MAKE A NOISE! 第31回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

バレンタイン・ロード

 

山口ゆかり
(第13号で「ロンドンでゲイ、レズビアンたちに混じる」執筆)
 
 
 
 『Valentine Road』、ロマンチックな響きとは裏腹な、やりきれないドキュメンタリーです。バレンタイン・ロードとは、ブランドン・マキナニー(当時14歳)に射殺されたラリー・キング(当時15歳)の墓がある通りの名前です。

 事件は、ラリーにとってロマンチックだったかもしれないバレンタインデーにちなんだ出来事が発端でした。2008年のバレンタインデー間近の頃、アメリカ、カリフォルニア州オックスナードの中学校で、ラリーはブランドンに好意を打ち明けます。小学生の頃からゲイであることをオープンにしていたラリーは、当時、メイクしたり着飾るようになっていました。   
 そして、2月12日の1時間目の授業中、ラリーの頭に2発の銃弾を撃ち込むのが、ブランドンの返答でした。コンピューターの画面に向かうラリーを、後ろから至近距離で撃ったのです。
 

 
 

 
 ラリーは、父親のいない家庭でドラッグ中毒だった母親に育てる能力もなく、弟とともに養子に出された子どもでした。その里親の虐待が疑われ、施設に引き取られます。そんな境遇にもかかわらず、いつも楽しそうにしているハッピー・チャイルドだったといいます。それを裏づけるように、ラリーの写真はどれも柔らかく笑っています。
 校則違反だったり、からかわれる対象にもなったというメイクやおしゃれで、ラリーは自分を表明していき、そうする強さを身につけていったらしい。それに与えらた処罰が銃殺とはあんまりです。

 一方のブランドンも、問題のある家庭の子どもです。父母が別れ、母に引き取られたブランドンは、ドラッグ中毒だった母のリハビリ施設入所で、今度は父に引き取られます。アルコール中毒だったという父は、事件後、深酒がもとで亡くなっています。
 ブランドンは、自分のノートや、公共の場所での落書きにも、ハーケンクロイツ、ダビデの星を握りつぶす手など、ナチスへの傾倒を思わせる絵を残しています。それで何かを紛らしていたのでしょう。皆が眉をひそめるようなナチスを選んだのは、むしろ、子どもらしいとも思います。

 私が怖かったのは、そういうところとは別です。2011年に懲役21年の刑が確定したブランドンは、事件後、授業を担当していた先生に手紙を書いています。その中に「自分は馬鹿ではない」という一文があります。その言葉通り、獄中で教育を受け続け、卒業もしたらしい。房のついた四角い帽子にマントという卒業式の定番スタイルで証書を手に、弁護士らに囲まれにっこり笑う、青年となったブランドンの写真も登場します。
 子どもらしい短絡さ、馬鹿さで起こした事件なら、子どもを脱して、馬鹿も脱せば、変わるかもしれませんが、ブランドンは馬鹿じゃないんです。
 
 事件そのものも、告白されて、その場にいた子どもたちにはやしたてられたその時、ラリーを殴るなど、突発的なものなら抑えようもあったはず。ラリーの友達はブランドンから「ラリーにさよならを言っておけ。二度と会えなくなるから」と言われ、冗談と思ったといいます。冗談ではなくラリーを殺すことを計画し、後日、祖父の銃を持ち出して、計画を実行したわけです。
 その反面、拘束されてからの映像には、食事中、同じテーブルにいた人に殴りかかる様子や、向こうから歩いてくる人に飛びかかる様子が記録されています。もう子どもではなく、体も大きく動きも俊敏です。CCTVのものと思われる映像で音がないため、なぜ、そういうことになったかはわかりませんが、それにしても、暴力を振るうのに躊躇がない人のように思えます。

 くわえて、怖かったのが、ブランドンについた女性弁護士が「ブランドンを救え」という刺青を彫っていることです。そこまで入れ込むか、弁護士?
 頭が良く、チャーミングだったり、カリスマ性もあったりして、人を惹きつけ、操るのに長けているという、どこかで読んだサイコパス像が浮かんで、ゾッとしました。
 
   
 サイコパスで思い出した、有り得ないような事件のドキュメンタリーを次回に。
 

 
 
-ヒビレポ 2014年4月26日号-

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