笑いたい読書  第11回

逸材と惹句

木村カナ(レポ編集スタッフ)

 
 
 
 
 
book21

松岡修造
『人生を変える修造思考!』
アスコム

 
 今年に入ってから突如として、松岡修造氏のことが気になりだした。それまでは興味も何も特になかった。もちろん、メディアごしに顔と名前と経歴ぐらいは知ってはいたけれど。それなのに今や、氏がそこここに登場するたびに、アアまた修造だよ……といちいち気に留めずにはおれなくなってしまった。そんな心構えになってみると、いたるところに松岡修造がいる。テレビをつければそこに修造。修造、修造、修造、どこを向いても修造ばかりだ。

 そうやって修造が目につくようになったきっかけは、同居人の一言であった。
 わたしは昔から頭痛持ちで、天候に体調が左右されやすい傾向も元々あったのだが、それが年々悪化していて、低気圧が来るとてきめんに影響を受けるようになってしまった。ひどいときには寝込んで動けなくなってしまうこともある。病院に行って医者に訴えても、お天気とホルモンには勝てない、などと言われ、対症療法以外に打つ手なしの状況が続いていて、正直困り果てているのだけれど、そんな風に天候不順で完全に参っているときに、同居人が出し抜けにこんなことを言い出したのだ。
「今日はつらいかもしれないけど、松岡修造がもうすぐ帰ってくるから! だいじょうぶだよ!!」
 ハア? なぜ縁もゆかりもない、好きでも何でもない松岡修造がそこで出てくる?
 わたしはまったく知らなかったのだが、同居人によれば、松岡修造がいる地点のお天気が良くなる、晴れわたって気温が上がる、という話があるそうな。まあ都市伝説というか、ネット上のネタである。同居人もそんなこと信じているわけではないのだが、面白いから口にしてみたところ、有名なネタだと思っていたのに、わたしが知らなかったので驚いていた。
 その一言が飛び出して以降、我が家では、天気が良くないと思ったら修造が現地入りか、これから帰ってきたらきっと天気も良くなるよね、それで元気になるよね、云々といった会話が交わされるようになった。調子の良し悪しはお天気次第、お天気の良し悪しは修造頼み、いわば修造信仰とでも呼ぶべき有様が成立してしまったのであった。


 
 そんな修造信仰を心に秘めていたところ、いつだったかのレポ編集部の発送作業で、海江田哲朗さんと佐藤温夏さんが突然、松岡修造のことを語り合い出した。そこにえのきどさんも加わって、ひとしきり修造の話で盛り上がる盛り上がる。修造が気になっていたのはわたしだけじゃなかったのだ。さらに、「笑う本棚2014」で、林雄司さんが『人生を変える修造思考!』を紹介していて、それがすごーくおもしろそうで……ついに著書にまで手をのばすに至った。

 カバーや帯に熱く躍る売り文句。
「怠け者で、消極的な僕をポジティブに生まれ変わらせた方法」
「毎日をワクワク生きるための自己変革術」
「毎日がたのしくてしょうがない人生にしよう!」
 そのために具体的にはどういうことを? 林雄司さんが引用している「異次元に前向きな内容」「いつも心に富士山をイメージする」「怒りを覚えたら、頭の中で歌を歌う」「トイレでは出した後に便器に感謝する」を目次で確認し、あらためてのけぞった。
 
 そんなことできるのは修造、アンタだけだよ!と思いながら本文を読んでいくと、あれれ? 意外とまとも? 見出しの派手さに比べ、本文ではわりと当たり前に思えるようなことが書いてあったりするのだ。
「いつも心に富士山をイメージする」も、緊張をほぐすメンタルトレーニングの一手段として、大好きなものを思い浮かべる、それぞれで何でもいいと思うけど、そこで富士山を思い浮かべるのが修造流、っていう話だったり……うーん、なんだかギャップがあるなあ。でも、そこで富士山が出てくるあたりは、さすが修造というか何と言うか。天候にすらも影響を与える珍妙なまでに熱い男・修造、というイメージをまったく裏切っていない。おかげでわたしがそのメンタルトレーニングを実践しようとしたら、富士山を思い浮かべながら、瞑想している松岡修造、が思い浮かんで、ニヤニヤ笑い出してしまいそうです。それでも結果的に緊張はほぐれそうだから、それでもいいのか。しかしそれじゃあまるで、わたしが修造大好きなみたいで、なんかヤダ……。

 それにしても、林雄司さんも書いているように、この本ってば、笑わそうとして書いているわけじゃなくて、まじめに書いた結果、こういう本になってるんだよね? 松岡修造という素材がすごすぎて、笑わそうとはしていなくても、こういう本になってしまうんだろうか。富士山についてもそうなのだが、さすがは修造、と唸る本文をさらに引き立てる見出し、さらにはイラストの数々。「修造流鮨の食べ方」の3ステップ図解とか、もはや笑わせようとしているとしか思えぬ。

 本書は2012年の刊行なのだが、「おわりに」では、自分が錦織圭選手をどう指導したかが語られている。ああそうだ、今年、松岡修造がやたらと目につくようになったのは、錦織の大躍進があったからですね。錦織は来年もさらに活躍しそうだし、ということは、我が家の修造信仰は来年になっても続いてしまうかもしれない……。
 
 この稿を書くにあたって、松岡修造の最新情報を調べたところ、「まいにち、修造!」なる日めくりカレンダーが大ヒット中だそうだ。愛されてるなあ、求められてるなあ、修造!
http://shop.php.co.jp/php/goods/index.html?ggcd=820782

元気が出ない? 本気になれない? それなら僕に、あなたの毎日を応援させてください!!

 PHP日めくりに、日本の応援団長・松岡修造氏が登場! 公式ホームページから発信される話題の“修造語録”に、書き下ろしの新作をプラスした著者初の日めくり。31の熱い言葉と4つのスペシャルメッセージ、さらに本作のために撮り下ろした、著者ならではのユニークな写真を通じて、すべての日本人の毎日に元気と笑顔を届けます。

 「今日から君は噴水だ!」「自分を持ちたいなら、サバになれ!」

 朝、出掛ける前に眺めれば、その日を明るく前向きにしてくれる。帰宅後に眺めれば、疲れを吹き飛ばし、明日を元気に生きるための力をくれる。日々頑張る人はもちろん、心が折れそうになっている人、次の一歩を踏み出す勇気がほしい人を、松岡修造がありったけの本気の言葉で応援します。何かに頑張っている人へのプレゼントにも最適です。

……これはどう考えても笑わせようとしてるだろ! だけどまあ、このカレンダーがあったら、たしかに毎日が楽しくなるだろう、な。
 
 
-ヒビレポ 2014年12月18日号-

Share on Facebook