MAKE A NOISE! 第35回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

作家性

 

山口ゆかり
(第13号で「ロンドンでゲイ、レズビアンたちに混じる」執筆)
 
 
 
 前々回の『Frank』同様、写真を見て、ちょっと勘違いだったのが、マルジャン・サトラピ監督『The Voices』です。

ⓒReiner Bajo

 猫と会話してるようなライアン・レイノルズを見て、猫が人の言葉で話しだす村上春樹的世界を想像しました。が、レイノルズ演じる主人公ジェリーは、声が聞こえる病気だったのでした。犬、猫とともにジェリーの話し相手となる卓上の生首は、ジェマ・アータートンです。
 

 

 サトラピ監督といえば、自伝的な漫画『ペルセポリス』と、それを自ら監督した同名のアニメーション映画で知られます。イスラム革命前後のイランを舞台に、そこに生きる女の子の実感を伝える作品です。漫画も、監督デビューとなる映画も、それぞれ国際的な賞を獲得しています。
 

 
 アニメならではの表現だったのがボーイフレンドでした。つきあいはじめはスマートな青年として描かれていたのが、後には小汚い醜男として描かれ、恋は盲目を見せてくれました。
 狂気を描いた今回の実写映画『The Voices』でも、それを思い起こすシーンがありました。写真のように快適そうなジェリーの住まいが、後半になると、ジェリーに見えている世界とわかります。ほんとうは見るもおぞましい状態というのが映し出される頃には、ジェリーの世界も破綻していきます。

 クロス・ジャンルで、最初はピンクと水色のバスタブ工場が舞台のラブコメ仕立てです。次第にペットと会話するジェリーの危なさが見えてきて、そこにジェリーがこうなるに至った可哀想過ぎる過去まで加わり、スリラー、サイコロジカルドラマの要素も入ってきます。 
 エンディング・ロールのダンスを複雑な気持ちで見ながら、現実に着地させずに突き抜けて欲しかったと思いました。『Frank』でも似たようなことを書いてましたね、私。現実逃避なのでしょうか。
 
 今回、初のアメリカ製作となったサトラピ監督は「ヨーロッパでは監督がファイナル・カットを作りますが、アメリカではプロダクションが作るのです」と驚いてました。
 ダイレクターズ・カットとか言われると、なんだか有り難味がありますが、ヨーロッパでは、ダイレクターズ・カットとついてなくても、基本そうなのですね。
 プロダクションズ・カットで公開して、ダイレクターズ・カットのDVDでまた儲けるとは、ハリウッドはほんと商売上手。
 『The Voices』のスプラッターなシーンと、サトラピ監督の言葉で、ハリウッドには、切り裂きなんとかと呼ばれるほど、撮りあがった映画を切り刻んで、作り直してしまうプロデューサーがいることなども思ったのでした。

 そういえば、これまでにも話を聞きつつ大プロダクションの力を思ったことがありました。
 ハリポタシリーズのプロデューサー、デヴィッド・ヘイマンは、重役を務めるワーナー・ブラザースでは作らせてもらえない『縞模様のパジャマの少年』のような映画を作るために、自身のプロダクションを設立したといいます。
 巨匠と呼ばれるようになってからのマーティン・スコセッシ監督でさえ、自作がなかなか公開されず、プロダクションに気に入られなかったかと、へこんだことがあるそうです。
 
 そこまでシビアな大手プロダクションが売れる映画を作ることは評価するとしても、作家性はどうなるの?なんてことも思います。
 サトラピ監督は、『ペルセポリス』以降の監督作でも脚本から書いていましたが、今回の『The Voices』はプロダクション進行の企画で、脚本家が書いたものを送られ、読んでみて撮ろうと決めたそうです。逆に言えば、自分の土俵じゃないところでも面白い映画を撮れる監督としての力量は証明されたかもしれません。
 でも、やっぱり、自伝的な作品とか、企画から自分で、みたいな、個人的な動機の強い作品の方に惹かれます。
 
 そういう作品で、かつ、秀作となったのが『Beware of Mr. Baker』(第2回)でしたが、それにも出てきたフェラ・クティをメインにした映画も、今回のサンダンス・ロンドンで見られました。次回はそちら。

 
 
-ヒビレポ 2014年5月24日号-

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