MAKE A NOISE! 第36回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

ドキュメンタリーいろいろ

 

山口ゆかり
(第13号で「ロンドンでゲイ、レズビアンたちに混じる」執筆)
 
 
 
 このヒビレポで、面白い!の第一弾として書かせていただいたのが『Beware of Mr. Baker』(第2回)。輸入版DVDなら、アマゾンなどから入手できるようになってました。
 

 
 超絶ドラム・テクを持つ、超絶にとんでもない人ジンジャー・ベイカーが、老いた今なおそのまんまなのが可笑しくも哀しいようなドキュメンタリーですが、チラリと登場するフェラ・クティもさすがのインパクトでした。アフリカ音楽を世界に広めた第一人者です。そのクティを主役にしたドキュメンタリーが、アレックス・ギブニー監督の新作『Finding Fela』。
 

Credit:Stein Kertechian

 

 
 
 ええ、見つけましたとも。良くも悪くも、この人、ふり幅あり過ぎ。 
 革命後、軍が権力を握ったナイジェリアで「音楽は武器だ」と自身の楽曲で体制批判、何度か拷問されています。ナイジェリアと言えば女子生徒誘拐事件、これが掲載される頃には解決していることを願いたいですが、当時も大変だったのですね。
 そんなヒロイックなミュージシャンですが、暮らしはハーレム。一度に27人と結婚式を挙げたりして、たくさんの女性と一つ屋根の下に住んでいます。女性の頭をむんずとつかみ、引っ張り出して躍らせるライブ映像など、特にフェミニストでなくてもむかっ腹が立ちます。
 そのくせ、とても母親思い。家に攻め込んできた体制派に、年老いた母を二階の窓から投げ殺された後、ちょっと変になります。スピリチュアルに傾倒し、胡散臭いマジシャンにだまされたりしています。
 放埓なドラッグとセックスの暮らしがたたったのか、1997年に58歳でエイズがもとで亡くなった時には、百万人以上とも言われる人が葬儀に訪れました。

 ざっと書いてさえアップダウンが尋常ではないフェラ・クティの人生を、映画は押さえの効いた語り口で過不足なく伝えてくれます。
 オスカーも獲得しているギブニー監督は、淡々と事実を積み上げていく撮り方をします。昨年、エミー賞3部門獲得の『Mea Maxima Culpa: Silence in the House of God』は、聖職者による聴覚障害のある少年たちへの性的暴行が、大人になった被害者たちによって告発された事件を扱った映画です。撮り方が冷静な分だけ、起こった事の酷さが立ち上ってくるようでした。
 

 
 ミュージシャンを撮った映画なら、ドライブ感のある『Beware of Mr. Baker』みたいな方が好みです。
 とはいえ、ハンディはありますね。なんたって『Beware of Mr. Baker』では現在のベイカー本人が一番ドライブしてますが、『Finding Fela』では現在のクティが登場することはかなわないのですから。
 
 そういえば、ギブニー監督の前作『The Armstrong Lie』が面白かったのは、主人公ランス・アームストロングが、元のアイディアを台無しにしてくれたおかげでもありました。生きている人を撮ると、そういうこともあるのですね。
 

 
もともとは、しばらく第一線からしりぞいていたアームストロングが、またも挑む2009年ツール・ド・フランスを撮ったドキュメンタリー『The Road Back』となるはずでした。アームストロングはガンを患ったにもかかわらずツール・ド・フランス7冠のヒーローですから、勝っても負けても感動の復帰ドキュメンタリーとなったであろうものがお蔵入り。かねてからドーピング疑惑のあったアームストロングが、テレビでオプラ・ウィンフリーの質問に答え、とうとう薬物使用を認めたからです。7冠も剥奪されました。
 新たな映像を加えて編集しなおしたのが『The Armstrong Lie』となりました。  
 自分を糾弾する者は、たとえチームメイトであろうと逆に嘘つき呼ばわりして、訴えることまでしていたアームストロングには、すごいものがあります。ガンを克服しての7冠という出来すぎのヒーロー像、いったんまとったが最後、そこまでしても脱げなくなってしまうのですね。

 次回も、パワフルなドキュメンタリーをご紹介予定です。

 
 
-ヒビレポ 2014年5月31日号-

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