MAKE A NOISE! 第34回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

ファーゴ

 

山口ゆかり
(第13号で「ロンドンでゲイ、レズビアンたちに混じる」執筆)
 
 
 
 最近、なんだか『ファーゴ』づいてます。今、テレビドラマ『ファーゴ』を楽しみに生きてますが、この4月に開催されたサンダンス・ロンドンでも『ファーゴ』がらみを見ました。

 まずは、テレビドラマをちらりと。言わずと知れたコーエン兄弟映画のリメイクで、イギリス俳優マーティン・フリーマンが主演です。フリーマンは、コメディドラマ『オフィス』でブレークした人。最近ではテレビドラマ『シャーロック』や、『ホビット』でもお馴染みですね。なさけない役がはまるので、『ファーゴ』主人公もピッタリ。
 アメリカ製作ドラマで、コーエン兄弟もエグゼクティブ・プロデューサーとして名を連ねてます。ストーリーが違うので、映画を見ていてもネタばれなし。映画は狂言誘拐が大変なことになる話だったのが、テレビ版はそんなつもりはなかったのに殺し屋とかかわってしまう話で、キャラクターも変えてあります。殺し屋役のビリー・ボブ・ソーントンのパッツン前髪が気味悪いのが、同じく髪型で不気味さを出していた『ノーカントリー』のハビエル・バルデムを踏襲してるかんじ。
 

 

 
 
 『ファーゴ』がらみの映画の方は、菊地凛子主演『Kumiko, The Treasure Hunter(トレジャーハンター・クミコ)』です。()内は、英語タイトルと同時に出る日本語。邦題がそうなるかはわかりません。でも、あんまりいいタイトルじゃないと思います。『インディー・ジョーンズ』ばりに洞窟の中とか駆け回る菊地を想像しちゃって、そそられなかったのでした。
 全然そうじゃなくて、どよよーんとした菊地が良かったです。菊地演じる主人公クミコが、『ファーゴ』を見て、映画中のキャラクターが埋めた大金を探しに行く話です。
 

ⓒSean Porter

 
 プレス試写と監督登壇のある一般上映とで2回見ましたが、2回目の方が良い映画のように思えました。1回目は突っ込むのに忙しく、落ち着いて見られなかったせいかもしれません。
 百歩ゆずって、映画冒頭の「This is a true story」をそのまま信じたとしましょう。それにしたって、雪の中に埋められた大金を探そうというなら、いろいろ調べるはず。そのどこかの段階で、映画は実話のふりした作り話だったと気づかない? 舞台は現代のようだし、ググるでしょ、ふつう。あっ! ふつうじゃないの? クミコ?
 
 信じる気持ちが強ければ、人はどんなイリュージョンでも見ることができるというのが、前々回のドキュメンタリー『The Imposter』でした。現実を見ないように目を覆うかのような人を見せつけられた後では、雪の中の大金を信じるクミコがパソコン検索しなかったのも説明がつきます。
 1人暮らしの29歳OLクミコは、会社では上司に遠回しに退職を勧められ、私生活ではボーイフレンドもいないのに母親から電話で結婚をせかされる日々。埋蔵金で一発逆転ねらうしかないような心理状態、狂気の側に片足入れてるような状態で、無意識のうちに、真実につきあたりそうな検索を避けたのかも。
 
 そう思って見た2回目は、音楽の面白さに気づきました。クミコに重ねて、大げさなくらい怖い音楽や、悲しい場面でにぎやかな音楽がかぶさったりするのが、意表をついてるし、クミコの精神状態を表してもいます。
 菊地凛子は、突っ込みつつ見た1回目から名演と思いました。げっそりしてる顔とか、真剣に怖いです。綺麗な顔より、いけてない顔をさらせる女優を評価します。でも、綺麗な顔のシーンもちゃんとあって、空想の世界では、ふっくらとして可愛いのが涙を誘います。
 

デヴィッド・ゼルナー監督は、2001年に広まった『ファーゴ』埋蔵金探しの日本女性という都市伝説が、アイディアの基と言っていました。
 

デヴィッド・ゼルナー監督 2014年サンダンス・ロンドン(撮影:著者)

 
 その都市伝説のドキュメンタリーが、イギリスのチャンネル4で2003年に放映されています。見逃したのですが、番組制作者がガーディアン紙にレポートを寄せていました。
 それによると、2001年、東京からのコニシ・タカコさんという女性が、ミネソタのビスマークからファーゴに向かう途中のデトロイト・レイクスの雪深い森の中で亡くなったのが勘違いされたらしいです。結論からいうと、家族に送られた遺書があったこともわかって、自殺とされています。
 
 亡くなる何日か前に、さ迷い歩く様子を見て心配した一般市民が、タカコさんを連れて行ったビスマークの警察が伝説の出所。コミュニケーションがうまくとれなかった警官たちが、木と道を描いた手書き地図を見せられたこと、そして「ファーゴ」と聞き取れたことで、『ファーゴ』埋蔵金探しの女性とされてしまったようです。
 ドキュメンタリー取材班は東京にも飛んで、会社勤めをしていたタカコさんが、ある時を境に、酒におぼれるようになり、セックス産業で働いたらしいこともつきとめます。つきあっていたアメリカ人の既婚男性が、ビスマークのホテルから最後に電話した相手となったこと、かつて3度ミネソタに旅したことがあるのは、その男性といっしょであったろうともしています。思い出の地を自殺場所に選んだのでしょう。
 
 知れば知るほどかわいそう。そう古い話でもないので、生々しくもあります。ビスマークのホテルでタカコさんが泊まった同じ部屋を予約した番組制作者も、入って部屋のドアを閉めた途端に救いのない気持ちに襲われ部屋を変えた、再現部分でタカコさん役をした日本女性が、仏教の風習にのっとり、亡くなった場所にお供えをしたともあります。
 ゼルナー監督が、より説得力のある映画になったであろう実話ではなく、突っ込まずにはいられない都市伝説の方で映画を作ったのも、そういうことだったのでしょうか。 
 
 前回からお送りしているサンダンス・ロンドンからの“クレイジー”シリーズ、次回も続きます。
 
 
-ヒビレポ 2014年5月17日号-

Share on Facebook