MAKE A NOISE! 第39回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

リズムを刻む体

 

山口ゆかり
(第16号で「どんなに幸せでも罪悪感と孤独感はぬぐえない」を執筆)
 
 
 
 ダンス映画は恥ずかしいです。愛と青春やら汗と涙やらが、まぶしてあるせいでしょうか。とか言いながら、『フラッシュ・ダンス』から『レッスン!』まで、けっこう楽しく見てましたが。
 上記は若者が踊りますが、がっつりプロのダンサーが踊るのも、動きが何を表すか当てなくてはいけない気がしてめんどう。とは言いつつ『Pina』も良かったですけど。
 などと見れば面白がるくせに、好きな気はしなかったダンス映画。結局、出てくるのが、伸びやかな肢体を思い通りに動かせる身体的エリートなので、自分とは関係ないや、ってことだったかも。
 ところが、そうじゃないダンス映画がありました。もう10年も前の作品です。

 まずは、それを思い出すきっかけになった新作から。今年のロンドンLGBT映画祭で見た『Test』というダンサーを主人公にした映画です。強烈な映画の多いこの映画祭の中にあっては穏やかな小品ですが、思いがけず良かったのでした。
 エイズが知られ始めた頃のサンフランシスコが舞台で、エイズ検査と、舞台に立つメンバー選抜の、両方のテストをかけたタイトルになっています。
 ダンス映画の例に漏れず、体が物語りますが、踊るシーンと同じかそれ以上に、ストレッチするシーンが語ります。ぐーっと体を伸ばす時は無言になるし、表情も静か。エイズ、自分はかかってない?好意を寄せる同僚トッドは?奔放な性生活を送るトッドとの関係を進めて大丈夫?悩める主人公フランキーが静かに体を伸ばす時、自然とその心のうちを思います。考える体というフレーズが浮かんできました。
 


 
 クリス・メイソン・ジョンソン監督がもともとダンサーだったと聞けば、納得の体使い。フランキーを演じるスコット・マーロウも本物のダンサーで、トッドを演じるマシュー・リッシュは俳優というのも、振り返ると納得です。マーロウは身ごなしが綺麗でダンサーそのものですが、演技もナチュラル。そう言えば、さほど難しい動きはなくて、バッチリ決めポーズが多かったリッシュは、それだけでダンサーに見せてしまえる演技力。

 ダンサーによるダンス映画は良いなあと思い出したのが、お待たせしました『The Cost of Living』です。夜中のテレビで、海の青をバックにオレンジの髪も鮮やかなピエロの頭が並ぶインパクトの強い映像が現れたのです。桟橋の上に置かれた台上のピエロの頭たちが、右を見て、左を見て、ぐるっと首を回す頭だけダンス。新手のCM?と思って見ていたら、中の1人がピエロの仮面をパッとはがし「こんな仕事大っ嫌いだ!」強いスコットランド訛りでぼやきはじめます。そこから先は目が釘付け。結果、30分強のテレビ映画でしたが、予想もしなかった映画体験をしました。冒頭のようなダンス映画に対する偏見どころか、もっと大きいウロコが目からボトリと落ちたのでした。

 夏の終わり頃、イギリスの海辺の町を、仕事にあぶれたパフォーマー2人が訪れるお話になっています。演じているのはDV8フィジカル・シアターのダンサー。先のぼやくピエロ、エディ・ケイと、デヴィッド・トゥールが主人公の2人を演じ、そのほかが町の住人などとして2人にかかわります。もとは舞台だったのを、DV8とチャンネル4が共同で映像化したものです。
 
 大きいウロコの前に、リズムを刻む体はそれだけで面白いという単純なことにも、あらためて気がつきました。一番面白いリズムを刻むのが、伸びやかな肢体どころか足が無いトゥール。両手で歩く時、上半身だけの体が宙に浮き、振り子のように左右に揺れ、思わずそのリズムを追ってしまいます。
 トゥールの後にたくさんのダンサーが続き、そのリズムを皆で刻むシーンなど感動的ですらあります。よく考えると、やっていることは、身障者の後ろを真似て歩いて、叱られてる子どもとさして変わらないのに。
 思えば、私も小さい頃、近所の足の不自由な方が歩くのをじっと見てしまったのは、リズムが面白かったのです。大きくなるにつれ、ジロジロ見るのは失礼と見ないようになりましたが、嘲りは混じっていなかった面白いと思う気持ちまで消すことはなかったんだよ、幼き自分よ。

 トゥールのゆったりした動きが優雅なのに対し、スコットランド訛りも荒々しいケイは踊りもチックみたい。しゃべりと体のリズムがシンクロしています。トゥールとバレリーナの滑らかな踊り、ケイの攻撃的な踊り、フラフープ・ガールと青年の踊り、どれもこれまで見たことがなかった種類の美しさで、様々な賞を獲得しています。

 前屈の要領でかがんだケイの上にトゥールが乗り、そのまま去っていくシーンで締められます。遠目には、トゥールの半身しか無い体と、ケイのまっすぐ伸ばした足がつながって、1人の人が歩いているように見えます。足の無い人ならではの、2人羽織ならぬ2人歩き。
 そんなギャクまでかますこの映画は、身障者を感動ものや美談の中でしか語れないような凝り固まった気分を、ほぐしてもくれます。
 その『The Cost of Living』が、丸ごとYoutubeにあがってました!
 

 

 次回も、面白がってもOKという映画です。
 
 
-ヒビレポ 2014年6月21日号-

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