MAKE A NOISE! 第32回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

なりすまし

 

山口ゆかり
(第13号で「ロンドンでゲイ、レズビアンたちに混じる」執筆)
 
 
 
「ハーイ、ママサーン、タローデース」、あやしい日本語の外国人が、数年前から行方不明だった息子の太郎だと言い張っている。わかりやすく例えると、そういうお話なのが『The Imposter』というドキュメンタリー。
 
 13歳で忽然と消えた息子は、ニコラス・バークレーというアメリカ人。3年後にニコラスとして現れたのは、実際には当時23歳のフレデリック・ブルダンというフランス人。7歳もさば読んでるし、顔立ちも全然似てません。
 Imposterとは、なりすましのこと。なりすました男にもたまげますが、ニコラスだと信じた家族の心理にもすごいものがあります。

 

 

 スペインの電話ボックスの中でおびえているところを保護された発見時のくだりなど、要所は再現フィルムになっています。安いドラマ仕立てではなく、雰囲気を出しつつ、ドキュメンタリー部分とも境目なく混じりあう再現が、サスペンスを盛り上げます。
 保護された少年(?)は、誘拐された後、監禁、売春させられていた、英語が通じないところだったので長らく話していない、など驚くべきことを告白。すっかり様変わりしていることや、英語があやしくなっていることも、納得させてしまいます。
 それにしたって、家族には、息子、弟ではないのがわからないものかと思いますが、むしろ家族が積極的にニコラスと認定。そして、その家族の中にも微妙な温度差が。無事生きていてほしいと願うあまり信じてしまった人、実はニコラスがどうなったか知ってる?の人、その人をかばいたい?の人、というあたりが次第に見えてきます。
 一時は国際的な売春組織暗躍かみたいな話にもなりますが、誰もが思う「別人だよね?」を、まず私立探偵が、それからFBIも証明しようと動き出すのがスリリング。そして、明かされた自称ニコラスの正体は、同様のなりすましを何度も繰り返している男、フレデリック・ブルダンだったのでした。

 フレデリックは小柄なので少年になれるのでしょうが、顔立ちは童顔というより、おじさん入ってます。生え際の後退も早めで、ニコラス後には帽子で生え際を隠し、別の少年になりすましたりしています。
 数百件のなりすまし事件を起こし「カメレオン」の異名をとるフレデリックが言うところでは、親の愛を知らずに育ち「愛と家族が欲しかった」というのが動機だそうです。
 今は、結婚して4人の子持ちで落ち着いたのか、本格的な中年になって少年は無理なせいか、なりすましはやめたようです。ほんとうの愛と家族を見つけた、なんて綺麗にまとめたくないのは、まんまと人を騙しおおせてしまうフレデリックの薄気味悪さのせいでしょうか。

 ところで、この映画は、フィルム4が他数社と共同で製作しています。フィルム4はイギリスのテレビ局チャンネル4の映画製作会社です。
 そういえば、第29回のセックスシーン満載『Age of Consent』上映時にも、チャンネル4の話になったのでした。監督が「BBCで放映してくれないかな(笑)」とジョークを飛ばしたのに、「いや、BBCというよりチャンネル4の感じだな」と観客がマジレス。公開が難しそうな意欲作なので、チャレンジャーなチャンネル4なら放映もあるかも。
 そういうテレビ局の映画製作会社らしく、エッジーな映画も作っています。例えば、ダニー・ボイル監督の『トレインスポッティング』とかもそうです。
 振り返ると、ここでご紹介している中にも、フィルム4製作映画がかなり入ってました。

 さて、来週(4月第4週)はサンダンス・ロンドンが開幕します。アメリカのサンダンス映画祭がロンドンまで出張してくる有難いイベントです。そこで、要チェックなフィルム4映画が見られそうなので、次回はたぶんそちら。

 
 
-ヒビレポ 2014年5月3日号-

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