
武蔵野園
島田十万
(第16号で「よろずロックバー『山路』」を執筆)
最近阿佐ヶ谷では「YO-HO’s cafe Lanai(ヨーホーズ カフェ ラナイ)」というハワイ料理の店が大評判で、知り合いが行ってみたら外に20人くらい並んでいて、とても入れる雰囲気じゃなかったとか。
なんでも『孤独のグルメ』という人気テレビドラマのロケに使われて、そこで出てきたオックステールスープが食べたかったらしい。
原作のマンガ『孤独のグルメ』は読んだ記憶があるし、本棚に入っているはずだが、それがテレビドラマになっているとは知らなかった。
彼女が言うには、すごい人気番組でずいぶん前に善福寺川緑地公園の「武蔵野園」もやっていたよ、と教えてくれた。
オックステールスープはそんなに興味がないけれども「武蔵野園」ならたまに行くところなので、また行ってきました。
広いというだけでなにがあるというわけでもないんだけどね。この公園はとにかく広い。
いま思えば呑気なものだけれど、昔は(と言ってもほんの10年前なんだけれど)撮影が終わってフィルムを現像所に預けてしまうとカメラマンの仕事はほとんど終了でした。その分現場ではみな張りつめて撮影していたんですね。現場で確認できないので失敗したら取り返しがつかない。
デジタルになって、すぐ確認できるので現場はだいぶ楽になりました。
そのかわり、帰ってからの作業が格段に増えた。色味とかコントラストとか基本的にすべてのカットに細かな修正が必要になるんです。それに、いつまででもいじっていられるから延々作業することになり、机上でモニター画面を見続けることになる。これが老眼に辛い。
そんなときに自転車でこの公園をブラつくんですね。ボクの家からは15分くらい。
自転車道をのんびり走るのもいいし、早朝なら近くの池に集まる野鳥をねらうアマチュアカメラマンを眺めるのもいい。ジョギングやウォーキングの人を観察するのも気晴らしになります。
普段は老人が多いですね、やっぱり。本日は、平日の昼食には少し遅い時間帯なのでさすがに公園も空いています。
たいがい、「武蔵野園」店頭の自動販売機でお茶か缶ビールを買ってベンチで小休止するのですが、今日は食堂に入りました。「武蔵野園」には釣り堀と食堂があります。

典型的な東京ラーメン。


ボクは、厨房に立っていたオバさんにラーメン550円也を注文。
観客席(ボクが勝手にそう呼んでいる)を見ると、すでにガイジンさんがビールを飲んでいる、客はこの2人だけ。
そんなつもりはなかったのに、つられてボクもビールを追加。斜めうしろに座りました。



前回いつ来たんだか思い出せないけれど、たぶん5,6年前と思う。ラーメンを食うのは3回目か、4回目になるか。そういえばここではラーメンしか食べたことがない。
釣りは生まれてから数えるほどしかやったことがないし、ここでも一度やったきりで、あまり興味がない。向いていないんですね。竹竿を借りて糸をたらした瞬間にもう飽きちゃうみたいな感じか。
ひとが釣っているのを眺めているのは楽しいんですけどね。退屈しないわけでもないけれど。
左手には、ずっとケラケラ笑いながら釣っている若い女の子2人組。右手には、何かを思いつめているようにも見えるし、なにも考えずぼうっとしているようにも見える中年のおっさん独り。両方ともぜんぜん釣れない。
オバさんが、ビールを先に持ってきてくれた。100円違いじゃもったいないような気がして、ロング缶 400円じゃなくて瓶ビール500円を頼んだけれど、昼から大ビンは少し多かったかな。
外人のおっさんたちは、どういう商売なのだろう片方が作務衣姿で片方はロン毛を後ろで結んでいる。どちらもヒゲ面。とぎれとぎれにチャイナとかチャイニーズとか聞こえてくる。
すぐにやってきたラーメンをゆっくり食って、ハラが一杯になった。
「お前フィルムは入れたのか?」
「フィルムってなに? じいちゃん」
「昔は、写真を撮るときはカメラの裏蓋を開けてフィルムを入れたんだよ」
「CFカードみたいなもの?」
「プラスチックに薬品を塗って巻物にしたやつ。それで36枚撮ったらフィルム交換」
「えっ〜? 普通は500枚くらい撮れるよ。それに要らないカットを消せばいいんじゃないの?」
「現像しないと見られないんだ」
「現像ってなに?」
やっぱりビールの大瓶が効いてウトウトしちゃったみたいだ。
写真を勉強する学生でもフィルムカメラを使ったことがないという剛の者もいると聞いたから、フィルムを知っているという人なんかそのうちにいなくなってしまうんだろうな。
-ヒビレポ 2014年10月27日号-