ヒビムシ  2 – 3


石井ダム:クロヤマアリ

沢田佳久
(第11号で「五十円玉はどこだ」執筆)
 
 
 
 陽気が続いて一週間で桜(ソメイヨシノ)は満開になったが,寒の戻りが来て,この週末はお花見には向かない,という話の4月5日金曜日である.今日のうちに見ておこうと近所をうろついた.いつもの菊水山には登らずに,その麓というか西側の谷にある石井ダム(神戸市)に行った.

 日本中の至る所に作られたダムには,造成と管理のために湖面を一周する道路がつけられている.多くには路傍にソメイヨシノが並べられているのではないだろうか.展望台や記念碑や説明展示,湖底に沈んだ集落がある場合には鎮魂のための施設がある.ダムは昭和の繁栄と浪費,驕りと後ろめたさを凝縮した場所だと思う.
 

 

 さて石井ダムは珍しく桜並木のないダムである.その点がちょっと変っている.一般にダムの道路はほぼ水平であって,これが立体写真には都合の良い事なのだ.いわゆる『長基線スポット』としてである.
 普通の立体写真では人間の眼幅(6〜7センチ)と同じ間隔(つまり常基線)で撮った二コマで構成する.もしこれを十倍,百倍とれば,その大きさの巨人が見るであろう風景が,立体で見えることになる.広大な風景を,鉄道模型を覗き込む感じで見ることができるのだ.そのような幅が確保でき,かつ,それなりに離れた被写体があるのがダムなのである.
 筆者は石井ダムに行きつけの長基線スポットを設定している.崩れやすい花崗岩の斜面に落葉広葉樹と照葉樹が混生し,立ち枯れも混じった山である.これを対岸の橋から撮る.今の時期は薄い桜色のヤマザクラ,白い大きめの花をつけるタムシバが目立つ山なのだが,この写真では中央の谷のヤマザクラらしい大木が満開である.ダムができる前からあったのだろう.
 
ヤマザクラ
 
 万葉時代は花といえば梅であったらしい,それが桜になり,明治以降もその意味あいが変質していったとかいう話である.今,我々が桜に対して抱く感情(抱かされるよう仕組まれた感情)は最近成立したものだという.
 また桜といえば本来は山中に自生するヤマザクラであったものが,栽培品種の発達により,ふつうは植栽された桜のことを思うようになり.今,我々の生きている時代はソメイヨシノが全盛なのである.
 ソメイヨシノは葉を出す前に全力で盛大に咲き誇り,儚く散る,分かりやすい特性の品種だ.咲くばかりで実を結ばない.挿し木など人の手を借りてクローン増殖する植物である.生き物として完結していない生き物である.最近は色が濃いめで花期の長いカワヅザクラも重宝されつつあって,これもクローン.栽培樹種の流行り廃りはサイクルが長いだけで犬種のそれと同じである.スピッツが廃れ,チワワが流行り… ただ人生が樹の一生より短いだけだ.

 そうそう,桜はともかく,虫は少なかったのだ.今日は日中も暖かくならなかった.たしかに寒の戻りだ.

 そもそも花に虫が来ていない.活動を始めたものの寒気で動けなくなっている虫もいた.花崗岩の上で日向ぼっこしているクロバエ科の一種も反応が鈍かった.筆者が撮影しようと近づくと,気づいた様子だったが飛び立てず,歩いて逃げる始末.
 歩いたり走ったり,ジャンプしたりしているうちに体温が上がったようだ.ついに飛び立ったが,すぐ近くの岩に着陸していた.
 
クロバエ科の一種
 
 ノイバラは冬の間も硬い葉を残しているが,春になって一気に展開した葉は明るい緑で,遠目からも瑞々しい色をしている.虫的には美味しそうな感じだ.
 近寄ってみると,やはり毛虫がたかっていた.既に一人前の大きさに成長している.帰って調べてみるとクワゴマダラヒトリ(ヒトリガ科)の幼虫らしく,卵ではなく幼虫で越冬するのだという.寒の戻りは毛虫にとってただ摂食速度が遅くなるだけなのだろうと思う.

クワゴマダラヒトリ幼虫
 
 クロヤマアリの巣の出入口が賑わっていた.奥から盛んに砂粒を運び出している.土の中の温度は気温にくらべると緩やかに推移しているはずだ.今日の状況は巣外作業には不適だが巣内作業は十分可能.したがって巣内業務に専念ということなのだろう.なかなか上手いな.
 
クロヤマアリ
 
 
◆立体写真の見方◆

同じような2コマが左右に並んだものは「裸眼立体視平行法」用の写真です.
平行な視線で右の目で右のコマ,左の目で左のコマを見ると,画面奥に立体世界が見えてきます.
大きく表示しすぎると立体視は不可能になります.

色がズレたような1コマのものは「アナグリフ」です.
青赤の立体メガネでご覧ください.
メガネは右目が青,左目が赤です.
緑と赤の暗記用シート等でも代用できます.

別サイト「ヒビムシ Archives for 3DS」にはMPO版を置いています.3DSの『ウェブブラウザ』で「ヒビムシ Archives for 3DS」のサイトを参照してください.お好みの画像を(下画面におき)タッチペンで長押しすると,上画面に3Dで表示されます(数秒かかるかも).表示された3D画像ファイルは保存することもでき,『3DSカメラ』でいつでも再生することができます.

MPO版とは,複数の静止画を一つのファイルにまとめたもので,ここでは立体写真の左右像を一つにまとめたファイルです.3DSをはじめ,多くのmpo対応機器で3Dとして再生,表示することができます.PCやスマホ等でダウンロードできますので,各機器にコピーして再生してみてください.
 
 
 
 
 
-ヒビレポ 2014年4月16日号-

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