笑いたい読書  第10回

他人事だったら美酒の味

木村カナ(レポ編集スタッフ)

 
 
 
 
 
 おりしも世の中は忘年会シーズンなのであります。
 酔っ払いにまつわる笑える本が「笑う本棚2014」でも2冊、まさにこの時期に読むにふさわしい! しかも、どちらの本も本気で笑える!!
 えー、酒飲みの本ってことは、そんなにお酒を飲まない・飲めない人にとっては大して面白くないのかな?って、そんなことはない、と思う。

 さてさて、高野秀行さんと平松洋子さんが揃って挙げている、その2冊とは……
 
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石原たきび=編
『酔って記憶をなくします』
新潮文庫

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酒とつまみ編集部=編
『酔客万来』
ちくま文庫

 

 
『酔って記憶をなくします』は、mixiの同名コミュニティへの投稿から面白い失敗談をセレクトしてまとめた本。『酔客万来』の方は酒好きの著名人へのインタビュー集である。

『酔客万来』は、中島らも・井崎脩五郎・蝶野正洋・みうらじゅん・高田渡、という顔ぶれで、酔っていなくてもすごいメンツ、かつ、酒飲みとしてもレジェンドなあの人とぜひ飲みたい!と編集部で押し掛けて、杯を重ねての記録。
 わたしがいちばん笑ってしまったのは何と言っても井崎さんの回である。といっても、競馬のことはまったく知らない、ただ、テレビの競馬番組で顔を見たことはあって、顔色が妙に悪いのに、やけに楽しそうにニコニコしている人、ぐらいの認識だった。しかし、この本のインタビューで読むと、ただの酒飲みではない! で、お酒とはそんなに関係のない「軟便友の会」の話がめちゃくちゃ面白かった……入会資格は「社会に出た後で、便のことで失敗したことがある」だそうだ。そういう、普段は語るのがはばかられる汚い話でも、飲み会という設定なので、大いに語り合い、盛り上がっているのだ。ウンコネタで素直に笑ってしまうなんて、いささか小児的すぎるか……でもここに出てくる話、どれも面白いんだよ! 幸いにして友の会入会資格はまだ満たしていないが、そのアイデアとか話しぶりから、井崎さんのサービス精神と優しさとダメさ加減が伝わってきて、いいなあと思った。

『酔って記憶をなくします』は、いわば普通の人がやらかしてしまった、単発レジェンドを淡々と収集・掲載していて、こちらもとても面白い。
 帯にも掲載されていて、高野秀行さんも触れている「目が覚めたら、部屋に薬局のサトちゃん人形が」というrie・39歳・女さんのエピソードがわたしのお気に入り。さらに、目撃者の証言によれば、この人は連れて帰ったサトちゃんに話しかけながら布団を敷いてあげていたそうで……って、なんでそんなことしちゃったの!?
 だって、「酔っ払い、それは奇跡を起こす生き物」だから……アルコールで理性がぶっ飛んでる酔っ払いったら、シラフのときには考えもしない、思いもよらないとんでもない言動をしてしまうものなのです。しかし、数多ある酒の上での失敗談の中でも、突き抜けた体験談だけをこうして抜き出して並べてあると、ありゃありゃ、もはや笑うしかない面白さ!
 あーあ、酔っ払いって、いや、人間って、面白い生き物だなあ、となんだかしみじみ。しかしまあ、自分が体験した本人だったらそんなに笑ってばかりもいられないんだけど……(笑えない失敗談だったら身に覚えがあるぜ!)。それに、当の本人でなくても、もしその場にいたら、心配してひやひやしたり、酔っ払ってるとはいえいくらなんでもって腹を立てたり、介抱だの後始末だのもあったり、面白がる余裕なんかないのだ。けれども、そんな話だって、後で聞いたり読んだりする分には、ただもう笑えてくる。本人としてもそうやって笑いに昇華させるしかないのである。だからたぶん、酔った上での言動の振り切れっぷりが面白くって笑っちゃうってのもあるけど、「他人の不幸は蜜の味」などす黒い側面もある笑いなのかもしれないなーなんて、グフフ。
 
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石原たきび=編
『ますます酔って記憶をなくします』
新潮文庫

 
『酔って記憶をなくします』巻末でのステキな失敗談募集と、好調な売れ行きを得ての続編である。続編だからってまったく薄まっていない、むしろパワーアップしているのが素晴らしい。こちらでわたしが好きなのは「バッグを開けたら、中から生きた沢蟹がわさわさと出てきた」(mikado 34歳 女)と「「雑草を食べる子」としてお客さんの間で有名に」(鼻チッチャイ里奈 22歳 女)で、甲乙つけがたい。前者は居酒屋のメニューの材料の沢蟹をニヤニヤしながら持ち帰った話、後者は公園でのバーベキュー時に、周囲が止められなくなるほどおいしそうに雑草を貪り食っていたという話。もちろん、本人は覚えていないし、どうしてそんなことをしてしまったのかもわからないらしい。
 
 グフグフ笑いながら読み進めていたら、「隅田川をあお向けで流されながら月を愛でる」っていうエピソードがあって。ぶっ飛び具合と生命の危険度では、正編続編を通じての中でもかなりの上位に入るだろう、それにしても、「あお向けで流されながら「月がきれいだなあ」と思った記憶が少しあります」とは風流な、と感じ入って、ページをめくったら、

(山下陽光 33歳 男)

って……! これってやっぱり、レポに連載もしている山下陽光さん、ですよね!?
 さらに、続編最後のエピソード、「起きたら、かばんの中に『酔って記憶をなくします』が」も、ページをめくると。

 愕然としましたが、本を読んだら私のお仲間がこれでもかと登場するので、すっかり気が楽になりました。これからも酒はやめられそうにありません。

(高野秀行 44歳 男)

って……!! 高野秀行さんてば、ご自分も投稿していて、しかも、続編のトリを飾っておられたとは!!!

 ちなみに、「酔って記憶をなくします」はさらなる続編、第三弾の刊行も目指しているそうである。「酔ったうえでのステキな失敗談」をお持ちの方は、ご自分も投稿してみてはいかがでしょうか。投稿についての詳細は『ますます酔って記憶をなくします』巻末を参照。正編続編にも負けない、とびっきりの笑えるヤツをひとつよろしくお願いします!

-ヒビレポ 2014年12月11日号-

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