こしょこしょ話 第12回

sumimoto

それいけ消費社会

 
住本麻子
(第16号で「東京駅でプチ帰省」を執筆)

 
 
 
先日短い帰省をした。私はかつて家を出たくてたまらなかったので、実家に帰るたびに両親とケンカをして「やっぱり東京最高、一人暮らし最高」と思う。そのために帰るようなものだ。それが楽しみで帰るようなものだ。とはいえ他にも楽しみはある。そのひとつが、近くのスーパーマーケットに行くことだ。

そのスーパーは実家から一番近くにある。何か特別なものがあるわけではない。強いて言えばちょっと高めの商品中心で、イメージとしては成城石井に近い。しかしこのスーパーの特徴はそんなことではない。このスーパーの特徴、それは掲示板にある。このスーパーが掲示板を置き始めたのは私が上京した後だから、三、四年前のことだと思う。ある日母が、嬉々として報告してきた。

母の報告はこうである。最近そのスーパーが「ご要望・お褒め・お叱り」を広く募集して公に回答するという掲示板を始めた。「こんな商品をおいて欲しい」とか、「こういうサービスがよかったので続けて欲しい」という意見要望の目安箱といったところである。そこで次のような「お叱り」が届いたという。

「先日このスーパーで試食をして、二個目、三個目を食べていたところ、傍にいた店員さんにものすごく睨まれました。私はゆっくり味わいたかったのに、気分が悪かったです。しっかり教育してください」

冗談かと思ったが、本気の「お叱り」だった様子。上記は記憶を頼りにざっくりまとめたが、怒りのこもった濃い筆圧で欄内にびっしり書いてあったとか。母の話では、丁寧な回答付きで掲示されていたという。


 
こういう小説読んだことあるな、と思った。一人称の主人公が狂ってるんだけど、主人公の語りなのでツッコミなしで進んでいく。客観的な視点を永遠に持てない一人称を主人公にして、読者に突っ込ませたり笑わせたりする、高度なテクニックである。もちろんこういう場合、作者は計算してやっている。私はこの手の一人称小説では小島信夫の『抱擁家族』なんかが好きだ。ちなみにレポ17号の「笑う本棚」が発売されましたが、私が選ぶならこの『抱擁家族』です。

それ以来、帰省の度にこの掲示板をチェックするのが楽しみになった。私ならこんな「お叱り」が来た時点で「もう、やめたい」と思うだろうが、不思議に続いている。たまに、明らかに子どもと思われる筆跡も見られる。「別のお店ではもっと安い『プロ野球チップス』が、なぜこちらでは高いのでしょう。安くしてください」という「要望」もあった。言葉遣いは丁寧なので、掲示板を見て真似たのであろう。それか親の真似をしたのかもしれない。

さて、今回はどんな「お叱り」があるのかな、とついわくわくして覗いてみると、早速発見。
 
01
 
「くだ物」を判読するのにだいぶ時間がかかった。この人に自分で書くという発想はないだろう。平仮名を書き間違えてしまっては困るだろうし。

次はこちら。
 
02
 
素朴な疑問。ネット掲示板では「ググれカス」と言われてしまいそうだが、リアルの掲示板には人の温かみを感じる。私もつい熟読してしまった。

次。
 
03
 
上の方が切れてしまっているが、要は「私が前々から素晴らしいと言っているこの商品を、なぜ販売しない!?」というお怒りである。絶対の自信と熱意ある「ご要望」である。「売れないはずはないし、売れなかったらこれは私が買い占める」と言わんばかりの熱意まで感じる。これにはスーパー側も販売を決意。

明るいもので締めたいので、最後は「お褒め」を紹介したい。
 
04
 
やったね、「レジの佐藤君」!しかしよく見るとこれ、「サービスカウンターでのお声」。つまり、サービスカウンターでの心温まるエピソードを、わざわざ書き起こして掲載しているのである。私はこの「今村」さんのことを想像した。日々押し寄せる「お叱り」「ご要望」だが、いいことも書き残しておこう。「佐藤」もこれでスーパーの仕事にやりがいを感じてくれるかもしれない。ふふふ。ひとり苦笑しながらカードを書く「今村」さん。きっとこういうことを励みに生きているのだ、「今村」さんは……。

もちろん至極まっとうな「ご要望」や「お叱り」もある。買った商品の賞味期限が切れていた、とか。前にあった商品をもう一度置いて欲しいとか。私はこれからも帰省する度、掲示板を見に行くだろう。今さらこの掲示板がなくなることはないと思う。私にできることはない。このサイトを店の人が偶然見つけて、少し笑ってくれるといいけど。ボンラパス百道店のみなさん、見てますか。

 
 
 
-ヒビレポ 2014年9月18日号-

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