初めまして津島ですけど、いい年なんで大人やってます。  第2回

tsushima

世の中、社内恋愛が陰で横行している件

 
津島千紗
(第16号で「探偵失格」を執筆)
 
 
 
 
 一般的に、付き合っていることを秘密にしている社内カップルは多い。そう、社内恋愛は、隠されるものなのである。なぜ隠されるのか?たくさんの理由や事情があるだろうしそんなに知りたくないが、「周りに気を遣わせる」「そういうプライベートのことを知られたくない」「休みを合わせたりしづらいし、帰る時間が同じだとか何かととやかく言われる」などだろう。
 社内恋愛とは不倫でなくても、とにかく影で進行している。そのくせ、必ずそこにある。
  
 確かに周りとしては気を遣ってしまう。しかし、私としては、付き合っていることを社内で明らかにしてほしいと考えている。本人から聞くのが難しいのであれば、できるだけ、誰と誰が付き合っているか、誰が誰を好きか等、抜けのないよう事細かにこっそり誰か私に教えてほしいのだ。
  
 なぜなら私は、ひどい鈍感で、これまで経験してきた数社の、実は付き合ってましたカップルがまったくわからずにひどい目に遭い続けてきたからである。
  
 「ずっと好きだったのに・・・あの子と付き合ってたなんて・・・!」
 と真実を知ったとき女子トイレで一人こっそり泣く。とか、勇気を出して告白したら社内に彼女いましたとか、そんな感じだったら可愛げがあってまだいい。がんばれと応援したくもなる。しかし、私の場合違う。ひどい目に遭いながらも、我ながら同情の余地があまりない。
 
 実例を少し紹介したい。
  

 
 <ケース1>
 新人が入ってきた際の新人研修を、男の先輩Tさんと私で行った。翌日、女の先輩に研修はどうだったのか聞かれたので、
「新人のM君が、TさんかっこいいですねとかTさんに言ってたんですけど。マジウケるんですけど。なんなんですかねあれ。Tさん絶対そのあとかっこつけてたしほんとウケました」
 と完全にバカにした感じで答えたところ、ええ。その先輩、Tさんと付き合ってましたよ。
 そして今気づいたのだが、先輩に研修はどうだったのか聞かれ、こんなどうでもいいことをふざけて報告していること自体、どうかしている。もっと他に何かあっただろう。
 
 <ケース2>
 同僚の女の子と帰り道が同じになったため、
「Kさんの口臭、なんかに似てるとずっと思っててわかったんだけど、あれ、昔うちで飼ってたクサガメの水槽の臭いと同じだわ」
 と一応、電車車内に会社の人が誰もいないことを確認した上で言った。自分の中でクサガメだと判明して、ずっと誰かに言いたくてしょうがなかったのだ。
「え?」
 などと苦笑いしている彼女に対し、「自分が臭いと主張しているものに共感してもらえなかった場合、理解してもらえるまでしつこく言い続ける」という大阪人の性質があった私は
「いや、クサガメってすっごい臭いカメいるじゃん。ゼニガメとも言うんだけど知らない?」
「ほんとあの匂い無理。みんな言ってるよね。気付いてなかった?」
「ていうか、歯か胃かどっか悪いでしょあれ。病院行ったほうがいいよ。誰か言ってあげないとさあ」
などしつこく言ってしまった。はい、彼女はKさんと付き合っていました。
 その後、Kさんの口臭がどうなったかは忘れてしまった。
 
 <ケース3>
 会社関係の女子4名ほどで居酒屋にて女子会をしていた際、Yさんの髪形がおかしいという話で盛り上がった。
「てか、あんなハゲてたっけ?」
「いやいや、進んでるから」
「ハゲは仕方ないけど、薄い前髪を未練がましく垂らしてるのがダメだよね」
「往生際悪くない?」
「薄いし、なんか生え際でくしゃくしゃって丸まってるよね」
「美容師にどういうふうに注文したらあんな前髪にされんだよ」
「いくら注文されたからって普通あんな前髪にするか?美容師も。前髪ないんだからできないでしょ。無理って言えよなあ」
「え、でも、お客様ハゲだからできませんって言えなくない?」
このとき大笑いで必死で話をしていたため、Rちゃんがどんな反応をしていたのか覚えていないのだが、おそらく一緒に笑っていたと思う・・・
 このケースでは、Rちゃんはその変な髪形のYさんにずっと言い寄られていたことがその後発覚した。Rちゃんも迷惑していたとのことなので、別に私たちが笑いものにしようがしまいが、Yさんの恋路の結果は変わらなかったと断言できるのだが、それでも、知らなかったとはいえ、人の恋路の邪魔をしてしまったのは若干申し訳ない。
 
 このように、非常にまずい思いを繰り返している。もちろん、自分の口が災いしているのは間違いないのだが、知っていればこんなこと私だって口にしなかったのである。それもこれも、社内恋愛に気付かないでいたためである。
(なお、何も言わなきゃいいという選択肢はない)
 
 なぜ社内恋愛は陰で進行しているのだろうか。私は一切気付かないので、こんなことになっている。
 思い起こせば、子供の頃から、この手の能力が私は著しく欠けていた。大人になったら身につくスキルというわけでもなさそうだ。
 
 付き合っている二人に隠していても絶対気付くという勘の良い人に話を聞くと、やはり「雰囲気でなんとなくわかる」という私にはまったく理解できない超能力を持っている人が多い。しかし、中には「彼女がFacebookに載せていたカフェの写真の向かいに座っている人のライターが少し写っていて気付いた」とか「違う路線のはずなのに電車遅延のとき二人とも遅刻した」とか目の付け所が一般人とはかけ離れている猛者も結構おり、なんかその才能他に活かせないのか?と思ってしまう。しかし後者は比較的、訓練次第だったり、日常気を付けて観察していれば何とかなる気もしなくはないのだが、他人の社内恋愛を見つけるためになんで私がそこまでせねばならんのか、と苦々しく思えてくるのでダメだ。
 
 私は、誰かと利害関係のない社内の人の噂話がしたいだけなのである。別に不倫だとか、社内で食い散らかしているとか二股だとか、そういった倫理面での問題のない普通の独身の男女であれば、社内恋愛など自由なはずなのだが、私にとって、隠された社内恋愛など迷惑この上ない。どこに地雷があるのかわからないから、見事にこれまで踏み倒してきている。もう、なんなら逆ギレで、「会社に遊びに来てんのか?仕事しに来てんだろ恋愛とか何考えてんだ!」と説教したいくらいだ。

 しかし、自分のところで社内恋愛されるのは迷惑なのだが、よその会社に勤める友人の話の場合は、なんだか社内恋愛がいい感じに思えるのが不思議だ。自分にとって余計な地雷を踏むリスクがないからだろう。
 
 結婚披露宴でひそかに注目してしまう瞬間、それは新郎新婦のなれそめご紹介の瞬間である。「学生時代の同級生やサークル仲間」と並び、やはり「会社の同僚」の安定感といったらない。列席者にとって、呼んでくれた友人のお相手がたとえ初対面のよく知らない人であろうと、圧倒的な安心感がそこにはある。なお、有名企業であればあるほど、その安心感は比例する。
 得体のしれない「共通の趣味を通じて」や「ご友人とのお食事会にて」知り合っていた場合、え、結局誰よ、となるのに対し、それが一切なく実に気持ちが良い。親戚一同も大安心だろう。
 会社の同僚同士の結婚披露宴では、会社の方が多数出席され、上司による長い長い乾杯の挨拶、さらに長い別の上司によるスピーチにて会社での二人の人柄や仕事内容、なんなら会社の業績まで紹介され、同僚からはやや内輪向けの社内の人しか盛り上がっていない余興まであったりなんかして、ああ、こんなに会社の人たちに来てもらえて祝福されて会社でちゃんと大人やってんだなあ、相手まで会社で見つけて立派だなあ、と安心することこの上ない。
 
 社内恋愛結婚の披露宴とは、ちゃんと大人やってますアピールの場としては最高の舞台なのである。いやあ、おめでたい、よかったよかった、と気付けば手酌で瓶ビールを何本も一人で呑んでしまう私である。おめでたいので酒が美味いのである。

 
 
 
-ヒビレポ 2014年7月8日号-

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