MAKE A NOISE! 第47回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

虫愛でるマダム

 

山口ゆかり
(第16号で「どんなに幸せでも罪悪感と孤独感はぬぐえない」を執筆)
 
 
 
 ピーター・ストリックランド監督は映像で見せます。ニック・フェントンとの共同監督作『ビョーク/バイオフィリア・ライブ』が公開されましたね。細胞からイカまでアートな世界。
 

 
 ですが、もちろんビョーク主体。ビョークが苦手な人にはきついかも。私も『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のビョークは好きなんですけどねえ。小さい体が張り裂けんばかりの声量で朗々と歌い上げるスタイルが、貧しい暮らしの中、遺伝する病をかかえつつ、せめて子だけは救おうとするシングル・マザー役にピタリとはまりました。ビョークをこう使ったラース・フォン・トリアー監督、えらいです。
 

 というわけで、必ずしもビョークは悪くないですが、ビョーク抜きでストリックランド監督作を観たいという方には『The Duke of Burgundy』。でも、こちら、ビョークがいない代わりに虫がいます。
 
 
 

 
トレイラーは映画の始まりあたり。通いの家政婦さん?と思わせる若い女性が、貫禄あるマダムにこき使われている。けど何か変。すぐにゲームとわかります。女主人と召使を演じる2人、当然、女主人がいばってますが、内面は違うのも見えてきます。
 
 この2人、来る日も来る日も、こうして主人と召使のゲームを続けているのでした。貫禄のマダムは言い換えれば年増のマダム。主人役に疲れながら、それでも、若い恋人をつなぎとめるために必死で演じているのです。

 2人の共通の趣味が昆虫学。良家の奥様や子女風の麗しい女性ばかりが並ぶクラスに通い、教師も美しい女性だったりして、2人のいるお屋敷からクラスまで美であふれています。そのあたり、全部の画面がグラビアみたいだった美意識充満映画『シングルマン』を思い起こしました。元グッチ・デザイナー、今はトム・フォード社を立ち上げているトム・フォード監督デビュー作です。 
 

 
 登場人物のファッションはもちろん、鉛筆削りから壁の時計まで、デザイン的に美しくないものは許さないわっ!的デザイナー魂を感じさせる『シングルマン』でしたが、その美意識を変態(褒め言葉です)方向にずらした世界を想像していただければ、『The Duke of Burgundy』に近いものが浮かぶと思います。                                                                

 『シングルマン』が美意識だけの映画でなかったのは、たくさんの映画賞ノミネート/受賞暦で証明済みですが、『The Duke of Burgundy』もただの変態映画ではありません。巧みな心理描写で、一見、倒錯的愛の世界を、充分に了解可能で普遍的な愛の話たらしめています。昨年度の愛の映画なら、何と言っても『アデル、ブルーは熱い色』でしたが、私の今年度はこの『The Duke of Burgundy』になりそう。なぜか女性同士続き。男女のがっつりした愛の映画はすたれているんでしょうか。

 とはいえ、アデルは直球にがっつりでしたが、虫マダムの方はコメディな場面もあって、タッチはかなり違います。細密画の虫たちが画面いっぱいに羽ばたく、めくるめく映像もあって、ストリックランド監督のセンスが際立っています。
 
PS 2014Ls

ピーター・ストリックランド監督 2014年ロンドン映画祭(撮影:著者)

 
 次回は、男性主人公ですが、陰の女性が気になった映画です。

 
 
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-ヒビレポ 2014年11月12日号-

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