MAKE A NOISE! 第51回

メリル・ストリープのお言葉(第1回をご参照下さい)に従い、まだ知れ渡っていない面白い映画をロンドンからMake a noise!
 

熟練の巨匠と若き天才

 

山口ゆかり
(第16号で「どんなに幸せでも罪悪感と孤独感はぬぐえない」を執筆)
 
 
 
 マイク・リー監督は、イギリス映画もう一方の雄、ケン・ローチ監督とは様々に対照的。
 私は、男映画のローチ監督、女映画のリー監督と思います。まず、単純に、それぞれ男性主人公、女性主人公の秀作が多い。不思議と重なることのない出演俳優の雰囲気もそう。アル中役、切れて暴れる役などでお馴染みのロバート・カーライルやピーター・マランなど、荒ぶる男たちなローチ監督。市井の人を描くのはローチ監督同様でも、リー監督の男たちは荒ぶらない。ジム・ブロードベンドやエディ・マーサンなど、コツコツ日常を紡ぐことでやりすごしていくイメージ。

 そのリー監督が、今でもイギリス最高峰、当時も重鎮だった画家、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーを描く『Mr. Turner』。なんだ、リー監督、今度はセレブですか?と思った私が浅はかでした。ターナーは、ちゃんとリー作品の主人公です。
 市井の人のベースが生活そのものとしたら、ターナーのベースは絵。コツコツ絵を描くことで、もう人生全部やりすごした感もある変人=偉人です。
 ハリポタのワームテールとしても知られるティモシー・スペルは、リー作品の常連。これほどタクシー運転手にはまる俳優はいない!な『人生は、時々晴れ』でしたが、ターナーにもはまった!
 

 
 
 ターナーが激しい反応を見せるのは、絵を描いている時と、お父さんが亡くなった時くらい。そのほかの人生の諸問題、特に女性に関しては、驚くほど、どうでもよさそう。母親が心の病で最後は施設で亡くなったのも影響したのか、家庭を築いていく気もなかったようです。生涯、独身で、テキトーに子ども作ったり。中でも、性欲処理みたいな扱われ方だった女中さんが、ターナーを慕っていたとわかる最後が泣かせます。さすがリー監督、複雑なキャラのターナーをじっくり見せながら、出番が少ない脇の女性たちもそれぞれしっかりキャラが立ってます。

 さて、こちらも確かな女性を描くグザヴィエ・ドラン監督です。可愛らしい顔立ちに小柄で、25歳の実年齢より若く見えるくらいですが、すでに世界の主要映画祭の常連。
 
NG&XD 2014Ls

プロデューサーのナンシー・グランとグザヴィエ・ドラン監督
 2014年ロンドン映画祭(撮影:著者)

 
 リー監督はリー組と呼べる俳優が数人いますが、ドラン監督もドラン組を作っていきそう。新作『Mommy』は、これまでにもドラン監督と組んできた俳優たちによる映画です。『Mommy』にいく前に、その俳優たちとともに、前作をたどっていきます。
 まず、今回、主人公となるアントワーヌ=オリヴィエ・ピロンは、ドラン監督の短編(アンドシーヌのPV)でも主演しています。
 

 
 19歳でのドラン監督デビュー作『マイ・マザー』で、母親役だったアンヌ・ドルヴァル、教師役だったスザンヌ・クレマンが、今回も同様に母親と教師。この2女優は、ドラン監督長編5本中3本に出演。クレマンがメインを演じたもう1本『わたしはロランス』は女になろうとする男とその恋人だった女、ドルヴァル出演のもう1本『胸騒ぎの恋人』は恋に落ちた若者、そして、残る1本の長編『トム・アット・ザ・ファーム』は亡くなった青年の恋人と兄の間で、強い感情の渦巻く物語を描いてきたドラン監督です。

 今回の『Mommy』は、『マイ・マザー』から一巡して母に戻ってきました。前述のように母親役、教師役まで同じ女優ですが、コメディタッチが薄まり、激しさは増しています。
 『マイ・マザー』はドラン自身が主人公を演じた半自伝でしたが、『Mommy』の主人公はピロンが演じるADHDの少年。もう体格では母を超え、息子と二人暮しの母には、手に負えなくなりつつある。そこにかかわるのが、母子のはす向かいに住む、言葉が上手く出ないという症状で休職中の教師。
 

 
 スケボーに乗った少年を母と教師の2人の中年女性が囲む3人の平和な時間、そこにオアシスの『ワンダーウォール』がかぶさると、幸せの中にも悲しみを染み出させます。危ういバランスの上の幸せ、この時間が長く続かないであろう予感。
 「お母さんは、いつか僕を愛さなくなる」、「あなたが、だんだん私を愛さなくなって、私の方は、どんどん愛すようになる。親子って、そういうものよ」、さて、どうなるのでしょう。
  
 今のところ、それこそ育ち盛りの子どもみたいな勢いで、1年1作という速いペースで撮り続け、1作ごとにぐんぐん伸びて、『Mommy』はカンヌ審査員賞獲得のドラン監督。このまま伸びていったら、この先、どれほどの巨人になるか、くらくらします。
 

  
 前途洋々なドラン監督ですが、私には先が無い!この連載も残すところ、あと3回じゃないですかっ!
 あせって、ちょっと趣向を変えます。試写できた新作の中からご紹介という芸の無いことでやってまいりましたが、この連載以前の、まだ知れ渡っていない映画にいきます。ここで書いとかないと、もうご紹介する機会もないかもしれないし…えっ?芸が無い上に古い映画じゃないか? うーむ…
 
 
 
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-ヒビレポ 2014年12月10日号-

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