今朝はボニー・バック 第50回

bonnie

ローカル路線バス アナウンス広告巡りの旅⑩

 
ボニー・アイドル
(第11号で「原稿料よりバイト料が多くても、ぼくは断然ライターだ!」執筆)

 
 
 
8月29日(金)から9月1日(月)までの4日間、郷里の秋田県横手市に帰っていた。
19歳で上京して以来、毎年、盆と正月は実家で過ごすようにしているのだけれど、今回は仕事も兼ねた帰省だった。
4日間でこなさなければいけない仕事は2つ。
1つは、秋田名物の某商品を製造・販売している某企業の取材。
こっちは原稿が媒体に掲載されるまでにまだ3ヶ月以上あるので現時点で詳細をお知らせすることはできないが、もうひとつの方はご存知「アナウンス巡りの旅」。
前々回、「“都内の”路線を巡るのはひとまずこの6本目をもって区切りとしたい」とわざとらしく含みを持たせたのはこういう伏線があったというわけでござる。

今回、田舎で乗ったバスは横手バスターミナル発の羽後交通「横手病院、横手高校経由上台行き」の路線。
この路線は第2候補で、本当は実家から300mほどの距離にある村落「福島」にバス停があった「下吉田線」に乗りたかった。保育所に通っていた頃から高校を卒業するまで利用していた、最も馴染み深かった路線だ。
ぼくが小さかった頃は、福島のバス停前には駄菓子屋というか商店があり、その前には「キン消し」のガチャガチャや飲料の自販機が並んでいた。自販機の下の隙間にはよく10円玉や50円玉、時には100円玉が落ちてて、バスを待っている間、保育園児だったぼくと2コ上の兄キはじいちゃんが止めないことをいいことに競うように拾い集めたっけ。
そんな、ぼくにとってバス原体験となった停留所は、町の中心地が駅前からバイパス沿いに移転したことを契機に路線ごとなくなってしまっていた。


 
てなわけで、今回の旅は高校生の頃、通学で利用していた「横手病院、横手高校経由上台行き」にしたわけだけど、この路線、下吉田線に比べてほとんど思い出に残ってない。前回のヒビレポ連載「高校受験スベったら」でもちょっと触れているように、ぼくは高校からほとんど逃げてたので親が自転車やバス通学では息子がちゃんと学校に行くか心配し、車で送り迎えをしてくれてたからだ。
ただ、今回の取材では母親が協力を買って出てくれ、始発の横手バスターミナルから横手高校の停留所まで車でバスの伴走をしてくれたので、高校生の頃、家に向かう車中で「中学浪人までさせてくれたのに悪いなァ」と思っていた気持ちを再び味わうことはできた。

そして、申し訳ないことに今回の旅はバスに乗ってアナウンス広告を採取したのみで、広告出稿主の姿を写真に収める追跡ルポはなし。
実家からバスが走る市内までけっこう距離があるというのがいちばんの理由だけど、それを抜きにしても今回の帰省では企業の取材とか姪っ子甥っ子と遊んだりとかダラダラしたりとか、けっこうやらなきゃいけないことが多い。時間がない。追跡ルポまで母親に手伝ってもらうわけにもいかないし、その説明もめんどくさい。その代わりと言ってはなんだけど、バスが走る横手市の街並の写真を撮ってきたので、勘弁してほしい。

調査を行ったのは東京に戻る前日の8月31日(日)。
田舎はバスの本数が少ない。時間を無駄にしないために予め運行時刻を調べておいたのだが、まさかこれほどまで本数が少ないとは思わなかった。「横手バスターミナル発横手病院、横手高校経由上台行き」の路線は平日でも1時間に1本あればいい方で、土日祝日だと2時間以上待たなきゃいけない時間帯もある。
到着が遅れたため若干不安になったが、無事15時半発のバスに乗り込み、旅スタート。
 
①-
 
都内の路線バスよりも広い車内に、乗客はぼく一人だけ。なのに、席に座らず天井のスピーカーにICレコーダーを近づけているバカを運転手さんはバックミラー越しにどういう思いで見ているのだろうか。
バスはバスターミナルから北に逆L字を描いて「前郷二番町」「平和町角」「三井寺・九品寺前」を通り過ぎる。この間、アナウンス広告はなし。テープが古いのか、行き先を知らせる女性の声が割れているような気がする。
市役所なんかがある中央通りに差し掛かって、やっと1件目のアナ広が。
「次は中央通り、中央通りです。あなたの街の歯医者さん、ほしの歯科医院にお出での方はこちらが便利です。お降りの方はお知らせ願います」
おお、ほしの歯科医院。子供の頃、通っていたようなそうでないようなあやふやな記憶を手繰っていると、横手川にかかる橋を渡る頃に2件目の広告が。
「次は南小学校入口、小学校入口です。あなたの街の待たせない薬局屋さん、下田薬局入口でございます」
また、「あなたの街の」というフレーズが登場! どうやら横手市には有能なコピーライターがいないようだ。
バスの左手には横手川が流れ、右手には横手病院が建っている。高校の頃、じいちゃんが入院しててよく見舞いに通ったなァ。
 
②-
 
思い出に耽っていると、
「次は、横手病院前、病院前。どちらの病院の処方箋も受付しております。下田薬局入口でございます」
また、下田薬局が登場!
横手病院前で1分程停車した後、発車。再び横手川を渡り、羽州街道へ。
「次は横手郵便局前、郵便局前です。お降りの方はお知らせ願います」
に続いて、車内での携帯電話の使用を控えるマナー放送が流れる。ここでは広告はないなと思っていたら、
「土地建物の売買・仲介、アパート・マンション・貸家の仲介のことなら松與会館向かい、いい家あーる、ERA加盟店、佐乃不動産へ。電話0182-××-××」
と、なんとも丁寧なアナウンスが流れる。
バスは「日本百名橋」にも選ばれている(今、知った)「蛇の崎橋」を渡り、かつての城下町・中央町へ。
 
③-
 
たしか、ぼくが2度目の上京前に一時居候してた家はこの辺だったようなそうじゃないような。思い出を手繰っていると、
「次は本町、本町。ジェネリック医薬品も対応。配達もいたします。下田薬局入口でございます」
下田薬局、3度目の登場! しかも案内が全部「入口」。テキトーなのか、それとも3店舗とも違う店なのか。
横手市民御用達のスーパー「よねや」が見えてきた。ここから高校までは一直線だ。
 
④-
 
「次は幸町、幸町。お降りの方はお知らせ願います。県内より交通事故をなくしましょう。安全へ上げる手つなぐ手、交差点。このキャンペーンは横手駅前、細谷内科医院のご協力で放送しております」
「次は、弦巻町、弦巻町です。お降りの方はお知らせ願います。安全は目から耳から心から。このキャンペーンは地元の米、水、人で醸す秋田の銘酒、天の戸。浅舞酒造株式会社のご協力で放送しております」
交通キャンペーンに協力という名目のアナウンス広告が2件流れる。2件目は酒蔵なのがブラックユーモアが効いてる。

高校時代、自転車を立ちこぎしなければ上れなかった心臓破りの坂に差し掛かったところで、ぼくにとっての終点を知らせるアナウンスが。
「次は横手高校前、高校前です。お降りの方はお知らせ願います」
 
⑤-
 
バスを降りると、なんかの部活帰りだろうか、停留所の前で一組の男子&女子高生が楽しそうにおしゃべりをしていた。
(あんな高校生活ならバス通学も楽しかっただろうなァ)
10コ以上年の離れた後輩に唾を吐きかけたいのを堪え、ぼくは高校生の頃と同じく、先に高校裏口に着いていた母親の車に乗り込んだのだった。
 
 
 
-ヒビレポ 2014年9月10日号-

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