こしょこしょ話 第7回

sumimoto

臆病なまま、そおっと混じってみました

 
住本麻子
(第16号で「東京駅でプチ帰省」を執筆)

 
 
 
渋谷駅を降りて、駅から宮益坂の方に伸びる長い列に、そっと混ざった。今までその列に混ざったことはなかったし、ためらいもあった。けれど、とにかく混じってみようと思った。その列とは、デモである。

集団的自衛権の行使容認が閣議決定されたのが7月1日。わからないことも多いけど、新聞やニュースを読み、今まで得た知識を総合的に考えると、これだけは絶対に賛成できないと思った。考えるだけで不安で眠れない夜もあった。考えても何もできないことに、さらに悲しくなったりして落ち込んでいた。

で、デモに行こうと思ったのだ。実は今までに何度か行こうとしていて、しかし時間が合わなかったり、忙しかったりして行けなかった。しかしその度に少しだけホッとしていたのも事実で、無意識のうちに、はっきりと意見を表明することを避けていたんだと思う。いろんな意見の人がいるとき、強い反対意見を持つ人がいるとき、私はふと口をつぐんでしまう。杞憂かもしれないけれど、私が意見をいうことで悲しむ気持ちになる人がいるかもしれないと思うと、私の意見なんて別に言わなくても……という気になってしまう。それに、デモをする人たちに少しだけ過激なイメージがあって、臆病な私はそういうところにもおののいていたのだった。

でも、だから、とにかく行ってみようと思ったのだ。自分なりにアンテナを張っているつもりだけど、持ってる情報もまだまだ少ない。何が正しいのか判断することは、簡単じゃない。こわがりな私がこわがりなりに参加したらどうなるのか。デモってなんなのか、取材に行くつもりで行こう。なんならヒビレポに書くために行こう。と、自分のハードルを下げに下げ、もうなんなら遊びに行くつもりで行ってきた。だからこれを読んでいる人も気軽な気持ちで、でも最後まで読んでくれると嬉しい。


 
まずできるだけ「フラーっと感」を出すために30分遅刻。代々木公園出発のところを渋谷駅付近から参加。通行人からナチュラルにデモに混ざることには、難なく成功した。後ろの方を、そおっと、おずおずと混ざってキョロキョロ周りを見回すと、私と同じように一人で参加している人も結構いて、心強い気持ちになった。
 
photo1-
 
最初に驚いたのは、先導する車(選挙カーのイメージ? しかしそれよりもっと小さい)があること。そしてそれがめちゃめちゃノリノリの音楽を流していたことだ。宇多田ヒカルの曲のイントロに併せて「集団的自衛権はいらない♪」と先導者がマイクで叫ぶ。するとデモに参列する人が唱和する、というシステムのようだ。……めっちゃポップ。めっちゃポップなのに50代以降のおじちゃん・おばちゃん多くて全体的に微妙なノリに。逆に全然ポップじゃない……まずその光景がちょっと面白くて吹きそうになった。でもそこが、ちょっと安心もする。デモがすごく統制が取れていて、「もっと大きな声で!」とか「もっとハキハキ歩いて!」「団結しよう!」なんて言われたら私はその時点でちょっと引いていたと思う。

そのデモは「集団的自衛権はいらない」「解釈改憲反対」という直近の懸案事項から、「TPP反対」「増税反対」という、最近の政治に対するさまざまな不満も掛け声になっていたけれど、どれを言うかも自由。つまり「解釈改憲には絶対反対だけど、TPPはちょっと」という人は「解釈改憲反対」にだけ唱和すればいい。実際掛け声にはばらつきが多かった。声が小さくてもいいし、誰かと喋っていてもいい。プラカードのようなものを持っている人もいたし、手ぶらの人もいた。私の近くを歩いている人の中で、途中に意を決したように、急にリュックから小さなプラカードを出して掲げる人がいて「やっぱりプラカードを出すのも勇気がいるんだろうな」と思った。みんなすごく迷いながら、でも何かせずにはいられなくて来たという人が、結構いたような気がする。もちろん私は「フラーっと来た」ので手ぶら。
 
photo2-
 
掛け声の合間には、「演説」が入ってくるのも初めて知った。私が見たのは大学生や大学院生などの若い人が中心で、専門的な話などではなく、なぜ自分がデモに参加しようと思ったかを思い思いに語るというものだった。演説としてはあんまりうまくない。だけど心細い思いをしている人が自分以外にもいるんだと思うには十分だった。真夏の日差しが照りつける中、若い人がしゃべるのを年長者が眩しそうに眼を細めて見ていた。発言者はテンパりながらもたどたどしくしゃべっていて、後方の別の列(全てがひとつなぎになっているのではなく、途切れ途切れになって小さなまとまりを作っていた)の太鼓音なんかも聞こえ、セミの声なんかもうるさかったのだけれど、話を聞く人々の視線を見ていると静けさが聞こえてくるようだった。

この日は30℃を超える真夏日で、16時スタートとはいえ歩きっぱなしだともちろん疲れてくる。もうそろそろやめようか……と思っているとなんと給水ポイントが出現した。一度飲み物を取り逃してしまいがっかりしていると、割とすぐに次のポイントが現れた。そこで飲み物と氷を受け取る。お茶かな?と思ったけれど飲んでみるとジンジャーエールで、どうも手作りのよう。しっかり生姜が入っている。一気に元気を回復して、もうひと歩きできた。一時間ほどデモに参加して、最初にそっと列に入ったときのように、またそっと列を離れた。
 
photo3-
 
デモに行ってみてどうだったか。まず思ったほどは過激ではなかったし(少くとも、私が参加した範囲では「○○死ね」という言葉はなかった)、主催者の掛け声の全てに賛同しなくてもよいので、そういうところはいいと思った。ひとつでも納得できないことがあれば、行けばいいのだ。いつ入ってもいいし、いつ抜けてもいい。そういう垣根は低かった。参加する方のハードルは高かったかもしれないし、現にドキドキしながらひとりで来てる人は多いような気がしたが、現地での垣根は限りなく低くしてあったといっていい。でも何よりもよかったのは、同じような不安を抱いている人が「これだけいるんだ」ということがわかったのが大きかった。「これだけ」というのは写真を見てもわからなくて、行ってみてはじめて「これだけ」の実感が湧く。デモに行くことで何がどれだけ変わるのか、正直なところわからない。何も変わらないかもしれない、とも思う。でも私は、何もしないという形で、大きな権力に加担したくはない。まだまだわからないことは多いけれど、知り続けようとしたい。

集団的自衛権について賛成でも反対でも、知り続けようとする誰かの何かの参考になればいいと思って書きました。最後まで読んでくれてありがとうございました。

 
 
 
-ヒビレポ 2014年8月14日号-

Share on Facebook