超小市民あるあるパラダイス  第8回

独身でずっと実家住まいあるある

 
田中稲(11号で「大阪から来た女」執筆)
 
 
 
 
ここ数年、娘と母の距離感を問題定義した雑誌記事や書籍をよく目にするようになった。いつまでも子どもを支配しようとする「毒親」、母親とべったりで自立できないまま、母親に先だたれウツ状態になってしまう「母ロス」……。いやはや、耳が痛い。私も44才でありながらずーっと独身、引っ越しは一度しているものの、親から離れたことが無い実家住まいである。
いや、実際超ラクなんである。実家暮らし。親がご飯作ってくれるわ、時々掃除はしてくれるわ、マンションの役員会には出てくれるわ。しかし、そのラクさが人間をダメにしていくと言いましょうか。
もし、今ヒビレポをお読みの方で、一人暮らししようかどうか迷っている(←〝迷っている″がポイントですっ! 全然迷ってない人は己の道を貫いて下さい。それも素晴らしい!)独身実家暮らし20代〜30代前半の人がいるなら、私は自分の現状を踏まえ、こう助言しましょうっ。
「とにかく短期間で出戻ってもいいので、一回は家を出たほうがいいぞう」
と!
 

 

独身実家住まいの厄介なところ。なにより、嫁ぐため(もしくは独りで生きていくため)に必要な能力が全くもって発達しないんである。いや、焦りはしているのだ。このままじゃ人としてヤバいのは間違いない、と。しかし、人間は甘ったるい生き物である。ズルッズルズルッズル上げ膳据え膳環境に浸り、生活するためのテクを学ばないまま年老いていく。これはホラー並みに怖い。ガタブルガタブル。
特にオカンがバリバリに家事ができる専業主婦の場合は危険。私はまさにその泥沼タイプであり、おかげで料理は全くもってダメ。野菜は一応切れるが、キュウリ一本切るのに煮物一つ仕上がるくらいのスローペースだし、唯一の得意料理である卵焼きも、毎回作っていて味が違う。もし結婚したとしても、こんなワシなんざ「ヤスコさんもういいですからお運びに徹して」とお姑さんから冷たい声で言われちゃいそうだよなあ。へへっ(自嘲)。
まあ、せめてルーの箱見なくてもカレー作れるようにはしとかなきゃあなあ。嗚呼、書いてて婚期がガンガン延びていくのを感じる…。いやいや、努力しますんでッ。

もちろん、40歳を超えても独身で一人住まいなら最近ザラにいる。ただ、「実家から出たことが無い」がつくと突然「うーむ!」という雰囲気になること多し(もちろん特別な理由があって家を出ない人は別です念のため)。少し前、全く同じ環境の方に
「40過ぎて一回も結婚したことないし、1人暮らしもしたことないの? なんか大人としてヤバくない? 僕もそうだけど」
と言われたことがある。いろんな意味でスゴイセリフだぞ(汗)。一見すると
「お前もそうなんかいっ、人の事言えんやろー!」
とツッコみ所満載なのだが、いやはや、妙に納得してしまった。なんというか、40歳も過ぎてこの状態はちょっと、と本人が一番やべーと思っているのだよなあ。私自身、結婚はともかく(ともかく!)、親元を離れるチャンスは数回あったのに、それをしなかった自分にものすごいコンプレックスがある。彼も同じなのだろう。だかこそ、同種の輩を見ると、己の立場を省みず
「あんたヤバいくない?」
と思わず言ってしまうのだ。アイタタタ。

実は私も就職したての頃、本気でいろーんな計算をし、場所のめどもつけ、両親に
「家を出ていきます。自立します」
と宣言したことがあった。が。「娘が家を出るときゃ結婚する時」が持論のオトンが激怒。オトン自身が超遊び人だったこともあり、娘が一人暮らしなどしたら、自分のような男にコロッと騙され、お金取られ、流れ流れて行方不明になり、主張先でたまたま入った場末のバーで落ちぶれた娘を発見する事になってしまいそうで嫌だーッと妄想を働かせたようである。
「お前みたいな甘ちゃんが無理や」
その場では一言言い捨てられて決裂。が、次の日の晩からオトンは家に帰ってこなくなった。代わりに行きつけのスナックからベロッベロに酔っぱらって、電話をかけてくるのである。まさかの遠隔説得!!
「ヤスコを出せ―。生意気なヤスコを出せ―えぇぇぇ」
ひーーー!!酔っぱらった時のマサオほど危険なものはないー(泣)。が、ここを乗り切らないと自立は無い。ごくりと唾を飲みこみ、オカンから受話器を受け取ると。
「一人暮らししたらお前を呪う。毎晩呪ってやるからなー」
受話器から漏れてくる、父のロレツの回らない震え声。想像してほしい。ドスの聞いたオッサンの唸るような泣き声。呪いという単語。怖い。しかもこれを1時間くらいやられるのだ。軽い拷問である(泣)。顔を見て言えんのか、という感じだが、父親は娘に対しては一番ヘタレになってしまうのもである。結局、このオトンの「電話で呪い作戦」は数日続き、私は家を出ることを断念した。
その後、何度か一人暮らしを考えながらも「今度お付き合いした人と、同棲もしくは結婚という形で家を出た方が丸く収まるだろうな」と延ばし延ばしにしているうちに、今に至る。恋愛というユルユルなものを頼りにした人生の計画なんざ思い通りにいかんのだ。けっ。

もちろん、実家住まいの中でも、親も子もちゃんと線引きし、20過ぎたあたりから新しい規則を作って自立を図る家族もいらっしゃる。が、やはり、しばらく会わない時期があってこそ
「あらしばらく見ないうちに大人になって」
と、客観的に我が子の急激な成長を確認できると思うのだ。実家暮らしは常に一緒なもんだから、その「急激な成長の確認」ができない。それゆえ、親にとって、子どもはどれだけガタイが大きくなろうとも、守るべきコドモのまま見守り続行。私など、いまだにオカンと百貨店に行くと1時間に1回くらい
「お手洗い行っとくか?」
幼少期と同じトーンで確認をされるし、東京に泊まりに行く時でも
「お腹を冷やさないように」
とメールが来る。44歳だからさーもうー腹が冷えたら自分でどうにかできるからさー(泣)。オカンの中では私はきっと小学校くらいのままなのだろうなあ。

まあ、いろんなタイミングを逃しちゃった私だが、現在、なんだかんだといいつつオカンとの二人暮らしを楽しんでいる。しかし、一人の力で生活のアレコレを経験しておくのは、絶対的に必要だったよなあ、と今でも思っている。「後悔」とはちょっと違うが、飛び出す勇気を持たなかったツケみたいなのは「生活力の不安、自信の無さ」という十字架に変換され、常に背負っております。とほほ。
「田中さん、今でも十分間に合いますよ。一人暮らしすればどうですか」
と言ってくれる人もいるが、さすがに親が70歳の半ばも過ぎ弱り出した時点で1人暮らしするのは、介護の前に逃亡するみたいで、罪悪感がハンパない(泣)。いやいや、これすら言い訳で、もう面倒臭い。うわあああ、なんか禁断の一言を言ってしまった。「面倒臭い」!!
環境を変えるってホンットにすごいパワーだと思う。それより現状維持&楽しむ方にシフトしちゃうのよね。守りに入るとはこういうことか…(違うか…)。

ということで、あくまでも私個人の意見でございますが、親に反抗する、理路整然と言い返せる(それも、何度もし続ける)気力と知力がある。大金を持たず家を飛び出してもどうにかなる体力もある。就職先も選べる。そしてそしてなにより、親が元気。この条件が揃った20代中盤くらいに、一度は飛翔する事をおススメするぞ!

 
 
 
-ヒビレポ 2014年5月22日号-

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