ぜんざのはなし The final 第5回


厄年?

 
島田十万
(第14号で「カジノディーラー『K』の日常」を執筆)
 
 
 ここのところはほとんど休日なしで飛び回っている笑二さんですが、6月以降のスケジュールは真っ白とのこと。
 何ごとか?というのも、聞いてみたら無理もありませんでした。
 二つ目に昇進することで前座仕事からは解放され、いよいよ落語家のタマゴとして自由に活動ができるようになるのです。
 それは良いとして、前座仕事で得ていた収入もなくなる。これが大きい。まださきの話ですが、正月ともなれば前座全員にお年玉をあげなければなりませんし!

 前座時代は貧しいことは貧しいのですが、食うに事欠くなんてことはないんですね。むしろ経済的には、二つ目昇進直後が最悪なんだとか。
 デビューはしたものの名前は覚えてもらえず、実力もわからない新人にまわってくる仕事などない、というわけです。
 東京には落語協会、落語芸術協会、立川流、円楽党と4つの落語団体がありますが2014年3月末現在、二つ目は合計127人います(うち立川流は21人)。
 真打ちになれば安泰というわけでもなさそうですが、二つ目は層が厚く頭角を現すのは容易ではありません。
 前座、二つ目を経て真打ちになるまでには平均でおよそ13年かかるのですが、二つ目に昇進した直後がなんといっても一番苦しい。正念場のようなのです。
 さまざまな誘惑をはね返し、貧乏に耐え、じっと腕を磨く。
 まあ、言うのは容易いのですがねぇ。
 

 

「ねただし前座」の舞台上でやいのやいの言っていた、がじら、らく人、寸志の3人ですが、いずれは自分も行かねばならない道。このときばかりは同僚の行くすえを案じてさすがに表情がくもった、ようにみえました。
 なるべくならアルバイトなどしないでその時間を稽古にまわしたい、公園に滞在したいというのが目下の笑二さんの希望なのです。

 以前、笑笑さんが「笑二兄さんはスーパー前座なのです」とのんきに感心していましたが、笑二さんが昇進してしまえば笑笑さんがこれらを引きつぐわけですから、まったく他人事ではありません。
 ちなみに笑二さんは弟子入り1年目の終わりごろに50席近く覚えたそうです。とにかくせりふを頭にたたきこんだ。新しい噺を覚えるには時間もエネルギーも必要なわけです。
 笑笑さんは入門9ヶ月ですからムリもありませんが、先日聞いたところによれば、まだ諸々思うようにいかずジリジリしているとか。
 ゆとり世代で育った話を何度もマクラにしていますが、奮起を期待したいところです。
 もっとも年末には、そんな現状を打破しようと、ついつい見続けてしまうテレビをぶっ壊したと言っていましたから、ようやくエンジンがかかってきたのかも知れません。

 舞台上の3人は、スケジュール真っ白の話を聞いて一瞬しょぼんとしました。
 それでも今回の会は手応えを感じたのでしょう「ねただし前座」を定期的にやれるよう頑張りますと明るくしめくくりました。
 左端にいた寸志さんが、ひとり昇進するから「ねただし前座マイナス1」だな、とつぶやきました。

 もちろんそのときには数日後、笑二さんにとんでもない災難が降りかかるとは会場にいるだれも知りませんでした。
 「ねただし前座」から数日して、笑二さんは全財産を紛失してしまっていたのです!
 高円寺駅のトイレで、小便器の上に財布と携帯電話を重ねるようにおいて用を足しました。ことが終わって、携帯だけを手にしてトイレを出てしまったようなのですね。
 駅を出たところで気がついたのですが、引き返してみてもブツは見当たらない。その間約3分。念のため交番に紛失届は出したのですが、いまだに出てきていません。

 その日は昇進のための写真撮影があり、翌日は袴の購入があったのですが、合間をぬって、財布に入っていた免許証の書き換えだとか、キャッシュカードの再発行だとかに走りまわりました。
 失くして良いタイミングなどあろうはずもありませんが、なにもここじゃなくてもという最悪のタイミング。
 財布にあった3万円も袴の購入を考えると身悶えするほど痛い。「厄年」もここに極まれりかと思われるほどの大災難でした。

 ただし、さすが落語家。この男、ころんでも只では起きなかったのです!

 
 
 
-ヒビレポ 2014年5月5日号-

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