夕陽に赤い町中華 第5回

メニューの研究(1)

 
北尾トロ(編集長)

 
 
 
 
 

 町中華のメニューは自由だ。一定のルールに準じ、そこはストイックに守りながら、許容範囲う案と判断すれば堂々とはみ出す。
 主力商品から見ていこう。
 まずはラーメンを柱とする麺類である。これには多くのバリエーションがあるが、スープのある麺とやきそば類が二本柱となっている。スープはだいたい、あっさりした醤油味がベースで、ラーメン専門店のような強いこだわりは打ち出さない。もやしそばやネギそばといった横への広がりには鷹揚だが、出汁に心血を注ぐようなことはない。つまり専門店の領分をおびやかす戦術は取らないというか、ラーメン屋との共存共栄を図っている感じなのだ。
 

 

 この共存共栄の思想は町中華を語るうえでひとつのキーワードとなってくる。ただ、これは町中華側が気を使ってそうなっているのではない。ラーメン専門店の隆盛はせいぜい1970年代からと新しく、その多くが町中華出身か、町中華ではメニューの一部にすぎなかったラーメンの実力に目をつけて先鋭化させたものであって、町中華側は特に何もしていない。また、専門店の味に対抗しようとすれば厨房施設の充実のほか、当然だが多大な時間をラーメンのために割かねばならなくなり、これが<いろんな中華メニューを扱って腹ペコ野郎どものニーズにこたえ>ようとする町中華の特性に反するのだ。ラーメンに力を入れれば他部門はどうしても弱くならざるを得ない。それでいいのかという問題だ。

 良くないんだよ実に。町中華には町中華の領分がある。ラーメンの味を磨きぬくなんてことは専門店に任せておけばいい。それよりは多様性だということで、専門店よりも多彩な麺類をそろえる方向になっている。麺類だけで二桁のメニューがあるところはざらで、かた焼きそばやちゃんぽんなどの変則メニューも平気で投入してくる。
 一方、手を出さない麺類もある。エビそば、鳥そばなど、本格中華店が得意とするメニューだ。技術的には十分可能なはずなんだけど、これを置いてる町中華はほぼないだろう。理由は良く分からないが、料金が高くなって他とのバランスが崩れるのか、出汁に上品さが求められるので苦手なのか、不思議と見かけない。ただ、これらが町中華に似合わないこともたしかだし、塩味系スープが好きな客には切り札と言えるメニューがある。

 タンメンがそれだ。これはもうマストアイテム。野菜炒めなど町中華で使用頻度の高い野菜が丸ごと使える利点も備える強力メニューであり、利益率の問題からか、あるいは野菜の使い道が他にないからか、ラーメン専門店が力を入れないメニューでもある。
 しかし町中華におけるタンメンの地位はけっこう高く、頼む人も多い。ちゃんぽんもそうだが、野菜豊富で肉も少々入るタンメンは、独身男から見るとバランスのとれた栄養食なのだ。

 他にもいい点がある。タンメンの性格、主張してこない味だ。このおとなしさが餃子などのサイドメニューと組み合わせやすくて町中華好きにはありがたい。タンメンの場合、いきなり「うめ〜」というのはあんまりないと思う。そういうタンメンは後半がきつくなる。最初は「ん?パンチがないね」と思わせるような薄味に思えるのだが、食べ進むうちに塩味が効いてきてちょうど良くなる。つまり前半では野菜の甘みが前面に出て、後半になるにつれてタンメンが生来持っている塩味が、選手交代とばかりに口の中で動き回るのだ。前半は野菜中心、中盤以降は麺とスープが主役を張るのである。

 言いかえると、野菜のうまみが少々の難点はカバーしてくれるし、客もそんなに麺やスープをシビアに検討しない。採点も甘くなりがちだ。タンメンは基本的に店側に有利なメニューなのである。そのため町中華にまずいタンメンはめったにない。あるかもしれないが、客の求めるものはビタミンやさっぱり感が主であり、野菜から手をつけていくので、そのへんのごまかしがきくのである。
 このように、人気があって評価を得やすいタンメンがメニューにない店は、いくら町中華風の店構えであっても町中華の条件を満たしているとは言えず、ぼくに言わせれば偽物だ。

 ソース焼きそばも隠れた人気メニューだろう。五目焼きそばなどとは違う、ただの焼きそばである。全体にこげ茶色で華がなく、それでいて一丁前の値段を取る、利益率の高そうなアレである。
 ソース焼きそばは置いてない店もあるからマストアイテムではないけれど、できればあってほしい。焼きそばのいいところは絶妙のチープ感で、家でも作れそうな手軽さがある。ラーメンって気分じゃないけど麺が食いたい。そんなとき「やきそばもいいかな」と思うのだ。アクセントとしての紅ショウガを思い浮かべると、口内に唾液が分泌されてくる。

 うまい焼きそばというのもあるのだろうが、町中華の場合は名物というのではなくて、守備要員みたいな麺を備えたメニューだと思う。
 やきそばを食べたくて店に入るのではなく、テーブルに座って何にしようかと考えるときの心理を思い出してもらいたいのだ。ラーメンは違うなあ。といってご飯ものには食指が動かない。定食も悪くないがいまひとつ食欲が。と、消去法でメニューを吟味していくと気があるじゃないですか。
 このとき季節ものの冷やし中華などがあればそっちに行くことも可能だが、そうでないときには次第に追いつめられた気分になってくる。すでに水は運ばれ、店主はオーダーを待ち構えているのだ。いまさら「そういや、そんなに腹ペコでもなかった」という言い訳はきかない。
 そういうときに、焼きそばが救世主として浮上するのであります。「焼きそばでも食べとくか」。この選択肢だ。ビールのつまみとして使える良さも持っており、町中華における焼きそばの守備能力は捨てたもんじゃないのだ。

 …タンメンと焼きそばだけでけっこう書いてしまった。手短に書いてるつもりなのだが、つい長くなる。ご飯ものは次回にまた。
 
 
撮影/下関マグロ

 
 
 
-ヒビレポ 2014年5月4日号-

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