買ったなら読め! 第3回

季刊レポの衝撃

 
海江田哲朗
(第12号で「劇団カクスコ 11年後のカーテンコール」執筆)
 
 
 
 あれは、2年前の冬の日の出来事である。えのきどいちろうさんがレポTVのゲストに僕を呼んでくれることになり、西荻窪の北尾トロ編集長の事務所を初めて訪ねた。

 その半年ほど前から、季刊レポの読者だった。で、いつか企画を持ち込もうとタイミングを窺っていた。サッカーの外に仕事を広げたいなぁ、なんか面白いことをしたいなぁ、と野望をたぎらせていたのである。レポはその入口におあつらえ向きと思えた。誌面から、楽しげな空気がむんむん立ち上っていた。レポTVもわいわい盛り上がっていて、うらやましく思っていた。

 以前からサッカーの現場で交流のあったえのきどさんに相談してもよかったのだろうが、甘える感じになるのはいやだった。およそ15年前、駆けだしライターだった頃、「ライターってのは、それぞれが個人事業主。協力関係の一方でメシの奪い合いでもあるから、どんなに親しくても編集者を紹介してとか気軽に言うもんじゃないよ」と先輩ライターに教わった影響かもしれない。かといって、頭越しに進めるのもどうなのかなぁと考えあぐねていた。

 したら、ちょうどえのきどさんとトロさんのイベントが近場であり、これ幸いと出掛けたのである。僕の立てた綿密なプランでは、イベント終了後、「ご無沙汰してます」とえのきどさんに挨拶。でもって「俺、ちょっくら編集長に顔売ってきますわ」と、さりげなく足を向けるというものだった。えのきどさんが慌ただしく帰ってしまったことでプランはあっけなく崩れたが、とりあえずトロさんには「今度、企画を持っていきます」と話ができた。後日、えのきどさんにメールで報告すると、「だったら一度遊びにおいでよ」と気を利かせてレポTVに呼んでくれたのである。結果、最もスピーディー、かつ無理の少ない形で事が運んだことになる。
 

 

 レポTVの収録が終わり、ごはんを食べに行きましょうという流れになった。そこで僕は数々の衝撃を受ける。いい具合に酔いが回った副編集長の平野勝敏さん(以下、ヒラカツさん)は言い放った。

「この仕事をしているなら、歳時記は一冊持っておくべきです!」

 ヒラカツさんの熱弁に、トロさんとえのきどさんは爆笑していた。僕の頭には、はてなマークが浮かんでいる。サイジキって、季語とか載ってるアレだよね。そんなの人から言われたことがない。

「角川(書店)がいいのを出しています。文章を書く上で役立ちますよ、あれは。とにかく一冊あれば大丈夫」

 バカだと思われるのは差し障りがありそうだったので、「そうですか。歳時記ですかぁ」と最低限の返答に留めた。ほかにもヒラカツさんはいろいろ話していたはずだが、衝撃のあまり記憶があいまいだ。

 その一方で、文学少女が大人になった木村カナさんは「私、定型詩はこの世にいらないと思うんですよ。認めない!」と、トロンとした目で言う。そんな無茶苦茶なことを言われても、どう答えていいかわかんないよ。レポの場は酒の絡み方も独特だなぁ、と圧倒された。

 どうやら、とんでもないところに来ちゃったようだ。ここにはいままで会ったことのない、一風変わった大人がいる。新しい空気を吸えた気がして、気分がよかった。

 しばらくして、アマゾンで歳時記を検索した。僕は多分にこだわりの強い性格をしているが、自分の惹かれた人の言葉はすっと入ってくる。そういう素直な一面がある。へえ、春夏秋冬、別々に売ってるんだ。いや、一冊にまとまったのもあるぞ。
 

 
『合本 俳句歳時記』(角川書店編)。たぶんコレだ。最新の第四版は2500円ほどしたが、第三版の古本ならその半値以下だった。この手の本は版が少し前でも問題あるまい。

 でも、読んでなかったんすよねえ。買ったはいいが、一度ケースから出して開き、パタンと閉じたきり触りもしていない。ヒラカツさん、すみませんでした! だって、どんなときに開いていいか、わからないんですもん。こうして僕は、歳時記の重い扉を開くことになった。

 
 
 
-ヒビレポ 2014年4月18日号-

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