笑いたい読書  第1回


散歩する犬のように

 
木村カナ(レポ編集スタッフ)
 
 
 
「季刊レポ」17号の表紙を最初に見たときに思ったのだ、あ、動物が笑ってる!って。一度そういう風に見えてしまうと、もう動物にしか見えなくなって、どんな動物なのかを考えはじめるのだった。
 たけかんむりが耳、その下に鼻があって、口元が笑っている。犬のような気がしてきた。耳の形からするとテリアっぽい。
 まさにこんな顔をした犬の写真を見たことがある……ああそうだ、ダーシェンカ!!
 本棚から『チャペックの犬と猫のお話』を出してきて確認する。単行本を持っているのに、間違って文庫本も買ってしまったから(古本で100円だったけど)、ほぼ同じ内容の本を2冊持っていたりするんです。
 
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カレル・チャペック『チャペックの犬と猫のお話』
(上が単行本、下が文庫本。ともに河出書房新社)

 

 チェコ語の「ロボタ」(仕事、労働)から、人間のかわりに働くもの、という意味で、「ロボット」という言葉を作ったSF作家として知られるカレル・チャペック。人間のかたわらにある存在として、犬や猫を愛おしんだという彼のエッセイ『チャペックの犬と猫のお話』、その中に登場する犬のうちの一匹が、ワイアーヘアード・フォックス・テリアのダーシェンカである。ダーシェンカが、豆粒のような生まれたての赤ん坊から、やんちゃな子犬に成長するまでをユーモラスに描いた記録を、カレル・チャペック自身によるイラスト、写真とともに、久々に堪能して、にやにや笑いが止まらなくなった。特別アルバムに収録されている、「これ、あたしのおもちゃ」とお気に入りのブラシを前足で押さえて、にんまり笑っているダーシェンカの顔ったら、この「笑」っていう字に、まったくそっくりだ!
 
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『チャペックの犬と猫のお話』より

 
 『チャペックの犬と猫のお話』は、「笑う本棚2014」に挙げられている本で言うならば、平松洋子さんが選んでいる『岩合光昭のネコ』(新潮文庫)に近い、「何度見てもむふふと笑えてくる」ような本だ。わたしは岩合光昭さんの写真集は『パンダ』しか持っていなくて、『岩合光昭のネコ』は未見である。でも、NHK BSプレミアムで、月に一度のペースで新作が放映されている「岩合光昭の世界ネコ歩き」は欠かさず録画して見ているのだった。見たい番組は何にもないけど、テレビはつけておきたい、そんな気分になったときには、「岩合光昭の世界ネコ歩き」の録画を再生しておくことにしている。そして、ふとテレビ画面が目に入るたびに、「気がついたらいつも、にまーっと笑ってる」のだった。

 ところで、犬は、猫は、あるいは、動物は笑うのか?
 動物は笑わない、笑うのは人間だけ、という話をいつかどこかで読んだ記憶がある。たしか、哲学的な考察から、表情筋がどうこうという科学的な検証に及んでいたはずなのだが、しかし、わたしは、動物だって笑う、と信じて疑わない。だって、たとえば、散歩中の犬を見かけて、あーアイツ、笑ってるなあ、と思うことがしょっちゅうだもの。しっぽを精一杯に振りながら、時折飼い主の顔を見上げてみたりして、楽しそうに、嬉しそうに笑ってるよ。犬だけじゃなく、他の動物だって、笑っていることがある。少なくともわたしの目にはそう見える。自分の感情を勝手に投影してるだけなのかもしれないけれど、でも、投影であっても別に構わないような気がする。散歩の喜びを体中から発散している犬とすれ違うたびに、こちらもそれだけでうれしくなって、にんまりしてしまうのだから。

 10年くらい前にたまたま見た、ある作家の追悼番組で、その作家を若いころから知っていた友人が語っていた言葉が、ひどく印象に残っているのだった。彼はまるで、自転車で散歩している犬のようだった、と。自転車のスピードに合わせて走っている(走らされている?)犬は、ずっと全力疾走を続けて、苦しくもあるはずなのに、やっぱり楽しげで嬉しげで、笑っているように見える、そんな犬の顔を見たことはありませんか?
 このヒビレポ連載「笑いたい読書」は、これから3ヶ月、自転車で散歩する犬のように、笑える本を全力でひたすら紹介していき、読者にもにんまりしていただくのが目標であります。

 ついでにもう1冊、わたしが何度でも眺めてにやにやしてしまう猫の本を紹介しておこうかな。
 
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『作家の猫』(平凡社コロナ・ブックス)

 
 カバー表紙の写真は中島らもの愛猫・とらちゃん、とらちゃんの無類の愛らしさは『とらちゃん的日常』(文春文庫)にたっぷりと詰まっている。裏表紙の写真は室生犀星の愛猫・ジイノが火鉢に手をかけている決定的瞬間、これがたまらなくかわいい。それを見守っている犀星の表情もいい。他にも作家と猫の写真がたくさん掲載されていて、猫にまつわる本のブックガイドにもなっている。同シリーズで『作家の犬』も刊行されていて、本棚で隣同士に並べてあるのだけれど、今までに開いた回数は『作家の猫』の方が圧倒的に多い。うーん、猫好きだけど、犬だって大好きなんだけどなあ……。
 
 
 

-ヒビレポ 2014年10月2日号-

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