ぜんざのはなし The final 第7回


お金のはなし

 
島田十万
(第14号で「カジノディーラー『K』の日常」を執筆)
 
 
 「談笑の弟子!!」での「三方一両損」、とてもネタおろしとは思えない出来でした。終了後、うっすら汗をかいた笑二さんはふかぶかと頭を下げました。

 中入り後にトリをとったのは吉笑さん。
 生まれてはじめてカレーをつくった、という話をしているかと思ったら、いつのまにかイリュージョンに。ファンタジーかな?
 ここで詳細にはふれませんが、本人も言っていたようにたいへん実験的なマクラでした。
 吉笑さんの新作は定評がありますが、ボクはマクラも好きです。
 お里が良いのか人柄なのかは知りませんが、都会的で、上品で、わざとらしくない。まあ知的ということなんでしょう。特別なにがというわけではないのですが、ゆったり心地いい音楽みたいな感じなんですね。
 ずっと聴いていてもぜんぜん飽きない。老舗旅館の美味しい朝飯のようなマクラ!


 
 噺は「見たことも聞いたこともない虫」。もちろん吉笑さんの新作で、「見たことも聞いたこともない虫」をつかまえてゼニを稼ごうという噺。「見たことも聞いたこともない虫」をどう捕まえるか、も問題ですが本当に「見たことも聞いたこともない虫」なんかいるのか?というのが聴きどころ。
 この人はいつも、一つのことをいろんなアングルから見て、考え続けているようです。
 くりかえし芸とでもいうのかな?ずらし芸か?それともかぶせ芸?ことばを何度もかぶせながら意味を微妙にずらしてゆく。

 笑二さんの絶好時が舟に乗り合わせた客と船頭だとすると、吉笑さんの好調時は手綱を引かれた牛と馬喰みたいな関係。もちろん吉笑さんが馬喰です。
 はまったが最後吉笑さんの思うまま。鼻先をつかまえられて右をむけといえば右、左をむけといえば左。否も応もない。もうどうにでもしてくれという気分。腹がよじれて目眩がして、さからう気にもならない。
 しかもこの馬喰、容赦がないからブルンブルン牛を振りまわして弄ぶ。
 勘弁してくれという悲鳴がそこここで聞こえてきそうなほど爆発するときがあります。
 姐弟子のこはるさんとの二人会でやった「舌打たず」の破壊力が忘れられません。
 ボクにとって生談志を見逃したのは痛恨の極みですが、初期の吉笑、笑二に立ち会えたのは本当に僥倖というほかありません。

「見たことも聞いたこともない虫」をやり終えた吉笑さんは、高座を降りて雪駄をつっかけるとピョンと一回スキップしてから引っ込みました。
 手応えを感じたとき、必ず跳ねるのが吉笑さんの癖なんですね!
 袴のすそを、ちょっとつまんでピョン。

 余談ですが、高座で足をくずしたとき、着物だと客席から見て汚く見えることがあるけれど、袴だと隠れて見えない。動きのある噺などは袴のほうが楽なんだそうです。師匠も吉笑さんも紋付に袴のことが多いですし、笑二さんも袴を新調しました。
 
 約2年半前から観ていますが、笑二さんは師匠からもらった萌葱色の一張羅の着物だけ。
 もちろん汚れなどはありませんからキチンと洗濯はしているのでしょうが、ずっと同じ着物!(笑)
「二つ目になると黒紋付を着られるようになるのがうれしいです」というのは実感なのでしょう。
 黒紋付は落語家の正装で、冠婚葬祭、祝儀不祝儀、これさえあればどこにでも行けます。
 ちなみに、笑二さんは昇進用に、袴のほか羽織、色紋付、黒紋付を各一着ずつ、手ぬぐい500枚などを新調したそうです。
 手ぬぐいは落語の重要な小道具でもあり、挨拶代わりに配ったりもするのだそうです。名入りでオリジナルな柄にしたのだとか。
 
 そういえば着物をふくめチラシ、チケット、会場費などなど「二つ目昇進の会」はいろいろと物入りでしょうが、総予算はいったいどのくらいかかるのですか?
「あまり詳しくは言えないのですが」
笑二さんは天井を向いて目をつむりました。
「なんだかんだ全部あわせて、吉原に……」
「???よしわら?あの、よしわら???」

 
 
 
-ヒビレポ 2014年5月19日号-

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