夕陽に赤い町中華 第9回

チャイナの研究(1)

 
北尾トロ(編集長)

 
 
 
 
 
 この連載ではライターの下関マグロが撮影を担当している。町中華も好きでよく食べているし、東京中が散歩エリアになっているマグロは、町歩きの道先案内人でもあるのだ。「今週はどうするね?」「水曜とか、どう?」といった感じで連絡を取り、駅前で待ち合わせて2時間ばかしぶらぶらするのがパターンだ。

●町中華探検隊
新宿御苑から曙橋界隈を、チャイナ中心に歩いてみた。
町中華や中国料理店も登場するので、たたずまいの違いが
わかりやすいかもしれない。                 撮影/下関マグロ

 

 町中華を食べ、すると口内が脂っこくなるので、喫茶店でコーヒーを飲む。これがね、なかなかうまいんだ。食後のコーヒーがうまいのは、1にイタ飯、2に町中華、これホント。町中華のときはたいてい食べすぎているし、多少ノスタルジックな気分になったりもするから、そっけないチェーン店より古めの喫茶店に入りたくなる。
 話題は今食べたばかりの食事と、町中華の現在過去未来が中心。冴えない日常生活とか仕事のことも頻度が高い。総じて、やや後ろ向きである。

 
「ヒビレポの連載、どっかからウチでも書いてよってオファーとか来たかね」
 まったく。が、オファーがあれば前向きに考える用意はある。
「用意は大事だよね。うーん、ま、じっくり行こうよ」
 じっくり行くしかないねえ。なんといっても1回に1店しか食べられないもんな。
「でもフードライターの人たちは違うみたいだよ。一日に何店舗も食べ歩かないと取材にならないから」
 そうなの? たいしたもんだなあ。
「我々とは胃袋が違うよ。でもキミは頑張ったねえ。セットメニューたいらげた。ボクは残した。味は悪くないんだけど量が。後半キビシイ」
 追い込みにくいんだ中華は。スパートが効かない。しかし最近のマグロは苦手だった肉をそこそこ食うね。
「そこなんだよ。中華だと割とね、いけちゃうところがある。それに最近は酢豚あるでしょう酢豚。あれなんて苦手な部類だったけど、旨い店あるんだよね。黒酢酢豚。肉のみなんだよ。そんで肉が旨いの。いろいろ食べ歩いてみて、おっ、黒酢ならばいけるぞと、そうなるわけでしょう。一つの例としてね。だから我々もいまは町中華をよく知る段階にいるわけよ、まだね」
 それはたしかだ。町中華が気になる、町中華どうしたって思いで始めたことだけど、食通でもなんでもない。我々にはどこにでもいるレベルの町中華体験しかないからね。そもそも通を目指してないもんな。
「ま、じっくり行こうよ。来週どうかね」
「いいねえ」
 
 それでチャイナのことなんだが、これは町中華めぐりを始めたころにマグロが使いだしたことばである。こういうものだ。

{チャイナとは}
・安さを前面に出し、中国人がオーナーないし店長を務め、店員の多くも中国系で固めている大衆路線の中華料理店。
・メニューの多さが特徴。単品からセット、定食までこれでもかと扱う。
・カツ丼、カレー、オムライスなどの町中華メニューはない。
・300円均一など、なにかと均一好き。
・昼は弁当で稼ぐ店が多い。
・看板が派手。店名は日本人には分かりにくい漢字をよく使う。
・夜は飲み屋に変身。飲み食べ放題が好き。
・カタコトの日本語が飛び交う。
・密集しがち。
 
 どうだろう。あなたの町にも1軒くらいはあるのではないか。
 この手の店をマグロはチャイナ派とか、チャイナ勢力と呼んで当初から警戒心をあらわにしていたのである。町中華の存在を脅かす悪役としてとらえていた。イメージは、目的(商売繁盛)のためには手段を選ばない獰猛な肉食獣だ。
 ぼくも同様に感じた。チャイナ・インベンションによって、良くも悪くものんびりしている町中華が駆逐されようとしている…。
 しかし、勢力の拡大ぶりを見るにつけ、悪役で片づけていいものかという反省の気持ちが芽生えたのである。
 悪役というのは、町中華という主役(善玉)に対抗することばだ。その存在は主役が強ければ強いほど光輝く。
 黄昏気味の町中華に、主役が張れるのか? 
 張れなくはないと思う。現にぼくは町中華の魅力にぐぃ〜んと惹きつけられているのだ。でもそこに漂うムードは哀愁。

 一方、いまやチャイナは「チャイナもあるね」で済まされるマイナーな存在ではなくなっている。それなのに、我々はチャイナについて無知すぎやしまいか。こんなに増えているのに注目される気配がなく、まともな論文さえないのだ。現象面に関心を抱くことなく、胃袋のみで付き合う態度が許されるだろうか。どうせアイツとは遊びの関係だからと軽く考えてたら、後々とんでもないことになった、なんていうのはよくある話だ。下半身がそうであるなら胃袋だって似たようなものかもしれない。町中華ってイイ感じだよねと言いつつ足はチャイナへ。気持ちは蕎麦屋や定食屋だけど開けるのはチャイナのドア。そうでなければ躍進するはずがないのである。

 発展途上人の我々としては、チャイナが何であり、どう進化しているかということに積極的に取り組むことが急務なのではないだろうか。
 あやふやな点もあるが、一つはっきりしているのは、チャイナには独特のムードがあり、少し慣れると「あ、チャイナだ」とわかってくることである。
 いくつかの町を歩いてみて、ぼくは肌で感じている。チャイナ勢力がひたひたと押し寄せていることを。町中華が危ないとか、そんなレベルではなく、チャイナという新ジャンルが誕生し、日本の食べ物屋マップは大きく変化していているのだ。
 どうも駆け足だな。うまく説明できてる自信が持てない。ここは活字より、絵で見てもらうほうが早そうだ。今回、チャイナのメッカとも言える新宿御苑駅から富久町、曙橋の手前までを歩いてみたので、まぁ見てください。本当にチャイナだらけなんだ。
 
 
 
-ヒビレポ 2014年6月1日号-

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