初めまして津島ですけど、いい年なんで大人やってます。  第5回

tsushima

売れない芸人とそれを取り巻くブスたちの話

 
津島千紗
(第16号で「探偵失格」を執筆)
 
 
 
 
 売れない芸人と付き合っていた時があった。「売れない芸人」といっても、「テレビにあまり出ていない」とか「芸人の仕事だけで食っていけない」というレベルの売れなさではなく、「ライブに必死になって人を呼んでも片手に数えられるほどしか客が来ない」「ギャラをもらうどころかライブの出演料を支払っている」というもはや自称芸人レベルに過ぎない本当に売れない芸人である。

 私としては全く芸人と付き合いたかったわけではなく、たまたま付き合うようになった人が芸人だったとアピールしたいところである(まず、売れない芸人と付き合うメリットがアラサー女にとって、一切ない)

 しかし、いざ、彼の所属していた売れない芸人たち(ほぼ、ただのフリーター)の吹き溜まり事務所を中心とした売れない芸人界に足を踏み入れると、売れない芸人と付き合いたいという女の子は世の中には何だか知らないが多いのである。そして、その顔面偏差値はとても低い。太っている率も明らかに普通の日本人の平均的な率ではない。女子のヒエラルキーの中で最下層に属しているような女どもが売れない芸人たちには群がっている。それが、この世界の一つの事実である。

 駅前の路上ミュージシャンなんかも、ちょっと顔が良かったりすると、色恋感情丸出しの恍惚とした表情をして最前列で聞き惚れている女や、必死になってチラシやデモCDを配って応援している正体不明の女が必ず周りに散らばっている。なお、聞き惚れ組がただのファンでブスが多いのに対し、チラシ配り女はあくまで内輪の人間であり彼女である可能性も高く顔面のレベルも急激に上がる。どちらにしても、彼女たちにはまだ傍から見て
「ああ、彼の音楽は最高!」
「彼の素敵な歌声や歌詞、世界観を多くの人に知ってもらいたい!」
と本当に思っているんだろうなという気迫のような熱いものを感じるし目も輝いている。しかし、お笑い芸人の色恋目的のファンに「彼のお笑いは最高だ」とか「売れてほしい」と願っている感じはほとんど見られず、ただ生々しい「芸人と付き合いたい!!」というギラギラした油っぽい思いだけが伝わってくるのみである。


 
 なぜかというと、簡単である。売れない芸人の男達は、一人でも多くの固定客の獲得に躍起になっているため、どんな相手であろうとファンに対しては非常に優しいし、ライブの連絡もたびたびくれる。また、芸人を目指しているだけあって、それなりに話していて面白いし人当りも良く、明るい。そのあたりが、普段、普通の男に相手にされない層にとって悲しい勘違いしてしまう要因となっている。その優しさを勘違いして、うまくいけば自分も付き合えるんじゃないかと思ってしまうみたいである。通常で考えれば、今までの人生でしっかりと周りの男からブス扱いを受けてきたはずなのに、そこのところをすっかり忘れてしまって、男に優しくされていることで舞い上がってしまっているのだ。ライブに会いに行けば、笑顔で「来てくれてありがとう」と言ってくれ話してくれるし、決して邪険にされないし優しい。プレゼントを渡せばもらってくれる。そして、来てくれてありがとうとメールもくれるだろうし、次回のライブには必ずまた連絡をくれる。
 モテない女たちにとっての、ずっと手に入らなかった「普通のレベルの男子(しかも舞台に出ていると五割増しぐらい実物より良く見える)がブスの自分とまともに話してくれる」という夢の世界の実現がそこにはあるのである。

 ためしに二月に、売れない芸人のライブが終わってからのライブハウス前を見学してみるといい。めちゃくちゃ寒いのに、頬を紅潮させたブスが、手作りのチョコレートやかわいくラッピングされた高価なチョコレートを手に、「出待ち」しているよ。

 そうなってくると、もちろん次のステージにブスたちは進みたい。そう、一対一のデートである。場合によっては、食事ぐらいしてくれるだろう。自分たちのレベルを知っている女がやってしまいがちなのが
「おごるからご飯食べに行かない?」
 という誘い文句である。へりくだってるのはいいけど金で釣るな!で、これがまた、芸人たちっておごると言われるとけっこう来るんですよね。どちらもプライドが無い。ごく普通のサラリーマンとの恋愛畑を渡り歩いてきた女からしたら、「はあ??」と思うような世界である。まあ、しかしそれで芸人さんたち、裏ではちゃっかり可愛い彼女がいたりするんだから、世知辛いものである。もう、芸人は彼女たちに壺や英会話教材を売ればいいんじゃないですかね。

 ちなみに、数年を経て一切進展がなかった場合(これらの片思いは、数年単位が基本である。けっこう長い)、まさかの同じ事務所内の他の芸人に乗り換えるという現象も多発している。なお、「脈がないので乗り換えた」とは絶対に言わず、
「ちょうど仕事で嫌なことがあったとき、彼のお笑いを見て元気が出て、気付いたら好きになってた」
 など、聞いてもないのに言い訳をしがちである。それなりに後ろめたいのだろう。
 別に誰も手を出したいような女ではないので事務所内で綺麗に手付かずのままなのだが、狭い事務所内で同じ女に好きになられたことが公的に知られていることになると当然、売れない芸人の人間関係にそれなりに支障を引き起こす。時にはブスは爆弾である。

 一方、私はというと、ここまでの文章からも隠しきれない悪意が滲み出ているとおり、もちろん、彼女たちのような、色恋ファンと一緒にされたくないと強く思っていた。
 そして、自分の彼にも当たり前のように、変なファンがついていた。そうなってくると、当然、彼女としては面白くないのである。

 さて、お察しのとおり、この私、顔面も性格も全く美人からは程遠く、ブスである。
「人気商売だから、色恋ファンだってついててなんぼ」
「たくさんのファンの中で選ばれてるあたしって素敵」
 などと思わないのである。
「徹底的に、調子に乗ってるブスは潰す」
 となってしまうわけである。悲しくなるほどブスの心理である。
 そして、まさかの、彼氏の芸人活動を邪魔するような行為に出る。第三者から見たら非常に絵面的に汚い争いが水面下で行われることとなる。なんせ登場人物がブスしか出てこない。

 まず、数年に渡り彼に何度も告白をして断られた挙句、「一度でいいからデートしてほしい」と懇願したがそれすらも断られたという逸話を持つ、「さとちん」というあだ名を持つ女が非常に気に入らなかった。また、さとちんは、何を思ったか突然
「ファンのコミュニティページを作ってもいいかにゃあ?(#^.^#)」
といったメールを彼に送ってきた。当たり前のように、語尾が気に入らない(ちなみにお笑いファンとオタクっぽい女子とは絶妙に層がかぶっており、語尾がおかしい人が多発する。また、オタクっぽい自作の似顔絵イラストを芸人に送り付け、満足している女子も異常なほど多数存在する。さとちんもその一人である)

 さて、このさとちんの思惑とは、おそらく「彼に許可を得てコミュニティページを作って管理人やっちゃうファンの中でも一歩抜きんでたあたし」である。そうはブス問屋が卸さないってなもんである。即座に私は行動に移す。
 明らかに二人で旅行に行っているとわかる写真や、彼の寝顔、彼が愛犬を抱きかかえてカメラ目線で最高に笑っている写真などなど、選りすぐりの「どう見ても彼女にしか撮れない写真」を多数ひっさげて自ら新しくコミュニティページを作成した。こういうことにはスピードが求められるため、クオリティなど無視である。どうせ目的さえ達成すればさっさと廃棄するつもりだ。ものすごいスピードで作り上げるやいなや、さとちんの作ったコミュニティページに出陣したのである。
「さとちんさん、コミュニティページ作ってくれてありがとうございます(^_^)
 Fさんの写真専門のコミュニティページを私も作りました☆よかったら見に来てくださいね☆」
 と書き込みを行った。生身では自分の姿を現さず、ネットという媒体を通じて「彼女いますよ」とわからせ相手に打撃を与える方法としては完璧である。さすが、私をよく知る友人たちに「悪巧みの頭の回転の速さと行動力が天才的」と言われている私である。

 さて、長期戦を覚悟していた私にとってあまりにあっけなく、さとちんは姿を見せなくなっていった。私の出現まで数年間、彼の周りにずっといたとは思えない引き際の速さであるが、すぐ次の芸人へと移って行ったそうだ。元気だなおい!
 また、この写真ページの破壊力は、彼を好きだった他の数名にも絶大な効果があったようで、
「あんなにデリカシーのない人と付き合っているなんて見損ないました。もう二度とライブを見たくもありませんので、二度とライブの連絡してこないでください!」
 というようなメールまで届いたというのだから、たいしたものである。というか、そのメールをしてきた人は何を考えているのか? 自分のイメージを下げるだけである(と、この私が言う)。そんな捨て台詞を吐くことによる彼女のメリットが全く見当たらないが、よほど何か言わずにいられないほど我慢ならなかったのだろう。

 そしてなにより、私がこんなことまでして、何を守りたかったのか今となってはさっぱりわからず、今はただただ反省している。そういえば、私の作ったコミュニティページはどうなったんだろう?特に閉鎖もしていないが、目的達成後一回も見ていないので、全く知らない。

 さとちん、すみませんでした。今はどの芸人を追いかけているんでしょうか。どうぞお元気で・・・と言おうかと思ったが、懲りずに今でもどこかの芸人に片思いを続けていたらそれはそれでやっぱりなんか腹立つと思う。

 
 
 
-ヒビレポ 2014年7月29日号-

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