが便利だ。いつもはだいたいルミネ店かサザン店。マニアックな本を探すときや、ひまでひまでどうしようもないときはノルテ店に行く。ここは規模が大きく、品ぞろえが抜群にいい。ふらふらすることにかけてはそれなりの自負があるのだけど、ここはそんじょそこらのふらふらでは通用しない。それに見合うだけの体力が要求される。時間が遅いときはアレアレア店。夜の12時まで開いているからとても助かる。

 インターネット普及以降、一時期の僕は情報疲れのような状態に陥っていた。せっせと情報を仕入れ、自分に必要なものと不必要なものを分ける作業をしていたんだけど、そのうち膨大な情報を処理しきれなくなった。それで、いつからかそのときの自分に必要なものは勝手に目に飛び込んでくるさ、と割りきった。本も同じ。書店をふらふら、電車の中吊り広告、新聞、雑誌、ネットの書評、知人の推薦。適度にアンテナを張り、あとは運まかせ。自分に縁のあった本を買う。

 だから、ぱっと目を引いた本に特別なものを感じてしまう。いま買っとかないと、今生の別れかもしれない。古書店では特にそうだ。何かと忘れっぽい僕は、店を出てからも記憶に留めておける自信がない。ちょっと気になるな、買っておくか。そんなふうに手に入れたのが、めっけもんだったときはたいそううれしい。財宝を発掘したような気分になる。
 

 

 そうした活動のなかで、扱いに困る本が出てくる。のちに役立つであろうと買っておいたり、たいした興味はないのに面白半分で入手したやつだ。タイトルに惹かれただけのキワモノ本もある。コレクターの趣味はないが、確保しておきたくなる一冊。その誘惑には抗いがたい。

 それらは読みたいと切望したわけではないから、自然、後回しになる。書棚の積ん読エリアに追いやられる。要するに、買った時点で満足してしまったんだ。

 この状況は、以前から看過できないと苦々しく思っていた。本の幸せは、読まれてこそ。一介の本好きとして申し開きが立たないし、どうにかして打破したい。よって今回のヒビレポは、積ん読の山をがさっと崩し、じゃんじゃんレビューしようという企画である。こういう機会を無理やりにでも作らないと、一生読まないままで置きざりにされかねない。

 さあ、いくぞ。最初のターゲットはこいつだッ。
 

 
 西村京太郎の『十津川警部シリーズ 消えたなでしこ』(文藝春秋)。トラベルミステリーの大家が、女子サッカーを題材に選んだ。まったく、大胆すぎるぜ。西村作品を読むのは、いつ以来だろう。たしか中学生の頃、父親が買ってきたのをもらって読んでいたから、およそ30年ぶりか。

 カバーのそでにあるあらすじに目を通しただけで、頭がくらくらした。

〈女子ワールドカップに優勝し、国民的な人気を得た女子日本代表サッカーチーム。そのメンバー二十二名が、五輪の直前に誘拐された。身代金はなんと百億円! 十津川警部は一人誘拐を免れた澤穂希選手に捜査協力を依頼。プレー同様頭脳明晰な澤選手と十津川の夢の2トップが事件解決に向け動き出します。一九七六年の作品『消えた巨人軍』で、新幹線に乗った巨人軍選手が誘拐される超絶トリックをしかけた著者が、今回も驚天動地の結末に読者を導きます。〉

 はい、これが目次。

第一章 県人会
第二章 澤穂希のアシスト
第三章 関西空港
第四章 一番GK海掘です
第五章 必死の駆け引き
第六章 奪回成功?
第七章 最後のペナルティキック

 第四章の「一番GK海掘です」。これが僕にはツボだった。いったい何が起こったんだよ。笑っちゃって、ページをめくれない。何度もチャレンジしたが、目次でもうダメだった。なお、海掘選手はなでしこジャパンの中心選手のひとりで、2011年のFIFA女子ワールドカップ・ドイツ大会での優勝、2012年のロンドン五輪での銀メダル獲得に貢献したGKである。

 覚悟は決まった。さてさて、西村京太郎はなでしこジャパンをどう料理してくれるのか――。
 
 
 
-ヒビレポ 2014年4月4日号-

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