夕陽に赤い町中華 第10回

チャイナの研究(2)

 
北尾トロ(編集長)

 
 
 
 
 
 今回はチャイナの歴史について考えてみよう。今席巻しているチャイナの源流がどこにあるのかは不明だが、原型らしきものが目につき始めたのは90年代だと思う。90年代半ばには、店前で弁当を売る、これまでとは違う雰囲気の中華料理店が出現していた。味については、弁当嫌いのぼくに代わり、下関マグロ氏に証言してもらおう。

「あの頃のチャイナ弁当は…弁当だけじゃなく店で食べても言えることだけど、本国の味をそのまま持ってきた、チャイナ色の強い食べ物だったんだよね。シェフの出身地によって味付けも決まってくるようなところがあり、まずくはないんだけど、ボクにはきつすぎる味付けだった。一度は食べても、多くの人は日本の弁当屋に戻ったんじゃないかな」

 値段は当時も安かったが、安ければいいみたいなところがあった。世の中の不況は進んでいたけど、まださほど深刻ではない。ちなみに皆がこぞって弁当販売をやりだすのは00年代以降の話だと思われる。節約が叫ばれ、コンビニが弁当を強化し、弁当男子なる言葉も生まれたのは承知の通り。
 でね、第1次チャイナインベンションはそれほどのインパクトを与えることなくしぼんだように見えたのだ。日本人の口に合わない本国のテイストをそのまま持ち込んだ結果、定着までには至らなかったとぼくは考える。善戦したのは台湾系の小皿料理の店で、大陸系はさほどじゃなかった。

 
 やりにくい面もあったかもしれない。もともと日本には中華街に代表される、中国料理店があり、高級店もたくさんある。一方で庶民向きには町中華が広く行き渡っている。成功のためには両者の間隙を縫う必要があるが、層も厚ければ名前も知られている高級店の牙城を崩すのはハードルが高く、弱体化しつつある町中華に目をつけた。ここまではいい。でも、当時のチャイナは町中華をなめていたんじゃないだろうか。カレーやカツ丼を売っているような店である。本場の味を低価格で提供したら負けるはずがない。そのように考えたのではないだろうか。
 その気配を察したのは町中華店というより世のオヤジたちではなかったか。低料金中華なのか、町中華なのか。選択を迫られたとき、90年代ではまだ町中華を選ぶ人が多かったのではないか。無意識にだろうが、慣れ親しんだ町中華の味を捨て去ることを良しとしなかったのだ。

 高級中華の高い壁と、町中華の抵抗で、第1次チャイナは日本に浸透することができなかった。でも、すべてが撤退したわけではなかった。ブームにはならなかったけれど、おいしい店はあったはずだし、繁盛店も生まれただろう。そういうところは撤退の理由もないのでそのまま商売を続けた。
 そのうちに日本に弁当ブームが訪れる。90年代とは違い、デフレ一直線のご時世で、飲食業界でも値下げ競争が起きていた。で、第2次チャイナインベンションが起こるんだが、今度のはどうだったか。マグロ氏に尋ねてみよう。

「第1次の反省があったと思うんだよね。日本人の好みに味を合わせないとうまくいかないことを学習したチャイナが、適応してきたんだよ。それに加えて安いでしょ。味が向上して値段が安かったら、そりゃあ売れるよ。安くてうまい、ボクもチャイナの弁当をついつい食べたよ」

 前回の動画を見た人ならわかるだろうが、新宿御苑駅界隈の相場は400円〜450円だ。以前なら作り置きしたものがただ並ぶだけだったかもしれないが、いまのは出来たてなので飯が温かい。味もどぎつくないという。
 すごいのは、チャイナがその気になったら値段なんかどうにでもなる点だ。場所は違うが先日は西荻でこんな店に遭遇した。
 

 
 100円て何だよ。何が出てくるんだよ。この店の弁当はたしか200円台だったと記憶する。前はこんな店じゃなくて、味も良かったし、値段も町中華の水準だったんだが、オーナーが変わったのか、ある時期から味がガクンと落ち、客が減ってきたと思ったら弁当を始め、とうとう100円メニューだ。そこそこ広い店だし、どうやったら利益が出るのか考えてみたけど分からない。
 これは極端な例だけど、チャイナは近所に安い店ができたらとりあえず値段で対抗する習性があるようで、地域最安値を取りに行くのだ。値段というものは通常、原価に人件費や利益を上乗せし、これくらいで売りたいとなるものだと思うけど、チャイナはそんな自分本位な考えはしない。ライバル店がいなかった昨日まで500円だったものが、一夜明けたら同じ内容で300円になったり…間近で見たわけじゃないけど、目先の敵をたたきつぶしてサバイバルしていく戦略を獲りがちなのだ。その象徴となっているのが店先で販売される弁当価格なのである。

 新宿御苑界隈を観察した印象では、とんかつ屋のような専門店、OLをメインターゲットにしたヘルシー路線の弁当は売れていたが、それ以外はチャイナと対等に戦えてないように見えた。高級路線の弁当など(といっても600円くらいか)オヤジ客すら寄り付かない。いまや周囲の弁当相場を決定づけるのはチャイナなのだ。
 また、チャイナはチャイナを呼ぶ。1軒のチャイナが客をつかむと、新たなチャイナが近くに店を出し、またたく間に増殖。チャイナ同士の激戦が始まる。でもこれ、わりかし理にかなっているのだ。チャイナが好んで出店するのは駅前ではなくオフィス、それも小さな会社が密集するような場所である。客は大勢いるのだ。そんなところにチャイナが増えると、どうしたってチャイナ慣れしていくわけで、最初は店で食べるか弁当にするかだったものが、居酒屋の弁当かチャイナの弁当かとなり、やがてどこのチャイナにするかと客の心理が変わるのではないだろうか。

 うーむ、弁当については食べていないだけに味の話が一切できないし、自分が弁当を食べないから、弁当を買う人の気持ちもわからず、歯切れの悪い書き方しかできないなあ。見聞を広げるには店内に入らないと。いや、そうじゃないか。食べなきゃだめだな弁当。
 ああ、歴史を語ると言いながら弁当の話を長々としてしまった。チャイナの多くは弁当専門店ではなくて、定食もあれば酒も出す。どんなところが受けているのか、客の様子も知りたい。きっと町中華とは異なる世界があると思うし、他にも気になることがたくさんあるので、進展あり次第報告します!

 
 
 
-ヒビレポ 2014年6月8日号-

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