ハルヒマヒネマ 5−6

『ショート・ターム』/ 『TATSUMI』/『ベイブルース 〜25歳と364日〜』

生きにくいけど生きやすいよりかは間が持つよね。

 
やまだないと(「料理入門」連載中)
 
 
『ショート・ターム』2013 アメリカ
D/W:デスティン・ダニエル・クレットン A:ブリー・ラーソン/ジョン・ギャラガー・Jr

児童保護施設のボランティアでいつのまにか恋人同士のグレイスとメイソン。現代の「Short Term 12」というのはその施設の名前らしい。家族からの虐待のある子、ひどい鬱病の子、誰かが常に気をかけて、目を向けていないと、それを実の親がやれない、そんな子達の保護施設。グレイスとメイソンも、そんな子供だったけど、子供の時期を乗り越えて、自分で自分をなんとか守れるようになり、自分と同じような子供達の力になることを選んだ。
ハルヒは、あまり人の気持ちがわからないので、こういうボランティア、仕事に就くことは避けたい。人の親にだってなりたくない。
なりたくないが、例えば、親戚になったり、ママの友達のおばさんになったり、通りすがりの大人になったりと、実際に自分が誰かの保護者にならなかったとしても、その役割を永久免除されるわけではない。そこはもう、緊張感を持って心得ている。
家にいる、15歳の老犬と2匹の年齢不詳のどら猫たちと自分の距離を、時々注意深く観察する。そして、ハルヒが保護者としてどの程度の安全度を持っているのかをチェックしている。
いまんとこ、安全度は低い。
「ショート・ターム」には塀がない。住宅地の芝生の庭続きの開かれた環境。でも、施設を抜け出す子供がいると、警報が鳴り、ボランティアたちが追いかける。が、子供が一歩敷地から出ると、ボランティアはもう子供に触れることは許されていない。
守ると言いながら、子供が守らせてくれない場合、何もできない。
人権ってこんな風に行使されるのか。
映画を見ていて思うのは、やっぱり親になることの恐ろしさだ。
なってみなければわからない。子供はとてもいいもの。確かに友人たち、ハルヒの家族を見ていると、それは伝わるし、わかるのだけれど、自分が親になれない人間だったというのもまた、親になってみなければわからないのだ。
ハルヒはもう生まれた人間だから自分の身を守るための身勝手な選択ができるが、生まれる前の人間は何も選択できないのだから気の毒だ。
ハルヒはもう大人になったから、親にならない自分でいることができるが、子供は子供でいなくちゃならない時間が長くて大変だな。
「ショート・ターム」で子供達の世話をするグレイスもメイソンも、ハルヒから見ると子供だ。だから、ずっと不安だった。
自分たちはもう、守られる子供じゃないと、彼らはいつ思ったんだろう。
親になる側の人間になったことを彼らはいつ知ったんだろう。
いつ、彼らは、もう子供じゃなくてもいいよと、子供の役目は終わったよと告げられたんだろう。自分に告げたんだろう。

映画の後半、わかった。メイソンはそれを家族から知ったんだ。養父母と義兄弟たちの家。
グレイスは、自分が守ってきたジェイデンという女の子に守られた時、知ったようだ。
ハルヒには未だお告げがこない。(耳をふさいでいる)


 
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『TATSUMI マンガに革命を起こした男』 2011 シンガポール
Dエリック・クー A:別所哲也

漫画家・辰巳ヨシヒロのドキュメンタリー映画のようなものを想像していたら、これはアニメーション映画だった。辰巳ヨシヒロの漫画がそのまま動く。何年か前から、こういう手法のアニメーションをみるけど(そっくりな絵の模写でも、切り絵でもなくCGで動かしているらしい)こうやってみると、漫画が優れた映像作品なんだということがよくわかる。紙の上の映画だということがよくわかる。
5編の短編漫画からなるこの映画は、その原作がハルヒが生まれる前に書かれていたとは思えないほど、大人のドラマ、大人のセリフ、大人の演出がなされている。
大人大人って、大人ってなんなんだってはなしだけど、このころの漫画といえば、手塚治虫やトキワ荘の漫画家たちの、冒険や夢いっぱいの子供たちの漫画のイメージがあるし、アニメといえば、ディズニーだ。
大人の話であっても、子供の楽しみの形に翻訳されたもがほとんどな中、こういう大人の話のアニメって、いまだにない。
ハルヒには難しい複雑で哲学的なアニメはいっぱいあるけれど、そういうのはどれもこれも、元は子供向けのアニメの作法にのっとってるんだもん。
時々、こういうアニメに出会うと、うわーアニメ作りたい!と興奮するハルヒだった。
つまりハルヒたち漫画家は、俳優でさえ自分で作り出す映画監督だ。
漫画がアニメや映画になるときは、その俳優には降りてもらうしかなく、よく似た、あるいはまったく別のタイプの俳優が演じてくれることになる。
自分の俳優が映画デビューできるなんて夢のようだ。
そして、この映画。ハルヒが一番驚き感心したのは、声を演じた別所哲也。素晴らしい!なんて独特な、声なんだろう。映画やドラマでお芝居を見たことはもちろんなんどもあったけれど、こんな声の持ち主だとは知らなかった。
冒頭、辰巳先生ご本人の語りがあるのだけれど、しばらくそのまま辰巳先生の自伝が始まったのだと錯覚をした。実際は短編が始まったところでモノローグは別所哲也に変わっているのだけれど、先生のすこししわがれた思慮深い声のトーンのまま、ほんのすこしだけ、それでも絶妙に演技に入った声に、フィクションの世界に入ったことを気づかせられなかった。そしてまた最後に声は辰巳先生の今のお声に戻っていく。
これがもし、日本のアニメ映画だったら、監督は、別所哲也の声に演技に気付いただろうか。
うろおぼえだけど、『風立ちぬ』の堀越二郎の声を探していた宮崎監督が、「そういう人」になろうとする人じゃなく、「そういう人」を探しているみたいなことを言っていた。
声、マンガ、アニメ、なんだか全てが、溶け合ったような映画だった。
 

 
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『ベイブルース 〜25歳と364日〜』 2014 日本
D:高山トモヒロ W:金田敬(監督補)A:波岡一喜 /趙?和/小川菜摘

ハルヒは「ベイブルース」という漫才コンビの漫才を見たことがないのだが、その名前は知っていた。『TATSUMI』をやってる映画館でそのあとかかってるえいがだったんだけど、「ベイブルース」という名前に、ああ、と思って見てみた。小さなスクリーンで50席くらいしかないのだけど、昼間割とお客さんが入っていて、彼らのファンらしい女の人が、どういうわけか映画館の人に、彼らの話をしたくてたまらないという感じで一方的に話しかけていた。
ハルヒが彼らをなんで知っていたかというと、友人の西田俊也の漫才師を主人公にした小説が(漫画化されたのち)Vシネマになった時、その主人公コンビを演じる予定だったのが「ベイブルース」だったから。結局その映画は「雨上がり決死隊」が主演した。

「ベイブルース」の二人が出会い、漫才コンビを結成し、新人賞を手にし、これからさらなる活躍を期待されるところまでのストーリー。「吉本印天然素材」が大人気だった頃の話だ。ナミオカイッキ(カズキ)がこの映画の監督でもあり、原作者の高山を演じ、相方の河本をチョウタミヤス。
ハルヒはほんと「大阪映画」ってずるいな〜と思うんだった。なんかしらないけど、ちょっと昭和の、ちょっとむかしの、ちょっと高校生の男の子たちがばかやってる、それだけでもうなんか映画になってしまう。面白い。ハルヒが字幕のフランス映画だったら、なんかしらないけど、どれも好きなような気がするのと同じ感覚なのか、大阪映画、なんかしらないけど、好き。
そして不思議なことに、ほんとうに大阪映画というのは、どんな監督が撮っても、血の繋がった兄弟のようによく似ている。
そんな大阪映画の主人公二人としては、ナミオカイッキもチョウタミヤスもハマりにハマっている。(チョウタミヤスは、おじさんが『ガキ帝国』のチョウバンホウ)
が、ハルヒは大阪映画が好きなだけに、大阪映画だからってだまされないよっていうとこもあって、この映画、欲張りすぎなところが気になる。欲張りすぎて、大阪映画のツボを押さえすぎてて、それが見えるのがかわいくない。欲張りすぎて、二人を描きたいのか、破天荒な河本栄得という男の子を描きたいのか、定まらない。視線が複数ある。
例えば、「ケンミンの焼きビーフン」みたいな高山の少年時代、昭和ノスタルジーから物語が始まるのだが、で、それはオガワナツミ演じる母親(すごくよかった!)とのエピソードにつながるのだけれど、そのうえ、物語のナレーションは少年の声なのだから、高山の物語だと思うとん良い流れのように思えたが、実は、高山がみた河本というかけがえのない友人を語るスタイルで進んでいくので、まだ河本と出会っていない、少年時代を映像で見せる意味はあまりなかったんじゃないかと。しかも、そのナレーションが、実は河本の少年時代の声だったとわかったときやっぱし、最初の高山の少年時代の描写いらなかったじゃん!と、スクリーンに突っ込んだのだが、その時ハルヒは鼻をズビズビ鳴らしてもらい泣きの最中だった。

「ベイブルース」は、さあ、これから!というときに、相方河本栄得が病に倒れる。その時、決まっていたのが西田原作の『ごんたくれ』の主演だった。映画ではそのエピソードは出てこないが、程なくして意識不明となった河本はそのまま戻ってこなかった。倒れてほんの数週間。
25歳って若いよな。まだ、ほんの25年だよな。
でもこうして相方が映画にして語り継いでくれてるの、よかったね。こうやって語り継ぎたい友達がいるって、高山さんよかったね。

 
 
 
 
ハルヒマヒネマ
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最近のハルヒの頭の中、日々をささげる王子様観劇日記
http://bookman.co.jp/serial-novel/boyslife/boyslife/

 
 
 
-ヒビレポ 2014年12月19日号-

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