ヒビムシ  2 – 8


再度山:リンゴコフキハムシ

沢田佳久
(第11号で「五十円玉はどこだ」執筆)
 
 
 
 神戸市街地の北に「再度山」と書いて「ふたたびさん」と読むナルホドな地名がある.地名の由来は弘法大師が唐からお戻りになって云々と,さらにナルホドである.現在では山としてより地域の名前として言う.六甲山中腹のなだらかな一帯が公園になっているのだ.幾つか池もある.

 ここへ今日,8日の午後に行った.汗ばむ陽気だった.ん?「ばむ」て? 「黄ばみ」とかのか… 帰ってから今年はじめて行水をした.夜になって竜巻注意報が出た.

 日差しも風も強く,写真は撮りにくかったが,虫は多かった.なぜかあの辺りにはウラジロノキが多い.そこではハバチの幼虫が一斉に孵化し,兄弟並んで葉を食べていた.広場の木陰ではキランソウとセイヨウジュウニヒトエが隣接して咲き,ニッポンヒゲナガハナバチが飛び回っていた.サクラの枝ではムネアカアワフキの♂だけ見かけた.などなど,どの虫の事を書くか迷うくらいいろいろ居た.そのなかで,生態が興味深いものを立体写真で紹介しようと思う.
 

 
 まず寄生蜂の繭.コナラの葉の裏に長径5ミリほどの楕円体が釣り下がっている.その上には芋虫の残骸があった.
 脱皮殻のようだが,そうではない.体の中を食い尽くされ,皮だけが残っているのだ.よく見ると3対の胸脚は宙に浮いており,4対の腹脚でしっかり葉をつかんでいる.この姿勢で最期を迎えたのだ.満腹した寄生蜂は糸を綴って釣り下がり,繭を作って中で蛹になっている.穴が開いていないのでまだ中にいるはずだ.
 その過程でもし寄主の芋虫が苦しんで地面に落ちたら,寄生蜂は営繭も蛹化もできないだろう.寄生蜂は芋虫を良い場所に停止させる必要がある.体の中の大部分を食いながらも,要所要所,巧く食い残しているのだろう.腹側を通る神経系,背側を通る循環器系,移動するための最小限の筋肉など.
 寄生蜂は,たぶん,チビアメバチの仲間ではないかと思う.とりあえず一式を持って帰って成虫が出てくるのを待つことにした.
 

チビアメバチ類の繭


 
 ちょうどモチツツジが咲きはじめていて,花にも蕾にも虫が多かった.セダカコガシラアブの配偶行動もこの花を中心に繰り広げられていた.この種は体の大きさに変異が激しい.♀はやや大きいようだが,小さめの♂に特にさまざまなサイズのものがいる.花に止まったペアに別の♂が割り込んで略奪したり,撃退したり.延々とやっている.
 重なっている雌雄はすべて交尾中というわけではなく,占有しているだけのようだ.交尾後はなるべく長く「蓋」として過ごせ,それがDNAの思しめしなのだ.
 そもそも変な形の虫だ.体軸というのか頭から尻尾へかけてのラインが90度折れ曲がっ手居る.横から見て「へ」の字の体形である.その姿でツツジの類いの花に潜っているのをよく見かける.写真ではよく見えないが口吻も非常に長い.雌雄とも体がへの字なので(配偶行動のためではなく)摂食のため,花に潜りやすい体形がコレという事なのだろう.
 

セダカコガシラアブ


 
 コナラの枝先にいたリンゴコフキハムシも奇妙な作業をしていた.名前にリンゴとあるが,よく見かけるのはオニグルミの葉で,今回はコナラである.しかもまだあまり粉を吹いていない.本格的に粉吹くと純白になって撮影しにくいのだが,現状はまだ「粉ばむ」程度.
 ご覧のように後脚で立って,前脚と中脚で球をこねている.この仲間は卵を自身の糞で包むという,何とも巧妙なことをするのだ.近いグループのツツハムシの仲間では前脚と中脚で逆立ち気味に立ち後脚で糞をこねるのだが,このリンゴコフキの場合,二本足で立って前の四本の足でこねるようだ.
 餌を洗うアライグマ,木の実を両手でもつリス,貝を割るラッコに匹敵する可愛さではないか.惜しむらくは小さいことと,モノが糞なことである.
 

リンゴコフキハムシ


 
 以前名前だけ書いたクロモンキリバエダシャクの幼虫を今日も見かけた.やはり今年は多いようだ.オカモトトゲエダシャクの幼虫もである.ともに絵になる尺取虫である.後者は中々の糞っぷりなので,今回図示しておこう.
 このオカモトトゲエダシャクの幼虫は,この時期のさまざまな植物で見かける.全身が黒と白の不規則な模様で,鳥の糞っぽいデザインである.白黒の配分が個体ごとに違い,成長とともに白の比率が大きくなるように思う.黒のかわりに緑褐色とでもいうべき色の個体もいる.
 写真の個体はたまたまイラクサ科の葉にいたものだが,いろんな植物で散発的にみつかる.鳥糞らしいバラけ具合だと思う.
 ふだんは尺取虫として葉を食べているのだが,人などに気づくと防御姿勢に入る.下半身というか後半身だけで葉につかまり,上半身を浮かせている.体を折り曲げたうえ,捻っている.非対称性によってますます虫らしくなくなり,鳥糞っぽさが増す.よく見ると上半身は裏向けになり,胸脚がこっちを向いている.最悪の事態での反撃を狙っているのだろう.
 多くの尺取虫では直立不動の,いわば”棒化”が標準の防御姿勢である.しかしこの種の場合”糞化”を発動する.容姿に自信があると行動まで違ってくるのだ.
 

オカモトトゲエダシャクの幼虫


 
 帰り際にユウマダラエダシャクの仲間が飛んできて葉に止まった.全体に白っぽい蛾の成虫である.これも鳥糞模様で,白の比率が高く,明らかに鳥のものである.少し黄色い部分もある.平面的ではあるが,水っぽい鳥糞がベチョっと広がった状態をリアルに再現している.みごとな仕上がりであった.考えてみると鳥糞デザインの虫は多い.カイコだってアゲハの若齢幼虫だってそうだ.
 日本には四季がある,とか偉そうに言うのだが,他の国や地域にもそれぞれ周期性があって,それぞれ愛すべき自然なのだろうと思う.ただ,だいたい四つという点は理解したり説明したりしやすい,ほどほどの数なのかもしれない.
 で,分かりやすい日本の春は木々の新緑に虫がわき,それを餌にして雛を育てるために鳥がわざわざ渡ってくる.春は鳥糞の季節なのである.とりのくそ,五文字だ.
 
 

◆立体写真の見方◆

同じような2コマが左右に並んだものは「裸眼立体視平行法」用の写真です.
平行な視線で右の目で右のコマ,左の目で左のコマを見ると,画面奥に立体世界が見えてきます.
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色がズレたような1コマのものは「アナグリフ」です.
青赤の立体メガネでご覧ください.
メガネは右目が青,左目が赤です.
緑と赤の暗記用シート等でも代用できます.

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-ヒビレポ 2014年5月21日号-

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