笑いたい読書  第7回

笑いと味覚はよく似てる

木村カナ(レポ編集スタッフ)


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菅野彰・立花美枝子
『あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します』
新書館ウィングス文庫


 食エッセイといったらたいていはグルメ、美味美食について書いてあるものだとばかり思っていた。
 ところが、「笑う本棚2014」で、『あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します』を選んだ杉江松恋さん曰く。

「下手をしたら食中毒になりかねない危険な店にわざわざ行って飯を食うという蛮行が素晴らしい。」

 そう、長い書名の通り、日頃から営業しているのかどうかも疑わしい、見るからに怪しげな飲食店にあえて突撃してみたレポであるこの本、予想に反してまともな店だった場合には生きてる、まともじゃなかった場合は死んでると判定する。で、まんまと死んでる店に行き当たってしまった結果、どうなるか……うまいよりもまずいに紙幅を割くことに。こんな本、はじめて見た!

「何処かに隠れた名店が!!」という心の叫びが企画のきっかけになっているくらいだから、著者の二人だって、好んでまずいものを食べたいわけではない。チェーン店ばっかりは味気ない、多少のリスクには目をつぶって、気になってはいるけれど、空手で足を踏み入れるのがためらわれる地元のあの店この店に取材も兼ねて行ってみよう、それがネタにもなってああおいしい、ぐらいで済めばよかったのに、それどころじゃない。著者たちを戯画化した着物姿の猫、キリリとしめた「決死隊」の鉢巻がシャレではなくなってしまった。

 人気店なのに大しておいしくない、あるいは、店の外観は多少難ありだけど実はおいしい、なんて話はざらにあること。
 ところが、二軒目にしていきなりぶち当たったのが「中華飯店(仮名)」、「死んでる店」の極北、こんな店が営業許可書を持っていていいのか?と読みながら疑問を抱かずにはおれないレベルのやばさ。ここまでひどい店はそうそうないだろう、と思いきや、それが意外とあるものなんですね、「死んでる店」って……。

 三回目の試練として、著者たちが出かけているのが中央線沿線。
 西荻窪の、昭和一桁みたいな細い横町にある、名前にインパクトがあるタイ料理屋って……やっぱり「ハンサム食堂」じゃないか! ここは今でも思いっきり生きてるよ!! おいしいよ!!!

yanagi01ハンサム食堂がある西荻南口の飲み屋街「柳小路」。
ラーメンの名店「はつね」を除けばこの通り、日中はとても静か。
ただし、毎月第3日曜日には「西荻昼市」が開催されて、昼間から賑わう。

yanagi02ハロウィン当日、金曜日の夕方、まだウォーミングアップ中の柳小路。
一本駅側の通りにある「戎」あたりでまず一杯やってから、
二軒目以降でこちらに流れてくる人多し。
終電前後の時間帯がいちばん人通りが多いかも。

 次に登場するのが荻窪の「村村庵支店(仮名)」。表紙の四コマに登場している「二重の意味で傾いている」店である。「中華飯店(仮名)」に負けず劣らずの破壊力を発揮した、この恐るべき蕎麦屋の紹介者はなんと、やまだないとさんだった! 『季刊レポ』の連載「料理入門」は素敵なイラストレシピ、おいしいもの好きとしか思えないないとさんもまた、「死んでる店」で過酷な体験をしておられたのである。

「死んでる店」および生きていても掲載許可が下りなかった店については、店名は仮名、店の場所もすぐには特定できないようにそれなりにぼかして書いてある。だが、「村村庵支店」についてはヒントが多く、土地勘もあるので、あたりをつけてネットで調べてみたところ、店名・住所・電話番号がすぐさま判明。食べログでは「【閉店】」になっていたが、2013年3月の時点で、本書に言及して、現在も営業中、と紹介しているブログ記事を発見してしまった。そこには外から撮った写真も掲載されていて、建物の古めかしさに比べると新しめに見えるメニュー、引き戸のガラスの向こうにとりこまれている暖簾が写っている。 ま、ま、まさかの健在もありえる!?と、恐る恐る電話をかけてみると、不通(この電話番号は使われておりません)だったので、思わずほっとしてしまった。

 しかし、もしかしたら建物だけでも残っているかも、と思い立って見に行ってみたら、すでに取り壊されていて、コインパーキングになっていた。菅野・立花ペア、ないとさんには申し訳ないが、万が一、健在だったとしても敵前逃亡するつもりでした。ヘタレですみません!

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「村村庵支店(仮名)」ショックで奇行に走った立花さんが入ろうとした「超怪しい名曲喫茶」はたぶんここなんじゃないかと思う。ふらっと入ってみたことがあります、ここはしっかり生きてますよ!

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 ついでなので、「村村庵本店(仮名)」まで歩いた。中央線の車窓からも見える超有名店である。

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 荻窪と西荻のちょうど中間ぐらい、今までにも前を通ったことはあるが、おいしいけどお高いと聞くので、一度も入ったことがない。ここでお蕎麦をキメて、完全消滅した支店に思いをはせるのも一興か、と思いながら歩いていったのだが、この日は定休日だった。

「中華飯店」「村村庵支店」も含めた「死んでる店」についての記述は、どれもこれも実に衝撃的である。味だけならまだしも衛生管理とか賞味期限とか、こんな店があるのか、あっていいのかと読んでいる方が叫び出したくなるほどのひどさである。しかし、そのような「死んでる店」にも捨て身で立ち向かう菅野・立花コンビ。なるべく幅広いメニューを注文し、その上、完食ルールを自分たちに課す果敢さ……ダラダラと暮らしているようでありながらも、実は真面目だ、生真面目すぎる。

 そして、そういう蛮行というか苦行を、ネタとしてひたすら笑いの方向に昇華させようと努めている、何と言う「エンターテイナー」にして「頑張りやさん」たちなのでしょう! よそでは決して評価されないであろう、その健気さを褒めてほしくって、第2回「笑う本棚大賞」の選考候補になってもいいのでは!?と思ったけれども文庫、単行本は2007年発行なので、今回の選考基準からは外れているのだった。残念なり。

-ヒビレポ 2014年11月13日号-

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