わたしの日本ぽつぽつ北上記 最終回

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22年後の脱コンプレックス

 
佐藤温夏
(第16号で「どうしても柔道には惹かれてしまう」を執筆)
 
 
 
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 中学3年の秋に札幌から東京へ越してきた。以来、札幌の友人とはほとんど会うことがなかった。最初のうちは何人かと連絡を取り合っていたが、高校を卒業後、年々進路が分かれるにしがたって、顔を合わせる機会は減っていった。だから、たまに押し入れの奥の自分の顔写真が入っていない卒業アルバムを引っ張りだしては(当時の担任にお願いして購入させてもらった)、もう一生、この人たちに会うことはないんだろうなぁなんて思いながら、ぼんやりと眺めたりしていた。

 しかし、「一生」なんてものは、そう簡単に想像の範囲内におさまるものではない。いまから6年ほど前の36歳のとき、もうとっくに縁は切れたと思っていた、その中学時代の友人と再会することになったからだ。きっかけは「mixi 」。連絡を取っていた数少ない友人のひとりに、「mixiで同期がコミュニティを開いてるから、行ってみたら」と教えてもらい、そこから話はどんどん進み、夏に開くという同期会への参加が決まった。それまで、ソーシャルネットワーク(SNS)というものにかなり奥手だった私は、その突破力におののいた。何を突破するって、時間と心の壁を、である。一生会わない予定だった人たちとの関係が、ほんの数回のインターネット上の書き込みのおかげで、一気に(再)構築されてしまった。必要だったのは、初めて書き込むときにふりしぼった勇気くらいだ。


 
 しかし、なけなしの勇気をふりしぼってよかったと心の底から思う。当日、ドキドキしながら会場となったビヤガーデンに行くと、驚いたことに、すでに到着していた面々と再会してからわずか数分で22年前にタイムスリップ。卒業アルバムで予習していったのもあったけど、会わなかった時間がまるでなかったみたいに、だいたい名前と顔が一致した。そうなると記憶の掘り起こしは芋づる式だ。バカなことばかりしてた教室、雪で凍えた冬の帰り道、口ごたえばっかりしてとうとうビンタを張られたF先生(いまだと暴力教師扱いだろうなぁ)……さまざまな出来事が、ありありと思い出された。
 
 同期会の主催メンバーは、いまもちょくちょく顔を合わせているとのことだった。そういう経験は私の人生にはなかったなぁとちょっと寂しくなりつつも、彼ら・彼女らが、いつものとおり、という感じでビールを飲み、おつまみを食べ、会話に興じていたから、長いブランクがあった私も、時差をほとんど感じることなく会話に混じることができたのだと思う。お互い思春期をともに過ごしたという経験だけで、こんなに安心感があるなんて。知らなかった世界に足を踏み入れた思いがしてすがすがしい気分だった。

 しかし、私にとってのハイライトは、集合から2時間近くたち、日がしずみかけた19時前ころに訪れた。
 時間が進むにつれ、参加者はひとり、またひとりと増えていったが、そこにまたふらりとやって来たひとがいた。えーっと、このひとは誰だったっけ……。脳内にインプットされた卒業アルバムデータに照らしてみるが、さしあたって思い当たらない。うーん、こんなにすらりとした長身ですてきな雰囲気の人、いたっけなぁ。いたんだろうなぁきっと、知らなかったんだろうなぁ。……でも、なんか気になる。なんとなーく頭の隅っこに、魚の小骨みたいに引っかかってる。えーっとえーっと、うーん……と、うなっていたそのとき、誰かが、あ、Bくん、と声をかけた。Bくん。……え?! あの、Bくん?!

 このときの、あまりの驚きをどのように表現していいかわからない。もう少しで腰を抜かすか、というほどにたまげた。口をもうしばらくあんぐり開けていたら、アゴが外れていたかもしれない(実際、アゴが外れたことがあるんです。かなり痛い)。
 なぜそこまで驚愕したかと言えば、目の前にいるBくんが、中学時代とまったく別人のような体型になっていたからだ。もっとシンプルに言うと、中学時代とはうってかわって、ものすごーく長身の、男っぽいひとになっていたからだ。いい年した男性に対して男っぽいというのもなんだが、本当にそんな感じだった。

 私の知っているBくんは、1年のときから小柄。当時、身長がすでに現在とほぼ同じ163cmあった私より背が低く、か細い男の子だった。骨太がっちり体型でついでにがさつな私からすると、ぶかぶかの学ラン姿が、なんとも繊細に映ったものだ。でも、恋心は体格差を超える。そんなBくんに私は密かに好意を抱くようになった。見ていると、控えめだが、自分の意見はしっかり持っていて、しかもそれを誰にも強要しないようなところがあり、つるんでいる仲間はいるけど、なびかない、みたいな感じのひとだった。そのうえ、少し謎めいているというか、そんな雰囲気をうっすらまとっていた。

 しかし、今ではこんなにふてぶてしい私でも、そのころは思春期まっただ中の恥じらいある女の子。あまりに頑丈な体つきをした自分と、小柄なBくんとではとうてい釣り合わないと、己の身体を呪った。だってもしかすると、お姫さまだっこできるかもしれないっていうくらいのバランスだ。そんなわけで、Bくんを含めた男女数人で何回か遊んだことはあったものの、ただそれだけ。淡い恋心を胸の奥にしまったまま、私は転校した。札幌を離れるとき、想いを告げようなどとはつゆとも思わなかった。私より身長の低い彼を見下ろすようにして告白するなんてシチュエーション、考えたくもなかった。

 しかしである。まさかその小柄なBくんが、22年の間に、身長180cmをゆうに超えた立派な体格をした青年(中年に近いか)に成長しているとは。期待も想像もしていなかった事態に、私はただ驚くしか対応の仕方がわからなかった。だって、いまではこちらが見上げる側になっている。まるで私の身体がいきなり小さくなったみたいだ。これって逆ガリバー状態ではないか……!

 さらにさらに、彼は中学生のころの面影を残してはいるけれど、年齢ぶんだけの味わいが加わって、いい雰囲気の大人になっていた。
 聞けば、彼は20代前半に東京で仕事をした時期もあったが、のちに帰札して、小さな会社を起ち上げたとのことだった。ただし社長さんといっても、ギラギラした脂っぽい感じはまったくなく、のんびり好きなことで商売をしている、という風情。また、どうやらかなりの趣味人のようで、古いものが好きだったり、日曜大工が得意だったりと、私と関心の向くところが似ていた。話せば話すほど愉しくて、この夢みたいな展開は、まさに夢なんじゃないかと思った(注:最新の『季刊レポ』17号のトロさんのDJページで、ヒラカツ副編集長についてのあれこれを紹介しながら、“魅入られたように書いてしまった”と述懐しているが、私もいま、そんな気分だ)。

 そういうわけで、思いきって参加した同期会で私は、想いを寄せていたひとに思いがけないかたちで再会した。そしてこのことにより、自分の中でがらがらと何かが崩れ落ちていくのをはっきりと感じることになった。

 まず、長年感じていた体型に関するコンプレックスが、あっさり消えた。
 中学生になったころから、己の体型を疎ましく、煩わしく感じるようになったわけだが(かといって、必死でダイエットをしたりしなかったのだからその程度だけど)、告白するなら、これはほとんど対Bくんによって生まれたたコンプレックスだったと言っていい(こんなこと言われて迷惑かもしれないが、もちろんこっちの勝手である)。しかし、Bくんの成長曲線は高校に入学したあたりからピークに向かい、ぐんぐん身長は伸びた。中学校時代からたった数年のうちに、サイズ設定ががらりと変わったことになる。この事実を、私がもしも早い段階で知ってさえいれば、我が劣等感はかなり軽減されていただろうと想う。もちろん、大人になる過程で、このいじけた心に折り合いをつけてはいた。けれど、Bくんと再会できたおかげで、根っこのところでこの問題が、きれいさっぱり片付いたような気がした。
 
 もう一つは、過去を振り返るということについて。
 それまで、思い出話というジャンルはどうも苦手だった。友人には「いつも昔のことを思い出して、あんなことがあったなぁ、こんなことがあったなぁと味わいながら生きている」というひとがいるが、このことを聞いたとき、いったいなんのこっちゃという感じで、意味がさっぱりわからなかった。
 だって、思い出すのが愉しいことばかりならいいけど、人間の脳はそんなにうまくできていない。イヤ〜なこともセットで、いや、むしろ遠慮なくじゃんじゃんよみがえってきたりする。とくに、私の場合、20代半ばから30代前半にかけてプライベートでしんどいことがあったので、なるべくなら過去は振り返らずに生きていきたいという傾向は年々強まっていた。何かの折に酔っぱらって昔話になると、過去は消せないのよ、なーんてうそぶいていたものだ。しかし、このたびの同期会でその方向は転換期を迎えることとなった。中学生の自分が好意を抱いた相手が、こんなにすてきなひとに成長するなんて。まるで、過去の自分にささやかな贈り物をしてもらったような気がした。中学生の自分よ、よくぞ見抜いた、と褒めてやりたいとすら思った。過去が消えていなくてよかったと思った。

 このときの同期会では、盛り上がったのは私だけでなく、全体としてたいへん盛況で、2次会、3次会と場所を移しても参加者は全然減らなかった。これがほんとうに楽しかったので、以来、同期には帰省のタイミングが合えばできる限り会うようになった。最近は少しごぶさたしているが、それでも、22年のブランクがあったことを思えば、たいしたことではないなぁと思っている。
 では、あこがれのBくんとはどうしたかというと、もちろん、どうにもなっていない。いまでは自慢の友人のひとりだ。とにかくなんでも作ってしまうので、いつか一緒にものづくりをしたり、仕事ができたら愉しいなぁなどと、数年前の自分には考えられなかった、あたらしい展開に胸をときめかせたりしている。

            *      *      *

 7月からはじまった今年3期目のヒビレポ金曜日は、今回が最終回となりました。毎週、プライベートや仕事で訪れた土地を、日本列島をぽつぽつ北上しながらたどってきましたが、思えばこれはそのまま過去を振り返る作業でもありました。記憶を呼び起こし、ときに恥ずかしくなったり、うろたえたりしながら、過去に励まされてパソコンに向かい、どうにか全13回を完走できました。
 初回からおつきあいいただいた方、途中からぽつぽつ読み始めたという方、そして今回初めてここを開いたという方。どなたさまも、お読みいただきありがとうございました。『季刊レポ』本誌、または別のどこかでお会いしましょう。
 
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-ヒビレポ 2014年9月26日号-

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