笑いたい読書  第4回


笑う青空文庫

 
木村カナ(レポ編集スタッフ)
 
 
 
「レポTV」の公開収録イベントとして、「声に出して読み聞かせたい迷文」という企画をやったことがあった。2011年5月15日の高円寺、企画内容の発案者はたしかえのきどさんだったと思う。えのきどさんトロさん、さらにゲストのレポ執筆陣が選んだテキストを、文化放送・吉田涙子アナウンサーに朗読していただく、という、すこぶる豪勢なイベントであった。

 これまでに配信した「レポTV」の録画は、2013年9月以前のものもYouTubeの「レポTVアーカイブス」で今でも見ることができるのだが、残念ながら「声に出して読み聞かせたい迷文」は「データ不完全によりアーカイブは公開しておりません」……ちなみにPodcastにもありません。そもそも録画してなかった第0回以外で、もう見られなくなってしまっているのは、たぶんこの第14回ぐらいなんじゃないだろうか。
 
20110515
 

 
 この日、朗読された本の書名とその選者を、会場からの実況ツイートのログから抜き出して、以下に記す(敬称略)。

  • 田中宏和『田中宏和さん』リーダーズノート
  • 昭和9年発行「主婦の友」付録『夫婦和合読本』(日高トモキチ選)
  • 『完全図解周期表』ニュートンプレス(乙幡啓子選)
  • 山口椿『中国残酷物語』幻冬舎アウトロー文庫
  • チチ松村『それゆけ茶人』廣済堂出版(えのきどいちろう選)
  • 中崎タツヤ『もたない男』飛鳥新社(北尾トロ選)
  • 都築響一『夜露死苦現代詩』新潮社(日高トモキチ選)
  • 高野秀行『世にも奇妙なマラソン大会』本の雑誌社
  • 北尾トロ「奥崎謙三のラブレター」『季刊レポ』創刊号

(わたしも当日の会場にいたのだが、運営スタッフも兼ねていたため、受付その他で動き回っていて、ところどころしか聴くことができなかった。そのせいで内容についての記憶はほとんどないのだけれど、『中国残酷物語』を選んだのは早川舞さんだったような。)

 この「声に出して読み聞かせたい迷文」、今から考えると、「笑う本棚」フェア&特集の原型というか、前哨戦というか。『田中宏和さん』『世にも奇妙なマラソン大会』を両方で推しているのは新保信長さん。それから、「声に出して読み聞かせたい迷文」実況ツイートの中で、トロさんが持参しようとして見つからなかった本、として、太宰治の「畜犬談」のタイトルが挙がっている。この作品が収録された『太宰治 滑稽小説集』(みすず書房)を、2012年の「笑う本棚」でトロさんが選んでいるのを発見して、「声に出して読み聞かせたい迷文」のリベンジなのかなあ、なんて思ったりした。

 実は、「畜犬談」も含め、『太宰治 滑稽小説集』の収録作品8編はすべて、青空文庫で読むことができたりする。

太宰治「畜犬談」
http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/card246.html

 よくもまあ、と呆れるしかない、すさまじいまでの犬への呪詛からはじまって、そんなに犬が嫌いかよ、怖くって憎たらしいのかよ!と読み進めていくと、あれれ? 太宰治のいわゆる代表作からはかけ離れているような、だけど、いかにも太宰治らしくもあって。たしかにこれを朗読で聴いたら、思わずくすくすと笑っちゃいそう。

 この太宰治の「畜犬談」のように、青空文庫で公開されている、有名な作家の作品で、一般的な代表作とは一味違う、つい笑ってしまう短編を3つ、紹介したい。

夏目漱石「自転車日記」
http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card768.html

 そもそも漱石は滑稽な小説で人気を得たわけで、デビュー作『吾輩は猫である』だって今読んでも十分笑える。青空文庫でも読めるけれど、長編なので、この小品を。イギリス留学中の自転車初体験を面白おかしく書いたレポです。

森鴎外「牛鍋」
http://www.aozora.gr.jp/cards/000129/card3615.html

 男と女と、女の娘が牛鍋を囲んでいる場面を描いただけの短編なのに、この異様な緊迫感は何なのだろう。肉をめぐる箸の動きから導き出されるかくも深刻な結論。不穏すぎて逆におかしい。朗読で聴いたらきっともっと笑えるに違いない。

 鴎外だったら「大発見」も面白いのだが、青空文庫ではまだ作業中。漱石の「自転車日記」と同様、留学体験に基づいた短編である。鼻糞をほじるのは日本人だけじゃなかったんだ! ヨーロッパ人も鼻糞をほじるのだ!とわかって、大喜びしているお話……『鴎外近代小説集』第2巻(岩波書店)などで読めます。

幸田露伴「ねじくり博士」
http://www.aozora.gr.jp/cards/000051/card46418.html

 大真面目な人生論なのに、その真面目さにむしろ笑いを誘われてしまった『努力論』、でもあれは長いしなあ、と、幸田露伴の作品リストを開いたら、『努力論』のすぐ下に、気になるタイトルを発見、読んでみたら面白かったのがこの短編。なにこれ、電波系?な大哲学者・ねじくり先生のご高説、しっかりオチもついて、おあとがよろしいようで。

 以上、漱石・鴎外・露伴と、明治の文豪が、こんな・そんな作品も書いてたんだ、って笑っていただけたら幸甚なり。
 
 
 

-ヒビレポ 2014年10月23日号-

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