買ったなら読め! 第7回

マッチングの愉悦

 
海江田哲朗
(第12号で「劇団カクスコ 11年後のカーテンコール」執筆)
 
 
 
 将棋にまつわるノンフィクションはけっこう好きで、何冊か読んでいる。賭け将棋の世界で名を馳せた最強アマの波乱万丈な生涯を描いた、団鬼六の『真剣師 小池重明』(幻冬舎アウトロー文庫)。プロをも打ち負かす強さの一方で、私生活はトラブル続き。放蕩したあげく身をやつし、44歳でこの世を去った。光と翳のコントラスト、小池の異能にぞくぞくしながらページをめくったものだ。大崎善生の『聖の青春』(講談社文庫)も印象に濃い。こちらは29歳で夭折した棋士、怪童・村山聖の物語。文字通り、命がけで将棋を指す、その真っ直ぐな生き方に胸を打たれた。

 優れた才能がふるいにかけられ、熾烈なサバイバルを経て、ほんの一握りが高みに到達する。その構造はプロスポーツの世界も同じで、ジャンルは異なれど達人の言葉は相通じるものがある。別々の種目を選び、歩んできた道はまるっきり違っても、ハイレベルな次元になるほど勝負を決する肝の部分は重なり合うのだ。

 そこで、異種をクロスオーバーさせ、考察を深めることは可能か。深度を追求するのではなく、越境することで新たな地平を拓く。昨年、知り合いのライターが、そんな仕事をものにした。


 


 
 いしかわごうの『将棋でサッカーが面白くなる本 3日で理解できる将棋戦法入門』(フロムワン)。帯には〈これを読めば将棋がわかる! サッカー観が変わる!!〉とある。将棋とサッカーのコラボレーション。この試みには意表を衝かれたね。

 将棋のスーパー初心者向けに、ルールや棋譜の読み方、駒の種類といった基礎中の基礎からスタート。冒険的なマッチングだけに購買層を特定しかね、とりあえず底辺からフォローしようという親切設計だ。

 そして、全駒8種のイメージポジションとイメージ選手は下記の通り。

王将=ゴールキーパー/川島永嗣(スタンダール・リエージュ/ベルギー)
歩兵=フォワード/岡崎慎司(1.FSVマインツ05/ドイツ)
香車=サイドバック/長友佑都(インテル・ミラノ/イタリア)
桂馬=トップ下/香川真司(マンチェスター・ユナイテッド/イングランド)
銀将=ボランチ/遠藤保仁(ガンバ大阪)
金将=センターバック・ボランチ/長谷部誠(1.FCニュルンベルク/ドイツ)
飛車=攻撃の要/本田圭佑(ACミラン/イタリア)
角行=リベロ/田中マルクス闘莉王(名古屋グランパス)

 駒の動かし方は知っているけど、サッカーはちんぷんかんぷんという人には、選手の動きがイメージし易くなるだろう。6月に開幕を控えるFIFAワールドカップ・ブラジル大会の前に、憶えておくといいかもしれない。駒に選手を当てはめる際、多少の齟齬や個人の見解が分かれるのは致し方ないところである。たとえば、「機動力の高さと斜めに切れ込む動きを得意とする岡崎こそ、角にふさわしいのではないか」。その意見はもっともなのだが、歩に特有の献身性、敵陣で裏返り成金になったときの威力倍増に着目すると、やはり岡崎がピッタリのように思える。

 僕は主にサッカーライティングを生業としながら戦術オンチで、将棋の戦術はもっとわからない。だから、「矢倉戦法」(ポゼッションタイプ)、「四間飛車戦法」(カウンタータイプ)、「美濃囲い」(サイド攻撃に強い)といった解説コーナーは頭から煙が出るかと思ったが、どうにか大丈夫だった。なるほどなぁと読みつつ、理解が深まったとまではとても言えない。ロジカルに解明できる人との差を痛感する一方、ちょっぴりわかったような気になれるのが救いである。

 本書に収録されている、波戸康広(元日本代表)×野月浩貴(日本将棋連盟棋士/七段)、中村憲剛(川崎フロンターレ)×渡辺明(日本将棋連盟棋士/初代永世竜王)のスペシャル対談は読み応えたっぷり。トップレベルを知る者同士の思考の絡み合いが、じつに興味深かった。

 次回は特別に著者インタビューを載っけちゃうよ。どうしてこの本を仕掛けたのか。将棋界ってどんなところなのか。そのへんを訊いてみたい。

 
 
 
-ヒビレポ 2014年5月16日号-

Share on Facebook