こしょこしょ話 第10回

sumimoto

教えてしまう・学んでしまう

 
住本麻子
(第16号で「東京駅でプチ帰省」を執筆)

 
 
 
つい先日、高校時代からの友人から「結婚するから、式に来てね」と連絡があった。友人の結婚式に呼ばれたのは初めてだったので、驚いたし叫んだし、部屋の中を小走りしたりした。そういう年齢なんだ、と実感した。その子とは、お互いつらい時期を慰めたり励ましたりし合ったので「私たちはとうとうこんなところまで、来たのだな」なんて、まさに自分のことのように涙が出た(その後冷静に考えて、「さすがに自分のことでは、ないよな……」と思い直したけれど)。それから、その子が新しい家族を持つことに改めて驚いた。すごくすごく驚いた。

ひとと暮らす、家族を持つ、のちのちには子どもだって作るだろう。私にはそれが全然うまく想像できない。勢い「結婚したい」とは言ってみるけれど(※ヒビレポ第八回参照)、ホントのところ全く現実味はない。「理想の家庭」というのもよくわからない。私を育ててくれた家族は、とてもいい人たちだったのだけど。

話は変わるが、先日家族演劇というものを観てきた。出演しているのは本物の家族で、現実通り家族として出演していた。
「ねえお父さん。お父さんはなんでお母さんと結婚したの?」
と聞く娘・七歳に、
「近くにいたからだよ」
と堂々と答える父親・五十三歳。
それが演劇なのか事実なのか、わからなくてヒヤヒヤする。演劇であり事実なのだろうけど、演劇とも事実とも違う「リアルさ」があった。「近くにいた」。なるほど、遠くにいる人とは出会えない。


 
その中で最も印象的だったセリフが、「僕たちは教えてしまうよね」というセリフだった。記憶を頼りに書いているから、正確には書き記せないが、大体こういう意味だった。
 
 
・・・・・
僕たちはいつまで一緒にいられるかわからない。きっと僕が君(母親)より先に死ぬでしょう。それまで一緒にいられるか。もし離れ離れになったとしよう。そしたら僕たちは教えてしまうよね。人はいとも簡単に離れ離れになってしまう、ってことを。もしずっと最期まで、一緒にいたとしよう。そしたら僕たちは教えてしまうよね。人はそう簡単に離れ離れにはならない、ってことを。彼女(娘)は学んでしまうよね。
・・・・・
 
 
ア!と思った。私が恐れているのはこういうことなのだ、と思った。もしも家族ができたとして、子どもができたとして、私の生活や態度から子どもはたくさんのことを学ぶだろう。私が教えたいと思うこと以上のことを学ぶだろう。私が教えたくないと思っていることまで、驚くべきスピードで体に染み込ませていくだろう。たった一つの家庭でしか育ってこなかった、偏った価値観の私から。先ほど書いたように、私の両親はいい人たちだった。私にいろいろと教えてくれた。なんにも間違っていないと思う。しかし私はどうだっただろう?間違わずに育ったかどうかは、わからない。むしろ間違いだらけ、という気すらする。謎だ。どうしてこうなった……いや、まあそれはどうでもいいんだけど、要は自分の子どもだとしてもどう育つかは、本当にわからないということ。そしてどんなに愛情をかけて育てても、「生まれてこなけりゃよかったぜクソババア」とか言われるかもしれないわけだ。その可能性は、誰にだってある。

でも私は、子は親に教わらなくても学んでしまう、ということも知っている。六歳でも、二十五歳でも。親が誰でも。生まれてきたことは選べなくても、日々生きていくことを選びながら学んでしまう、ということを知っている。と、気づいた。どこかで学んでしまったのだろうか。覚えていないけど。

覚えてないと言えば、この演劇のパンフレットには、こんなことが書かれてあった。以下引用。
 
 
・・・・・
 また夏が近づいて来た。今日の午後は夕立と激しい雷だった。雷の音を聞いた時だけ僕は父親を思い出す。僕が今の娘の頃、雷が落ちてはよく停電をした。雷が鳴るたび、父は家を飛び出した。電気の保全が仕事だったからだ。そんな父の顔を、僕はもう、うまく思い出せない。雷鳴を聞いて蘇るのは、当時「青焼き」と呼ばれていた、鉄塔図面のコピー用紙の、妙に濡れたような質感だけだ。
 いつか僕も娘に忘れられ、少しだけ、思い出される。こんな雷の日かもしれない。思い出すのは僕の顔ではないかもしれない。
・・・・・
 
 
私の父は理系の研究者だ。ふとある真夜中のことを思い出した。父はまだ仕事をしていて、私が寄っていくと
「これが白血球だよ」
と言ってパソコンの画面を指差した。白血球は黄緑色に発光していた。本物の白血球は光ってなどいないのだが、見やすいようにパソコンで色をつけているのだと父は説明してくれた。雷の色に似ていたかもしれない。
 
 
 
 
 
※私が観た舞台は、飴屋法水作・演出の「教室」という舞台です。
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-ヒビレポ 2014年9月4日号-

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