ノスタルジック中華の研究  第1回

“アーチ型のノレンにしびれる”の巻

 
下関マグロ
(第17号で「散歩の途中に見かけた書店で」を執筆)
 
 
 
 
 
素敵な町中華の店舗ファサードでひときは目立つのが、ノレンだ。営業中であることを伝えるためにノレンが出される。遠くからでも、あの店やっているなってことがわかる。

 
001
 

時にアーチ型のノレンがある。あれは、正面からではなく、横からでも営業中だということがわかるようになっているのだというのを雑誌で読んだことがある。

 
002
 

雑誌で見たノレンはとても味のあるものだったが、中華料理屋ではなく、洋食店だった。その雑誌を探してみたが、見つからない。ならば、見に行こう。たしか浅草だった。名前は大木洋食店。ネットで住所を調べ、カメラを持って出かけた。


 

場所は馬道通りというけっこう太い道路沿い。あったあった、これが正面から見た大木洋食店。道の反対側から見たところ。

 
003
 

正面から見ると、普通のノレンのように見えるのだけれど、近くから見るとこれがアーチ型になっている。

 
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写真を撮ってすぐ帰ろうと思ったが、表のメニューを見たら、ラーメンがあるではないか。

 
005
 

ところで、そのメニューのところになぜか電話番号を書いた紙が貼られている。これを書いている今気がついたんだけど、この電話番号、食べログに載っているものとは違うものだ。食べログが間違っているのかしらん。とにかくラーメンを食べてみたくて、店内へ。

時刻は11時20分。お客さんは誰も居ない。壁にはいろいろな写真が飾られている。とりあえず、4人がけの奥のテーブルに座る。店の主(あるじ)が厨房から出てきたので、「ラーメンください」と言うと、店主は無言でクーラーボックスから梅酒の瓶を取り出し、中の液体をコップに注ぎテーブルに置いた。梅酒でないことは、ラベルの古さでわかる。「どうしてもっていうんならやりますけど、他にもいろいろありますよ」と店主。どうしてもっていうわけでもないのだが、「洋食屋さんなのにラーメンって、珍しいなって思ったんで」と告げると、店主は厨房へ行った。が、厨房から「あんまり、自信がないんですよ。ほら、いまコンビニなんかいけばすぐに出てくるでしょ」と声をかけてきた。さらに「お客さんがどうしてもっていうんなら作りますけどね」と言いながら、フロアに出てきて、「たとえば、こんなのもあるんですよ」と額縁を指さす。そこには「本日のランチ
オムライス 700円」とあった。無理やりラーメンを作ってもらってもなんなんで店主の勧めに従うことにした。

「あ、じゃあオムライスでお願いします」と言うと、店主はニコッと笑い、「席、こっちのほうがテレビが見えますよ」とテーブルの反対側に移るように勧めてくれた。

 
本日のランチの額縁の隣にある写真に目がいった。写っているのは立川談志と野末陳平、それに店主だ。あともうひとりは誰だろう。店主に写真を撮っていいか聞いてみる。すると「あなたは、昭和何年生まれ?」と聞いてくる。なんの関係があるのかと思ったのだが、とにかく「33年です」と答える。「私は11年。10代で東京にやってきて、最初は亀戸にいたんんだけど、昭和29年にてここへやってきたんですよ。これが先代の店主。10年前になくなったんですけどね」と教えてくれた。何度も訊かれるのだろう、訊かなくても答えてくれた。そして、「写真どうぞ、私も下手の横好きですけど、カメラやるんですよ」と言い、厨房に消えていった。

 
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チャンネルはテレビ朝日だった。水を飲むと、ほぼ常温。一気に飲み干すと、また店主がやってきてクーラーボックスから梅酒の瓶を取り出し、ほぼ常温の水道水だと思われる水を注いでくれた。すみません、と頭を下げたのだが、店主はそのまま無言で表に出て行ってしまった。あれ、いったいどうしたんだろう。ひとり取り残されちゃったよ。なに、どうなっているの?

 
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しばらくすると、卵2パックとトマト2個を持って帰ってきた店主が戻ってきた。「隣が八百屋だと便利ですよ」とニコリ。そうか、材料を買いに行っていたのか。しばらくすると、オムライスが登場。

 
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店主、自分の定位置である隣のテーブルの席に陣取り、話が始まった。自分が撮った写真を見せる。スカイツリーの写真だとか、紅葉、桜の写真もある。自転車に乗って、写真を撮るのが趣味なのだそうだ。素晴らしいですね、と言いながらオムライスをかき込む。ああ、昔風のケチャップ味がかなり濃いかんじ。肉はポークだろう。まちまちの大きささでゴロンと入っている。ちょっとゴージャス。「はい、これ見て」と紙焼きの写真を数十枚渡される。スプーンを置いて、写真を見る。話の切れ目に、「おいしいですね、オムライス。さすがに老舗の洋食屋さんですよ。しかし、なぜ洋食屋さんにラーメンのメニューがあるんですか」と聞けば、「そりゃ、うちはもともとラーメン屋だもの」とのこと。えーっ、町中華だったのぉ。「それがとんかつやらカレーライスやらご飯ものも出すようになっただけ」とのこと。なるほど、それでノレンが「大木」だけなのかな。そう思いながら味噌汁をすする。煮こまれた、塩分濃度高めの味噌汁だ。

 
そして、いちばん聞きたかった質問。「やはり、あのノレンっていうのは、なんでああゆうアーチ型なんですか?」と聞いたら「そういうことは、私、わかんないの。すべて先代がやったことだから」というお答え。さらに「あなたのような年配の人はノレンの意味がわかってらっしゃるでしょうけど、今の若い人なんかは知らないんですよ。『やってる?』なんて聞いてくる。ノレンが出てなきゃ、やってないんですよ、ね」とニコリ。支払いをする。千円札を出すと、百円玉3枚返してくれた。「あー、いつもは800円なんだけれど、ランチサービスで700円なんですね」と言うと「そう、100円は足代ということで」とまたニコリ。テレビではもうすぐ『徹子の部屋』が始まるところだった。

 
 
-ヒビレポ 2014年10月4日号-

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