ぜんざのはなし The final 第12回


立川笑二二つ目昇進記念独演会

 
島田十万
(第16号で「よろずロックバー『山路』」を執筆)
 
 
 下北沢タウンホールの客席は勾配が急で、少し見下ろす位置に舞台があります。
 正面の壁は鮮やかな濃いブルーで照明され、その前には六曲の白屏風が一双、スポットライトに照らされてプラチナみたいに見えるほど。高座の上の紫色の座布団が目立ちます。
 若い落語家の誕生にふさわしい華やかな舞台に設えてありました。
 296席の大ホールは満席。

 7時ちょうど、笑二さんがニコニコしながら登場しました。出囃子は「てぃんさぐぬ花」という沖縄民謡。
 「元、スーパー前座です!」
 第一声を発するとシンとしていた会場から一斉に拍手がおきてしばらく鳴りやみません。
 すこし上気しているようですが、緊張してはいないようす。艶のある黒紋付が光る白屏風によく映えています。

 落語家になるまでのもろもろをマクラに振ってから「真田小憎」、一度引っ込んでから「大工調べ」。
 二つとも得意としている噺ですが、難しい啖呵の場面を無事にやり終えてホッと一息したように見えました。
 とぎれのない見事な啖呵で、威勢のいい大工の棟梁が、着物の裾をもってケツをまくったようすが目に浮かびました。
 
 「大工調べ」のお囃子は浮き浮きするような明るい曲調の「ハイサイおじさん」。二つ目からは自分用の出囃子を決められるのですが、最初の「てぃんさぐぬ花」とどちらにするか決めかねているとか。
 将来、「芝浜」など人情噺の大ネタをやろうとすると「ハイサイおじさん」では明るすぎるのですね。
 中入り後の三席目は「弥次郎」。
 開幕してからずっと場内は暖かい雰囲気でしたが「弥次郎」が一番ウケたようです。
 米軍基地、米兵、オスプレイまで出てくる大胆な改作で、談笑イズムを継承していくぞという笑二さんの覚悟を表明するような、しかもとても笑える噺に仕上げていました。

 トリの談笑さんは満面の笑みを浮かべて「これからどのネタをやるか決めかねている」と言いました。
 本日の流れと客層を見て、なにをやれば、はなむけになるのかを考えていたのでしょう。とても嬉しそうです。
 笑二さんが入門を願い出たときの話をし、
「落語なんてのは『少年ジャンプ』みたいなもの」だと言いました。
 読んだ後に本棚にならべておくような大層なものじゃない。今いっとき会場のみんなでゲラゲラ笑って楽しめればそれでいいのだ、それが落語の魅力なのだ、と。

 そして、談笑版「子別れ・昭和篇」に入りました。
 暗い話も出てきますし重いですがリアリティーあふれる現代的な人情噺です。
 女房と息子を捨て、派手好きな女と暮らし始めたはいいがすぐに女に出ていかれてしまった鳶の親方。今は改心して若い職人を何人もかかえる会社の社長になっています。
 そんなある日“偶然”息子と再会し、女房とも会うことになりました。それまでのいきさつが男と女の修羅場の連続。
 スポットの当たった談笑さんだけが暗闇にボウッと明るく浮かんでいます。見下ろす格好になるぶん、余計に集中するような気がしました。
 うなぎ屋の二階で親方が元女房に謝る場面では、あちこちで洟をすする音が聞こえてきます。どうしたってウルウルしてしまいます。
 ほとんどの客も他人事ではないでしょう、みんな大人なんだから!
 もちろん談笑さんの人情噺ですから、泣けるだけではなくて随所に仕掛けられたギャグが炸裂するんですね。
 高みに引っ張られて落とされるから衝撃がより大きい。ゲラゲラ笑って泣かされました。
 暗くて重い噺だったはずなのに、笑った分だけ後味良く終了しました。笑いで救われたわけです。
 丁寧なお辞儀を終えると談笑さんは、手招きして笑二さんを呼び、最後の挨拶をするよう促しました。客席からは拍手が鳴り止まず、激励のかけ声が何度も飛びました。
 談吉さんや吉笑さんの昇進の会の印象とも少し違う、とても暖かい、楽しい会でした。

 サプライズはCDのプレゼントでした。
 最近新設した「立川笑二公式ホームページ」には、
「当日、記念品としてお配りしたCDは30年後ぐらいに聴くのが一番楽しめる方法だと思いますので、皆さん、どうか長生きして下さい」とありました。

 
 
 
-ヒビレポ 2014年6月23日号-

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