買ったなら読め! 第8回

「将棋とサッカー」の著者は語る

 
海江田哲朗
(第12号で「劇団カクスコ 11年後のカーテンコール」執筆)
 
 
 
 サッカーと将棋を組み合わせた画期的な一冊『将棋でサッカーが面白くなる本 3日で理解できる将棋戦法入門』(フロムワン)。著者のいしかわごうさんは将棋アマ3段の腕前。僕と同じサッカーを中心に活動するライターで、主にJ1の川崎フロンターレを取材している。

●棋士にサッカーファンは多い

――この本を仕掛けようとした動機は?

「たまたま僕は将棋とサッカーの両方が好きで、混ざり合うようになったら面白いなぁと考えたのがきっかけです。将棋って、一般の方々にはどうも敷居が高いみたいなんですよね。でも実際にやってみると全然むつかしくない。ルールも簡単です。そのハードルをちょっとでも下げたいなと。取材しているフロンターレが斬新なアイデアで集客イベントを仕掛けることで有名なクラブですので、そこからヒントを得たというのもあります」

――ハードルを下げる試みのひとつ、選手を将棋の駒に置き換えるアイデアがユニークだと感じました。どの駒で悩みました?

「歩兵ですね。日本を代表する選手に『歩』というのは失礼なんじゃないかと。あれこれ考えて、献身的なプレーが特長の岡崎慎司選手を選びました。あと『角』もイメージにはまる選手がなかなか見つからなくて。吉田麻也選手も候補だったのですが、彼はどちらかといえば『金』のほう。最終的には守備力の高さに加え、オーバーラップが売りの田中マルクス闘莉王選手にしました。サッカーの11人に対し、駒は8種類しかない。誰かを落とさなければいけなかったのは心苦しかったです」


 
――周囲の反応はいかがでしたか?

「将棋界のほうが反応は大きかったです。サッカー好きの棋士はけっこう多いんですよ。この本の監修をお願いした棋士の野月浩貴さんは将棋の戦術をサッカーから着想する方ですし、中村憲剛選手と対談していただいた渡辺明さんも大のサッカーファン。渡辺さんが王将のタイトルを獲ったときの副賞は、マンチェスター・ユナイテッドのオーセンティックユニフォーム(背中にOHSHOとプリント)ですからね。棋士は面白い方がたくさんいて、思考の巡らせ方はサッカー監督と似ているように感じます」

●自分で負けを認めるのが将棋

――そもそも、いしかわさんが将棋に興味を覚えたのは?

「小1か小2の頃、祖父から教わりました。勝ったら50円お小遣いをもらえて、それが最大のモチベーション。その後、中学はサッカー部で、高校は将棋部です」

――サッカー部から将棋部というのは、なかなか珍しい。地元は北海道の……。

「根室です」

――将棋部の話、詳しく聞きたいなぁ。

「部員は4人。当然、男子のみ。たまに顧問の先生が女子を連れてきたりしたんですが、定着しなかったです」

――部を活性化させようとする先生の苦心がうかがえます。3年間のハイライトは?

「3年の夏前にある全道大会になるのかな。僕は4人のなかでは一番強かったので個人戦に出て、2回戦あたりで負けちゃいました」

――集大成の大会、やはり投了の瞬間には心の奥底から込み上げるものが。

「ないですね」

――「ぐおー、負けたぁ!」と将棋盤をひっくり返したり。

「そんな人、いません。将棋って、やっていくうちにこれは負けだなとわかる。わかりながらも、しばらくは続けなければいけない。『負けました』といつ言おうか頃合いを見ながら」

――そういうものなんですか。感情が緩やかに着地していく。

「そういうものです。子どもだと負けを認められなくて、ぐずぐず泣いたりしていますけど。『よろしくお願いします』で始まり、最後は自分で負けを宣言する。そういった作法を学ぶ場でもありますね」

●試合前に軽く一局

――将棋界って、ほんと特殊な世界ですよね。

「若くして将棋連盟の奨励会に入り、一部の人が難関をくぐり抜けてプロになる。トップで活躍する棋士はそのまた一部です」

――まさに将棋一直線。

「早い人は中学生でプロになります。谷川浩司さんや羽生善治さん、渡辺さんもそう。最近は大卒の棋士もいますが、高校に行かない人も少なくないですね」

――ちなみにタイトル戦の賞金ってどれくらいなんですか?

「全7タイトルのなかでは、竜王戦が最も高くて4200万円」

――うわっ、4200万円!? 収入面はサッカー選手との比較でどうなんだろう。どう比べていいか、わかんないですね。

「棋士は対局で得る収入のほかに、執筆や講演などの活動もありますし。どちらも競争の激しい世界ですが、ただ、プレーヤーの寿命は将棋のほうが圧倒的に長い」

――将棋の世界を知るためのおすすめ本があったら教えてください。

「最近読んだなかでは、天野貴元さんの『オール・イン 実録・奨励会三段リーグ』(宝島社)が面白かったですね。大崎善生さんの『将棋の子』 (講談社文庫)も好きな一冊。ともに将棋界の厳しい現実を描いた本です」

――それにしても、将棋が好きでサッカーも好きだったのが、こうして結びついて仕事になるのが楽しいじゃないですか。

「親が一番驚いてました。そういえば、あんた昔から将棋好きだったもんねえと(笑)」

――最後に、今後の展望を聞かせてください。もし両方が多少なりとも混ざり合ったら、どんなふうになるんでしょう。

「将棋連盟も若い人に興味を持ってほしいとアプローチの方法を探っているので、少しでもお役にたてれば。サッカーの試合前、入場を待つ間に将棋を指している人がいたら面白いですね。誰でも手軽にできる将棋は向いていると思うんですよ」

――その風景を想像すると、ちょっと異様ですね。試合前にそれで気合い入るかなぁ(笑)。

「今度、『将棋でフロンターレが面白くなる120分』というトークイベントをやります。5月30日、場所は立川のスポーツ居酒屋『KITEN!』。よろしければ、ぜひ!」

※イベントの申し込みはこちら(http://kiten.jp/info/11972)まで。
 定員に達したため申し込みを締切り、キャンセル待ちの状況です。
 

 
 
 
-ヒビレポ 2014年5月23日号-

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