初めまして津島ですけど、いい年なんで大人やってます。  第13回

tsushima

レンタルビデオ屋で大人がバイトしてみたら

 
津島千紗
(第16号で「探偵失格」を執筆)
 
 
 
 みなさまには、なんとなくずっとやってみたかったのだけど機会がなくてできなかったバイト、というものはありますか?
 別にハードルが高いものではなく、やろうと思えばできるのだが、機会がなく、これからおそらく一生やることもなく。決して正社員として就職したいわけではないのだが、ちょっとバイトでやってみたい、という程度のモチベーションの憧れのバイト(あくまでバイト )

 私の場合は、レンタルビデオ屋の店員である。大学時代、吉祥寺のビデオ屋に週に何度も通って映画のDVDを借りていた。私の場合、商品のバーコードスキャンをするバイト、また、POS画面を見ながらのレジ操作をするバイトの経験がなく、ビデオ屋店員のレジの一連の動作に憧れてしまった。また、日々、大量の映画のDVDに接しているのもなんだか、楽しそうだ。返却されたDVDを棚に戻す作業などはめんどくさそうだが、なんだか、やってみたいアルバイトとして長年頭にあった。しかし、大学時代は他のバイトをしていたので、ビデオ屋のバイトを経験しないままとなっていた。それでもずっと、ビデオ屋に行くたび、いいなあ、やってみたいなあと思っていた。
 
 しかし数年前、チャンスが訪れた。探偵会社をクビになった後、無職時代を経て、国の職業訓練で「日本語講師養成校」に半年間通うことになったのである。ひさしぶりの学生体験だ。夕方には学校が終わるので、夕方から、もしくは土日にアルバイトも可能である。実は、長年「宅配ピザ屋の店内で、ピザ生地の上に具を載せるバイト」にも憧れがあり、どちらにしようか迷ったのだが、自宅から自転車で三分のところにあるレンタルビデオショップのアルバイトの面接を受け、採用された。念願のビデオ屋店員デビューだ。

 都内なのに時給850円(研修830円)という、どうしようもない時給だが、ビデオ屋がやりたいだけなのでわりとどうでもよかった。平常心では難しい判断を可能にした。


 
 私がバイトをすることになったビデオ屋は、地域で数店舗のチェーン店であり、地元の人以外は名前を知らない微妙な店だ。店は意外とまあまあ広いのだが、レジに常にお客さんが並ぶということは皆無。唯一の社員である店長は夕方になると帰るし、いても裏にいたりと、ほぼ店内にいないので、私の入る時間帯は基本的にバイト二人で店を回すが全然忙しくない。非常に気楽である。駅前の大型チェーン店さんなんか、レジが5台体制なのにお客さんがいつも並んでいたりなんかして、大変だなあといつも思う。

 すでに大学を卒業してかなり経ち、社会人経験もある、もういい大人だった。だが、新人バイトということで、なんかわけのわからん年下の若いやつに偉そうにタメ口で指示とかされたらちょっとムカつくなあ、どうしようかなあ・・・という心配をしていたのだが、結果的にはその心配は無駄だった。間違いなく年上である三十代のフリーターの男二名と店長を除いて、年下のアルバイトは全員私に敬語を使っていた・・・まだ二十代だったし、全然若く見える自信があった私は、「あ、、、そう・・・別に年齢とか言ってないのに・・・?あ、そう・・・見ただけで、敬語使われる感じなんだ・・・あ、そうなんだ・・・」と動揺した。逆にショックである。
 まあどっちみち、バイトの後にDVDを借りて帰るときに会員カードで年齢などすぐにバレるのだが(店員が見ているPC画面には会員の名前や年齢、住所など全部出てるんです)

 私と二名体制で入るアルバイトの男の子たち(ちなみに、女の子が異常に少ない店で、同じ時間帯に入る女子はほぼいなかった)は、なかなか育ちの良さそうな感じのいい大学生ばかりで、非常にアルバイトがしやすかった。普通に、今でも家で「おかあさん」とか言ってそうなかんじの優しい子ばかりだ。そもそも、年上に平気でタメ語で話すようなタイプの生意気な若造はいなかったといえる。

 しかも、変なおばさんが
「このお店、イケメンが多いのよ!!」
と言って毎日店に来ては気弱なイケメンを狙って話しかけ続けて仕事の邪魔をし、連日何時間もレジ前に居座って帰らないというトラブルもあったほど、謎にイケメン揃いだった。私はビデオ屋がやりたかっただけなのに、お得すぎる!

 しかし、若い男子ってこんなにしゃべるっけ!?と思うほど、どいつもこいつもひどいおしゃべりばかりだった。バイトの間中ずっと、バイトの誰がどうしただの、店長がムカついた話だの、この前こんな客がいただの、主に店で起きた話をペラペラといつまでも報告をしてくれた。もう若くない私としては
「そんなどうでもいい話で店長に本気でキレたりして、こんなことに必死になってかわいいなあ・・・若いねえ・・・」
 などと思いながら聞いて適当に相槌を打っていた。「へー。そうなんだね」ぐらいしかコメントしていなくても、みんな勝手に何時間もしゃべり続けてくれた。ポジション的には、おばさんとかでもなく、もはや老婆みたいなポジションである。なんなら好々爺に近い。

 が、順調に、若い男子学生のエキスを吸い取ることに成功していた。大学を卒業すると、周りにおっさんしかいなくなるし、同級生や友達もいつのまにかおっさんになっている。ちょっと前まで同世代や後輩の若い男子が周りにたくさんいたはずなのに気付けばいなくなっていたので、気分的にかなり若返り、楽しかった。

「いらっしゃいませー!!」
 と大声を出すのも久しぶりの経験でなんだか楽しく、私はどさくさに紛れて
「しゃせい!」
 と叫ぶことをひそかな楽しみとしていた(射精)
というか、「いらっしゃいませ」のうちの8割ぐらいは、そのほうが楽なので「射精」と発音していた。

 大学時代、てきとうーにダラダラと何も考えずにバイトをしていたときより、いったん社会人を経験してからちょっとやってみるバイトのほうが圧倒的に楽しいことが判明した。私は明らかに楽しんでいたし、案外真面目に働いていた。

 アダルトビデオ関連に関しても、下手に若い頃にバイトしていたら、こんなに淡々とは働けなかったのではないかと思う。AVを返却に行く際などは、「射精!」など言いながら堂々と入っていく貫禄を見せていた。若い男性客など、私が通り過ぎただけで、ビクッとしてとっさに「すみませんっ」と謝る人などいた。私は「ごゆっくりどうぞぉ〜」など言いながらニヤニヤしていたと思う。申しわけない。
 また、その店ではアダルトビデオ十本千円などというキャンペーンもやっていたので、レジでは笑顔で積極的に勧めた。
「こちら、十本千円になりますがいかがですか?このままですと、新作三本でお会計千円を超えますから、あとなんでもいいんで七本持ってきていただいたほうが千円になってお得ですよ〜。新作も大丈夫ですしぜひ!」
などと親切に言ってあげているのだが、若い男はほぼ全員、明らかに照れて破顔し、口角の最高に上がった顔で
「いいですいいです!!(笑)」
とか
「えっ!?そんな十本も見れません・・・!(笑)」
 などといって、決して十本借りなかった(おじさんだと、ニコニコしながら「じゃあ、あと七本持ってくればいいの〜?ちょっと見てきます〜」とか言うのだが・・・)

 しかし、大学生バイト君の中には変に気を遣ってくれる子もいて、私がAVの返却に行こうとすると
「いいっすよ!俺アダルト行きますよ!!」
 など言って必死に止めてくれる子などもおり、私としては
「そんな気を遣ってくれると恥ずかしいから!!女子扱いはやめて!!もう、私なんかババアだし、なんっっとも思ってないですし平気ですから!!」
 など思っていたが、それをあえて口に出すのも自意識過剰でキモいので、言われるがままになって辱めを受けていた。

 また、あるときは、三日以上延滞をしているお客様に電話連絡をした際、男性客に
「なんてタイトル借りてましたかねえ?」
 など聞かれ、平気でAVの卑猥なタイトルを何も考えずに堂々と読み上げてしまい、たまたま横にいて聞いていた店長の真っ青な顔を見て、「しまった!」と気付いた。
「くっそ!あの野郎わざと言わせやがったか!?そういうこと!?どっちかわかんねえ!」
 など思ったが
「まあどっちでもええわ!恥ずかしがるかと思ったら大間違いやぞ!!こんなもん、なんともねえわ!!残念だったな相手がババアで!」
 というかんじで楽勝だった。こんなもん、堂々と機械的に読み上げ可能だ。若い女子には真似できないだろう。大人になるって本当に生きるのが楽になりますね。

 ビデオ屋の業務自体は長年憧れて想像していた内容に近く、映画好きとしてはわりと面白くて決して嫌いではなかったので、もはや、気付けばビデオ屋のバイトは趣味のようなものになっていた。平日、会社勤めを開始してからは、それでも土曜日に四時間だけ入るなどしてバイトをやめずにいたが、最終的には、週一も面倒になったので、三週間に一度ぐらいの頻度でシフトに入る変な人になっていた。しかし、好々爺のようなポジションの私に、毎回バイトの若い男子たちがこの期間お店であったことを一部始終報告してくれたので、それなりに、店の最新情報や誰がどうしたとかは把握していたおりそんなにアウェイでもなかった。
 平日は会社でおっさんばかり見ているので、週末にビデオ屋で若い男の子たちの生気をいただき、リフレッシュになった。また、たまには大声で「いらっしゃいませぃ!(射精!)」などと叫ぶのも意外とストレス発散になるのだ。時給850円で4時間のバイト代など、ないようなものであり、本当に趣味でしかない。しかし次第に行くのがめんどくさくなり、結局やめてしまったが、気付けば二年近くビデオ屋のバイトを続けていた。

 大人になってからバイトをしてみると、なんだかとても面白かった。ずっとやってみたかったビデオ屋のバイトは、やってみてよかった。また、私のようにたまたま年下のかわいい男の子たちに囲まれると、癒し効果やアンチエイジング効果があると思われ、お得である。やめなきゃよかったかもしれないなあ。
 
 
 
-ヒビレポ 2014年9月23日号-

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