今朝はボニー・バック 第41回

bonnie

究極のグルメ漫画はあの作品だった!

 
ボニー・アイドル
(第11号で「原稿料よりバイト料が多くても、ぼくは断然ライターだ!」執筆)

 
 
 
はたして、グルメ漫画No.1はどの作品なのか——。
「季刊レポ」本誌の連載陣にして、グルメ漫画のガイド本『マンガの食卓』(南信長名義)の著者でもある新保信長さんを前に、ぼくなんかが論じていいテーマではないのは百も承知。ただ、今回は他にネタも思いつかないので勘弁してほしい。

昨今、漫画界は空前のグルメ漫画ブームに湧いている。漫画誌を定期的に読む習慣がなくても、映画化・ドラマ化された「孤独のグルメ」「極道めし」「深夜食道」「花のズボラ飯」「信長のシェフ」などの作品名を知っている人は多いはず。
作品のカラーもグルメ漫画と一口に言っても実に多彩。
たとえば、「花のズボラ飯」は自炊もの、「孤独のグルメ」は街グルメ、「信長のシェフ」は野望もの、と同じグルメ漫画なのにキャラクターや舞台設定を変えることでこれ程までに豊富なバリエーションが生まれるのかと感心する思いである。

さて。数多あるグルメ漫画の中から“キング・オブ”を選ぶ基準だが、やはりここは、“白飯の追求度合い”としたい。
日本人のふるさとにして料理の原点、白飯。
白米を蔑ろにしてグルメを語れるだろうか。いや、語れるわけがない。


 
この基準を考えたときにキング・オブの最右翼に挙がるのは、やはり、作・雁屋哲、画・花咲アキラの「美味しんぼ」だろう。
「美味しんぼ」が革新的だったのは、バブルで沸き返っている1983年に連載が開始されたにも関わらず、キャビアだフォアグラだと騒ぐ軽薄なグルムブームに唾を吐き、素材や調理法を含めた真のグルメを提言した点にある。

当然、連載の早い段階から白飯への追求もされている。ビックコミックス第5巻収録の「もてなしの心」がそれだ。
〜あらすじ〜
共通の恩人である唐山陶人先生の結婚披露宴に出席した山岡士郎と海原雄山。めでたい席なのに、ひょんなことからたかが白飯の炊き方とみそ汁の作り方でもめる二人。どっちのメシが旨いかいっちょ勝負、となるが…。
決戦当日、士郎が用意した白飯は、新潟の農家が自家用に無農薬で作ったコシヒカリを天日乾燥し、直前に精米。日本百名水の一つに数えられるお滝不動の湧き水を使って薪で炊き、最後にワラをひとつかみくべて蒸らしたもの。
審査員の感想は次のとおり。
「一粒一粒が、ふっくらしているわ。舌ざわりはなめらかで歯ごたえも心地よいわ」
「ふんわりして甘いのね」
「これは見事なたき上がりだ」

素材、調理法すべてにわたって完璧と思われた士郎の白飯。圧倒的に不利と思われた海原雄山だったが…。まずは審査員の感想から。
「山岡さんがたいたご飯より美味しいわっ」
「舌触りも歯ごたえも、全然違う!」
あまつさえ、ついさっき絶賛を浴びた士郎の米を否定する声も出る始末。
「これに比べるとムラがある。ふっくらしている度合いも、羽毛ふとんと、固い綿のふとんほどの差がある。そしてこちらの飯をかんだ時に、口の中に広がるふくよかな甘さと香りはどうだ…。これに比べると、士郎のたいた飯はまだヌカくさいぞ」

果たして、両者の明暗を分けたのは、「もてなしの心」だった。
海原雄山が作らせた白メシはなんと、米一粒一粒を選別し、同じ大きさの米だけで炊き上げたものだったのである。
気の遠くなるほどの手間と愛情のこもった一杯の銀シャリ。
素材と調理法にこだわったグルメ漫画が「もてなしの心」「愛情」という精神論に落ち着いたのは皮肉というべきか当然の帰結というべきか。

たかが白飯、されど白飯。
グルメ漫画の先駆者にして今や大御所となった「美味しんぼ」にキング・オブの称号を与えるのはいささか躊躇いがないわけでもないが、ここまで白飯のクオリティにこだわった漫画は未だかつて存在しただろうか。いや、存在し、た!
それは、よしりんこと小林よしのりの「おぼっちゃまくん」だ。

何話目かは忘れてしまったが、たしか連載の後半の方、おぼっちゃまくんがクラスで遠足に行く回。
遠足の目的地であるどこかの山の頂上にたどり着いたクラスメート一同。お昼になり、各々弁当箱の見せ合いをすることに。
クラスメートの視線は自ずと日本有数の財閥の御曹司であるおぼっちゃまくんの弁当に注がれる。
しかし、彼の弁当の中身は、びんぼっちゃまくんと同じ日の丸弁当。
クラスメートはおろか読者さえもこれは金持ちの戯れなのかと思ったが、おぼっちゃまくんの日の丸弁当こそ海原雄山の白飯を凌駕するこだわりが凝らされていたのである。
つまり、海原雄山の白飯は米の一粒一粒の大きさをそろえて炊き上げたものだったが、おぼっちゃまくんのそれは米一粒に一台の炊飯器を使って炊き上げたものだったのだ——!。
弁当箱に何粒の米が使われるのかは知らないが、おぼちゃっまくんの回想シーンで山のように炊飯器が積まれていたことからも千や万では及ばないだろう。
これぞ漫画というフィクションだから到達し得た究極の白メシ。
「おぼっちゃまくん」こそキング・オブ・グルメ漫画といっても過言ではあるまい。
へけ。
 
 
 
-ヒビレポ 2014年7月9日号-

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