ヒビムシ  2 – 9


阿蘇:オオルリシジミ

沢田佳久
(第11号で「五十円玉はどこだ」執筆)
 
 
 
 南九州へ遠征したのだが主目的の虫は見つからなかった.帰途に立ち寄った阿蘇のこと,16日のことを18日に書いている.

 前日(15日)は車で霧島付近をうろついていたのだが,雨が上がったのが昼ごろで,夕方まで粘ったが断念.ちらっと予習していた第二目的,阿蘇のオオルリシジミを見に行くことにした.この時間に安宿を検索である.しかしこれがそもそものヒットだった.

 到着予定時刻を21時とし,南阿蘇村へ向かう.途中で食べている時間がなさそうなのでコンビニで弁当を買ったがそれでもギリギリだ.焦ったら危ないとも思う.あと数キロくらいで時間切れになってしまい,宿にお詫びの電話をいれることにした.
 実質的には;あと十分ほどで着くと思うので問題ないでしょうね,この程度は遅刻のうちに入らんでしょう,こっちは客だぞ,連絡を入れてるだけ比較的マシな客だと思えよ;みたいな事である.もちろんそんな会話にはならない.宿の仕事はシンドイだろうなと思う.
 ところが電話してみると,現在地付近に共同温泉施設があって営業時間があと1時間だという.その風呂に入ってきたらどうか,待っときますので,との提案である.ちょうどその駐車場で通話してるのだ.お言葉に甘えて入って行くことにした.
 安くて親切な宿だった.電子レンジを使わせてもらいつつ,ご主人からいろいろと話を伺った.趣味でやってるユースのペアレントさんみたいだ.机の上にはデジ一と交換レンズ二本が置いてあって,いつでもスクランブル出動できる状態だ.自身も毎年撮影されるらしいオオルリシジミに関するノウハウを伝授してもらえた.

 で,ここまでが15日の話である.翌日つまり16日は助言に従って6時前に出発した.
 

 

 霧が濃い農道を車でゆっくり上って行く.ときどき降りて周囲の植物をみてみる.草には露が残っていた.放射冷却で冷えた朝である.基本的に上空の天気は良い日なのだ.
 しだいに明るくなると爽やかな新緑の草原が広がっており,霧は薄くなり,草原を雲が駆け上がっていくのが見えるようになった.その切れ間に一瞬,遠くの山並みがくっきり見える.外輪山の稜線だろう.雲の底に盆地の街が見えてくる.雲はいつか少なくなって,気づくと周囲は雄大な阿蘇の地形が広がっていた.ほぼ快晴.

 オオルリシジミの食草はクララというマメ科の植物である.クララという名前は学名っぽい印象だがそうではなく,日本語の「くらくらする」が由来らしい.もちろん在来種で,高原などの草原に自生しているものである.しかしそのような環境じたいが減少してしまっている.クララで育つオオルリも少なくなり,日本での生息地の幾つかは消滅,今や二ヶ所のみになっている.その一つが阿蘇なのだ.
 オオルリは名前のとおり,シジミチョウの中では大型の,分かりやすい種類だ.蝶々はたいてい美しいのだが,希少種だと聞くと更に美しく見えてくるわけで,一般の関心も高い.保護活動も盛んで,観光資源的な価値も見出されているようにも思う.わりと好循環である.社会的認知が進むことで残された生息地での絶滅は回避できるかもしれない.

 さて,予習済みのクララはすぐ見つかった.群生している場所を何ヶ所か見つけ,食草以外の要素を考えてみる.吸蜜のための花はあまり咲いていない.グミの仲間が満開に咲いて匂いも強い.これに来るのだろうか.蝶が日向ぼっこしそうな土の崖にも目星をつけておく.

 車を止めてしばらく歩いていると6時半に一匹目を見つけた.たしかにデカイ.ススキか何かの枯れ茎にポツンと止まり,翅を閉じて縮こまっている.まだ気温が低く,ウォーミング・アップさえできない状態のようだ.回り込んで角度を変えて数枚撮っていると,気づいて飛んだ.しかしすぐに近くのクララに止まった.そのほうが絵になるのでラッキーだ.さらに数枚撮った.無傷のようだ.背景に外輪山と空を入れてみたり,草原を入れてみたり,そのままストロボで光を補ってみたり,余裕の試行錯誤である.ただ,まだ裏側しか撮れていない.表を撮るためには,この個体が翅を開くのを待つのがよさそうである.たぶんここでウォーミング・アップに入るだろう.
 

オオルリシジミ♀


 
 7時20分頃,やっと翅を開いた.黒い点々がある.いい加減な予習なのでこっちが♀だったか♂だったか分からない.電波は来ているが調べるのはあとにする.裏表とも写る角度にしてみたり,さらにストロボで補ってみたり,一匹のモデルさんを何枚も撮ったが数分で飛んだ.ススキの葉に止まったところをもう数枚撮って撮影会終了.

 遠征の第二目的はクリアできたなと思い,同じ場所を往復して手当たり次第に撮影.ケヤキの葉を巻いているルイスアシナガオトシブミや,縄張りを作っているハナアブの類いなど.コナラの枝に最大級のナラメリンゴフシ(虫コブ)ができていた.スケール代りに写しこんだ五円玉の二倍の直径がある.ギンイチモンジセセリも一度だけ見かけ,何とか一枚撮れた.
 

ギンイチモンジセセリ


 
 8時半頃,クララのてっぺんで何かゴソゴソしているオオルリを発見,撮りながら見ていると,産卵しているのが分かった.翅の表には点々がある.こっちが♀だったのか.
 種類にもよるが虫の出始めには♂ばかりでまだ♀がいないこともある.しかし♀が産卵しているのであれば♂はいるはずだ.だったら♂も撮らねば.
 草の上や土の面で日向ぼっこしている個体を何回か見つけて近づき逃げられる事を何度か繰り返した.追いかけあいをしている組も何回か見た.♂と♀なのか,♂どうしなのか,いろんなケースがありそうだ.ベニシジミやヒメウラナミジャノメなど他種の蝶もおり,それらとも空中戦をしていた.
 

オオルリシジミの産卵


 
 9時頃,やっと表に黒点がないほう,つまり♂が撮れた.イタドリの葉の上で日向ぼっこをしている個体だ.近づいて撮っているうちに筆者の影が入ってしまったが,それはそれで良い感じなのでここに採用.ぼさぼさの髪の毛さえラッキーに.
 

900:オオルリシジミ♂


 
 いい加減な予習のわりには一通りの状況が撮れた気がする.あとは交尾がほしかったか.けっきょく10時ころまでこの最初のポイントでうろつき回って撮りまくった.その後,数ヶ所を移動して撮影.3時頃に帰途についた.
 翌日の17日は土曜なのでETC割引に該当する.なるべく閑散としたPAを選んで仮眠することで早起きした分を補い,神戸にたどり着くときには日付が変わっているという算段である.
 
 

◆立体写真の見方◆

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-ヒビレポ 2014年5月28日号-

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