あのへん! 〜中野阿佐ヶ谷高円寺〜  第3回


民生食堂 天平

 
島田十万
(第16号で「よろずロックバー『山路』」を執筆)
 
 
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 庚申通りといえば高円寺を代表するメインストリートのひとつ。その庚申通りを、駅から北に5分くらい歩くと早稲田通りにぶつかって、左に曲がるとすぐに「大和町郵便局前」という信号があります。
 そこから先は「中央通親和会」という名前の商店街になるんですね。片側一車線のせまい道。住所は中野区中央3丁目になるみたいですけど駅では高円寺のほうが断然近い。
 先日の夕方、ちょうど陽が沈みかけのころ、あのへんを自転車で通りかかったら、なんだか味のあるドアが目にとまりました。商店街入り口左手のバー。黄色の壁にNO CHARGE!BEER¥600、BOURBON¥600なんて派手なローマ字のシールが貼ってある。
 近づいてみると「MUGEN」だった。ロックに限らずほとんど音楽を聴くという趣味がないボクでも名前ぐらいは知っている、有名なバーではないか。なるほどこれがあれかこんど来てみよう、などと思ってまだ営業前の外観写真を撮り、通りの向かいを見るとこれも古びた味のある建物。
 えっと思って、もう少し先に目をやると学生服をあつかう古い洋服屋というぐあいで、良さげな店がとぎれない。結局、2kmほどの商店街をダラダラと自転車で走破してしまいました。
 居酒屋はある、洋服屋はある餃子屋はある喫茶店はある、手焼きせんべいの店はある魚屋はある、でそれがみんなレトロ。
 空にまだ青味が残って、表の明かりがポツポツと灯される時間帯は写真を撮るにも最高なんですね、オートで撮っても失敗がない。そのうえ気候が良いのでいつまででも撮り歩いていたくなる。
 たぶん、ゆっくり歩いても30分はかからないくらいのコース。ボクは西武線、都立家政駅近くの踏切まで行って引き返してきました。
 

 
 途中で見つけたのが「民生食堂 天平」。民生食堂ってなに?と表のウインドーをながめると、ラインナップは普通の食堂みたい。うな重3600円が少し目を引くけれども、天丼カツ丼親子丼とか、アジフライ定食サバ味噌定食とかとくに変わったかんじはない。
 それでもどんなもんだか一度食ってみようと決心したのですが、その日は別の用事もあったりして中には入らず出直すことにしました。
 
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「民生食堂」についてはこちらが詳しいです。
http://entetsutana.gozaru.jp/kenkyu/kekyu_4_04.htm
「きどるな、力強くめしをくえ!」の遠藤哲夫。
『大衆食堂の研究』は何年かまえに読んで感動しました。
「民生食堂」の話もでていたはずだがぜんぜん覚えていなかった。

 
 2日後の昼11時すぎ。店主と思しき170cmくらいで歳のわりには背すじのまっすぐな75、6歳のジイさんがのれんを出したところで到着。ジイさんの背中を押すようにして入店、「魚の天ぷら定食800円」を注文したあと「写真撮っていいですか?」と聞いてみました。他の客でも入ってきたら頼みづらいもの。
「どうぞどうぞ。古いだけでなんてことない店だけど、写真なんて撮って面白いの?食べ歩き?」店主はまったく問題ないというようすで逆に質問してきました。話好きなかんじ。
 で、世間話をしながら写真を何枚か撮り終えたころ、
「開いてんの?」と言いながら常連風のジイさんが入ってきて、
「焼酎ちょうだい」
 緑色のとっくり型ガラスビンに入った焼酎をもらって、店主と雑談しながらロックでチビチビやりだしました。いいねえ、うらやましいってわけじゃないけど、なんとなくいい。
 話のようすだと近くの商店主らしく、毎日やってきては焼酎を呑んで昼飯を食っていくみたいでした。
 
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右端には、うな重3600円も!

 
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 老人のお孫さんの七五三の写真とか、並んだ品書きとか、内観も昭和そのもの。60年ぐらいやっているらしいが、外も中もオリジナルのままあまり手を加えられていないようす。
 頼んだ「魚のてんぷら定食」は魚2種と野菜1種。いま風の軽くサクっと揚げたのではなくて、衣厚めでしっかり揚げたむかし風のてんぷら。味噌汁、お新香、ご飯のセット。

 常連のジイさんは「つまみがねえな」とつぶやいて、「海苔あんの?海苔焼いてよ」なんてやっている。店主も常連も地元生まれなんじゃないかな、古い邦画にでてくるような東京っ子のアクセント。
 高円寺に住んでいた義理のオジさん、ボクのオバさんの連れ合い、も同じようなアクセントだったのを思いだしました。そこで生まれ育ったボクより3歳年下の従兄弟はしゃべれない言葉。現在の65歳くらいのところに分かれ目があるのかなぁ。
 
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魚登美。夕飯のおかずでもと思ったが、準備中でまだ魚がない。

 
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都賀野。手のひら大の丸せんべい1枚60円。
こわれせんべい1袋250円購入。合計490円也。

 
 歌舞伎町に住んでみたいという気持ちも消えないけれど、身近に、気楽な心地いい店が何軒も連なるようなところに住むのも都会暮らしの醍醐味なのかな。
 それなりに長くやっているけれども老舗ではない、くらいの店ね。

 
 
 
-ヒビレポ 2014年10月20日号-

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