MAKE A NOISE! 第49回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

男の世界

 

山口ゆかり
(第16号で「どんなに幸せでも罪悪感と孤独感はぬぐえない」を執筆)
 
 
 
 今回は、前回予告したマッチョ映画から、そろそろ噂され始めたオスカー候補なども。
 
 見るからにマッチョなデヴィッド・エアー監督は元海兵隊員。描くのもタフでハードな男の世界。
 
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デヴィッド・エアー監督 2014年ロンドン映画祭(撮影:著者)

 
 脚本を書いた『トレーニングデイ』では、デンゼル・ワシントンが極悪刑事をノリノリで演じてオスカー獲得。あんまりワルで、いたぶられる方の新入り刑事役イーサン・ホークがウブに見えるのも隠れた人気ポイントかと思います。
 脚本と監督も務めた『エンド・オブ・ウォッチ』は、ドキュメンタリー風で臨場感たっぷり。熾烈な状況をくぐり抜ける警官コンビを演じるのはジェイク・ジレンホールとマイケル・ペーニャ。2人がどれだけ固く結ばれていたかわかる最後は、クーッとか言って袖口で涙を拭いつつ見るところなのでしょう。

 

 そのエアー監督が戦争映画を撮るときたら、水を得た魚。ド迫力戦闘シーンの『フューリー』、クーッ言わせまくりのはずが、男の世界、熱すぎです。
 フューリーと名づけられた戦車の、あだ名で呼びあう乗組員5人、お熱いのは隊長ウォーダディー(ブラッド・ピット)と部下バイブル(シャイア・ラブーフ)。血気盛んなウォーダディーは呼び名通りチームのお父さん、口を開けば聖書の一節なバイブルはお母さん的役割なのはわかるけど。
 怒りで度を失ったウォーダディーを「僕だよ、わかる?」とか言いながら押さえ込むバイブル。負傷したウォーダディーをバイブルが優しく手当て。バイブルの頭をちょっと抱きしめるウォーダディー。疑惑シーン満載、できてるとしか思えません。
 第41回でネタにしたトレイラーのブラピ半裸も、ふたを開けてみれば女性2人の前で脱ぐシーンだったにもかかわらず、見せるだけ。女性には触れない。ますます、あやしいわけですが、決定打無し。
 真相を確かめるべくFury Gayで検索。Screen Crushにエアー監督のお答えが。要約すると、ゲイではない、一般の世界と軍の世界との違い、軍ではよくある強い絆、だそう。
 

 肩透かしだった『フューリー』ですが、男の世界がパワハラなゲイにずれていくのが『フォックスキャッチャー』。
 優勝目指してトレーニングに励むレスリング強化チームというと、さわやかスポ根ものみたいですが、驚きのドス黒さ。それも実話が基と聞けば納得。これほどの話はまず思いつけません。
 

 
 基になったのは、大財閥デュポンの御曹司がレスリング五輪金メダリストを殺害した事件。
 この御曹司には最初から違和感。広大な屋敷の土地に練習場から宿舎まで用意して一流選手リクルートのレスリング熱も、額面通りには受け取れない感じ。
 次第に、ゲイ的な嗜好からのレスリング好きらしいことや、レスリングを低俗なものと見ている母親への反発が見えてくる。母の馬が獲得したトロフィーを片付け、レスリングのを飾ったりするくせに、珍しくレスリング練習を見に来た母の前では、コーチに代わって自分が指導、いいとこ見せようとする。
 複雑なコンプレックスを感じさせる反面、自尊心も半端じゃない。それでも、良いとこの子らしく、表面は紳士的で、ほんとうの感情は見せない。最後、殺害に至るきっかけも、あんなことでそれほど怒ってたのか!唖然とします。
 ですが、振り返ってみると、そういえば、あれもダメージだった?これも?それも?と様々思い起こせるのは、御曹司役スティーヴ・カレルの抑えた名演あればこそ。『40歳の童貞男』はじめコメディ俳優としてお馴染みのカレル、今回はシリアスな役に、付け鼻、薄眉、白髪で別人みたい。オスカーの呼び声もあります。
 

 オスカーの呼び声といえば、『イミテーションゲーム』のベネディクト・カンバーバッチ。こちらも基の実話からしてドラマチック。
 

 
 カンバーバッチ演じる数学者アラン・チューリングは、戦時中、イギリスでドイツ軍の暗号「エニグマ」解読機械発明に成功、数億とも言われる人命を救ったにもかかわらず、当時は違法だった同性愛行為で1952年に逮捕され、1954年に自殺。41歳でした。暗号解読機械は、後のコンピューターの基になりました。
 ですが、秘密裏に行われたエニグマ解読作戦は70年代まで明かされずじまい。一般の人がチューリングの功績を知ることもなかった。その後、この作戦を基にしたロバート・ハリスの小説『暗号機エニグマへの挑戦』が出て、映画『エニグマ』になったのですが、チューリングは架空のキャラクターにされています。ストレートで、女性とのロマンスもあるお話になっています。
『イミテーションゲーム』の方は、アンドリュー・ホッジスが書いたチューリングの伝記小説『アラン・チューリング:ジ・エニグマ』が原作。ようやく最近になってエリザベス女王から公式な謝罪がなされたチューリングを、広く世に知らしめるのにも、この映画は大きい役目を果たしそう。カンバーバッチ、良い仕事しましたね。昔ゴッホを演じているのを見て、注目するようになったカンバーバッチ、その後、ホーキング博士なども演じていて、悲劇の天才役は今のところ100%で好演です。

 期せずして、オスカー候補と噂される3作がゲイ関連でした。『フューリー』は監督が否定しましたが、ロマンスを匂わせる2人に加え、若くて可愛いローガン・ラーマンから貫禄のブラピまでのミリタリールックで、ゲイ的萌え要素では3作品中ぶっちぎりと思います。
『イミテーションゲーム』はLGBT人権運動への応援ともなるはず。すでに関連団体から、イギリスで処罰されたチューリング以外の5〜10万人への謝罪は?の声も上がっています。

  
 さて、オスカーといえば、一押しなのが『ウィップラッシュ』。
 

 
 ジャズドラマーを目指す青年アンドリューをマイルズ・テラーが演じます。ロマンスやライバルとのつばぜり合いもありますが、基本、シンプルに鬼コーチとアンドリューのバトル物語なのが良い。バトルの相手となる、ジャズオーケストラ指揮者兼指導者フレッチャー役がJ.K.シモンズ。もう笑えるほどの鬼っぷり。鬼だけど、実は愛情ある…なんて、ぬるいものじゃなく、音を聞く耳は一流でも、人間としてどうなのか、みたいなとこがさらに良い。
 エンディングの気持ち良さもピカイチ。エンドロールが始っても、まだバックでアンドリューのドラムが鳴り続け、ピタリと決まって終わった瞬間、思わず大拍手。映画を観に来た観客を、コンサートでスター誕生の瞬間に立ち会った観客みたいな気分にさせてしまう。エンディングの勢いだけでも、オスカー届きそう。
 
 
 男の世界な今回でしたが、個人的には、やっぱり、リアリティある女性を描ける監督に好感を持ちます。次回はそんな監督たちの映画。

 
 
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-ヒビレポ 2014年11月26日号-

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