わたしの日本ぽつぽつ北上記 第8回

yoshika

東京→名古屋→京都→東京

ふくらはぎの記憶

 
佐藤温夏
(第16号で「どうしても柔道には惹かれてしまう」を執筆)
 
 
 
map 01y_sato_08
 
 前回も京都について書いたんですが、今回もちょっと京都が入ります。しかも、東京からの南下で始まるので、厳密には北上ではありません。と、前置きして、東京ー京都間を往復した旅について書いてみたいと思います。

 学生時代の友人Nとは、社会人となってから、休みが合ったらそのときの気分や日程によって行き先やルートを決める即興旅っていうのを何度かやっていました。
 ある年の2月、徹夜明けの私はその日から翌日いっぱい、正味1.5日間の休みが取れました。Nも明日まで休みだといいます。そこで決行したのが、「東名高速道路走破の旅」でした。
 でも、ガソリン代と高速道路料金をかけてただ東名を走破するだけじゃ、もったいないし、つまらないということになったんですね。そこで、加えたのが名古屋在住の友人・M宅訪問でした。Mにこちらの計画を詳しく伝えず電話してみると、「いまスキー場に来ているが、夜には帰宅する」とのこと。それならその帰宅に合わせてサプライズで押しかけよう! ということになりました。

 横浜、静岡、浜松……。とくに渋滞に引っかかることもなく、運転を交代しながら順調に走りつづけました。それでそろそろ名古屋、というあたり、ちょうど豊川を超えたあたり、午後6時ごろだったと思います。Mにもう一度電話して「これから行くからね!」と明るく告げました。すると「えーっ……」。返ってきたのは困惑の声と絶句でした。
 

 
 Mによると、いまさっき、2泊3日のスキー旅行から戻ったばかりで家族3人、ぐったり疲れている。とてもお客を招く状態にないと言うことでした。
 なるほど、その状況はよくわかります。これが都内だったら、また今度ね、ということになるでしょう。でも、私たちとしては、ここまで来たのに会わないで帰るなんてできなかったんですね。いえ、できたはずなんですが、そうしなかった。ちょっとだけでも、と図々しくお宅におじゃましたのです。が、やはり一家は、とてもお疲れでした。壁にもたれて無言で座るだんなさまと息子(4歳)、そして戸惑うM……。その表情を見て、申し訳ない思いでいっぱいになり、私たちは学生時代のノリで押しかけた失礼をひたすら詫びて、30分ほどでそそくさと失礼しました。
 
 ここで納得すればよかったのです。すでにこの時点で、当初の目的である東名完走は達成しているのですから、その夜はそのままおとなしく名古屋に一泊し、翌日、素直に東京に引き返せばよかったのです。
 でも、楽しいことが大好きなMにサプライズ訪問を喜んでもらえず(もちろんこっちが悪い)、しかも、その優しさに甘えて上がり込み、迷惑をかけてしまったという事実が、あまりに情けなく、自分たちにダメージを与えたんでしょうね。立ち寄りたかった味噌煮込みうどん屋が閉まっていたことも、傷を深くしたかもしれません。せめてあっつあつの味噌煮込みうどんをおなかに入れて、ほかほか気分になっていれば、また違ったような気もします。でも、それもかなわなかった。そこで私たちは、その傷を忘れさせるような、新たな目標を設定しました。どうせ明日も休みなんだし、このまま京都に行っちゃおうということになったんです。時間はすでに9時半を過ぎていました。そこから、たいして休憩も取らず、名神高速道路に乗って西へと向かったのでした。
 その夜は、節約の意味もあって京都郊外の健康ランドに宿泊(というか休憩)。翌日は朝から観光に繰り出しました。そうして、1日かけて遊びほうけて京都を出たのは夜の8時すぎ。東京の自宅に到着したのは夜が白々と明けるころでした。

 まぁ、ざっとまとめてみますと、これが今回の旅の全部です。名古屋に行って、京都まで足を伸ばし、遊びまくって東京に帰ってきた。ただそれだけ。わざわざ記録するまでもないような、若さと体力にまかせただけの無鉄砲な旅です。若いからこそできたことだと意味を見いだせそうな気もしますが、友人一家に迷惑をかけたこともあり、笑うに笑えないという感じもあって、積極的に思い出すようなことはありません。
 でもですね、この意志に反して、記憶がすーっと呼び覚まされることがあるんです。
 京都からの帰り道は、ほとんど私が運転したのですが、自宅に着き、安堵感とともにクルマから降りたとき、凍てつく寒さにぶるっと震えたのと同時に、膝から下がひどく重たいことに気づきました。長時間運転を続けたために、ふくらはぎがむくんでいたのです。もともとがっしりと丈夫にできている我がふくらはぎではありますが、そのときは、もうパンパン。人間の足はここまでふくらむのか、ひょっとしてはち切れてしまうんじゃないか、このまま戻らなかったらどうしよう……と、怖くなったほどでした。

 このふくらはぎのむくみが、どうやら記憶を刺激するようなのです。例えばたくさん歩いたり、飛行機に長時間乗ったりして、膝から下に水分が沈殿したようなイヤ〜な感覚をおぼえると、あのバカな旅の記憶の断片がフラッシュバックする。思い出そうとなんてしていないのに、思い出す。そんなとき、あぁ、身体は覚えている、身体というのは都合よく忘れさせてくれないんだ、と打ちのめされるような思いがするんです。
 
map 02 route y_sato_08 
 
 
-ヒビレポ 2014年8月22日号-

Share on Facebook