ぜんざのはなし The final 最終回


 
島田十万
(第16号で「よろずロックバー『山路』」を執筆)
 
 
 
 
『談笑門下の笑二が二つ目に昇進し、記念の独演会を開いたが、300枚のチケットが完売だったという。その客がいい会だったと口を揃え、私にまでおめでとうのメールが入った。笑二は沖縄出身で、いつも笑顔だ。誰からも好かれ、応援したいという気持ちを起こさせる。客あってこその芸人、大きな武器だ』
(6月5日立川談四楼ツイートより転載)

 これは立川流の古参、談四楼さんのものですが、昇進の会から何日か、ツイッター上では好意的な呟きであふれました。
 笑二さんは、落語家としてこれ以上ないほどの好スタートを切ったようです。
 

 落語家、立川笑二さんに話を聞いて足掛け2年、26回の連載にまとめた「前座のはなし」「ぜんざのはなしThe final」も最終回になりました。 

 
 前座ってなんだよ、どんな暮らししてんの?という素朴な興味から話を聞きはじめたのですが、結論から言えばなんのことはない、延々稽古をつんで日夜精進する以外なにも変わったことはないんですね。
 ただ、笑二さんの暮らしを通して落語を聴く機会がふえ、その面白さみたいなものが少し分かったような気がします。
 談四楼さんの別の日のツイート。
『芸人には才能と健康と運が必要で、どれが欠けても大成しない』
 誰が言ったものかはっきりしないが、なるほどそのとおりだと納得した、とありました。
 才能と運についてボクには分かりませんが、ラーメンと立ち食いうどんばかり食べているという笑二さんには、もう少し健康に注意したほうがいいと進言しておきたいと思います。
 
 生で聴く笑二落語は別格です、ぜひ一度、試しに高座を覗いてみてやってください。
 

 

 なんてことを考えていたら、梅雨の一日、うつらうつら眠ってしまったようです。

「おう八つぁん、不景気なツラしてどこへ行くんだい?」
「おうよ、熊公。お前こそしけたツラして何やってんだい?」
「いやなに、例の高円寺の2人組ね、吉笑と笑二。どうしてんのかと思ってさ。相変わらず変なことばっかりやってんのかね?」
「そうだよなあ『ぜんざのはなし最終回』だと師匠に怒られてたもんなぁ。久しぶりに高円寺でも行って見てくるかぁ」
 ってんで二人は高円寺の庚申文化会館までブラブラやってきました。すると入口の角のところに与太郎が。
「おう、与太郎。お前なにやってんだ?」
「あれ〜八つぁんに熊さん二人お揃いで。早く助けて〜! カボチャ売りに来たんだけど棹がつかえて、角を曲がれなくなっちゃたんだよ!」
「あいかわらずバカだなぁお前は。天秤棒を放せばいいんだよ!」
「あら、不思議!本当だ」
「不思議でもなんでもねえよ! で、お前吉笑と笑二どうしてるか知ってるか?」
「笑二はなんか良いことがあったんじゃねえかな。毎日、黒紋付着込んでニヤニヤしながら駆けまわってるよ。吉笑はあれから『談蜜』って女に大ウケで、闇夜でコソコソやってるらしいよ。『談蜜』ってくらいだから立川流の女だと思うけど!」
「バカだからなお前は。危なくって信用できねえ」
「本当だよ。笑笑って新入りの若いのと三人ですぐそこの『シャブ浜』に入って行ったよ」
「『シャブ浜』ってなんだよ?」
「知らねえのか? 二人の師匠の談笑がやってる呑み屋だよ。しゃぶしゃぶの浜屋、略して『シャブ浜』」
「カタカナにするんじゃない! 危なさそうだから。じゃあオレたちも行ってみるか」
「おれも連れてってぇ〜!」
ってんで3人は『シャブ浜』へ。
「イラッサリマケ〜!」「イラッサリマケ〜!」「イラッサリマケ〜!」
「おいおいおい。なんだここは? みんなミャンマー人?」
「ミャンマーじゃないよ、ビルマだよ」
「ああそうなの。おっ!かわいい子もいるんじゃねえか」
「はい、いらっしゃい、うふっ♥。普段はジーンズ屋でバイトしているヨウコです、よろしく♥。えっ吉笑と笑二と笑笑? 奥で仲良く談笑していますよ」
 ってんで見てみますてぇと吉笑は若い笑笑にいろいろ教えているところ。
 笑二はとなりでニヤニヤしながら本を読んでいるようす。
 そのとき吉笑が入り口のほうを振り返りました。
「お〜いヨウコたん、ビールもう1本。それとなにかツマミある?」
「は〜い」
「今日のオススメはなに?」
「悲しく死んだ獣の臓物を引っぱりだして、グチャグチャにした………」
「すごいね、モツ煮込みのことそんなふうに言うんだ? ほかには?」
「悲しく死んだ魚の………」
「もういいよ。それ以上はぜんぶ談笑の専売特許だ」
 注文を終えて吉笑は笑二のほうを見ます。
「あれ笑二、お前ひとりで本なんか読んでるの?」
「えへへへ。読書です〜」
「なにが読書だ。読むんだったら『季刊レポ』を読め!っつんだ。16号絶賛発売中だぞ! 島田十万面白いよ〜。あっ、この野郎こりゃエロ本じゃあねえか!」
「いいえ兄さん、これは檀蜜さんの写真集『甘い鞭』なんです!勉強しているんですよ。家元もおっしゃっていましたよね『業の風』が吹いたら『エロの肯定』だって」
「馬鹿野郎! 家元が言ったのは『業の肯定』と『江戸の風』だあ〜。一緒にすんな! しかも間違っているじゃあねえか」
「ワッサイビーン」
「???」
「沖縄弁で『ごめんなさい』京都弁なら『すんまへん』です」
「なんでもいいけど、お前急に声が大きくなってない?」
「えっ? さっき貰った白いクスリを飲んだせいですかね?」
「白いクスリ? ヤバいんじゃあねえか、見せてみろ。どれどれ効能は『服用すると元気になったような気がしてきます』」
「表には『拡声剤』って書いてありましたよ」
「なら大丈夫。どうりで声がでかくなるはずだ。それよりお前、三つあったエビの天ぷら全部食いやがったなぁ?」
吉笑は怒って近くにあった包丁を手に取る。笑二はくわえた天ぷらをつかんで叫んだ。
「あっ、吉笑に刃物!」
「う〜ん、ビミョウ」
「ごめんなさい〜、でも誤解ですよ兄さん。エビの天ぷらは私じゃないです! 笑笑〜、オレ天ぷらまだ一つ目だよなぁ?」
と、笑笑がニッコリ笑って言いました。
「いえ兄さん、もう二つ目でございます」
 

おあとがよろしいようで。
ご愛読に感謝!
島田十万
 
 
 
-ヒビレポ 2014年6月30日号-

Share on Facebook